電子楽器用LSI TMS3631

一部で話題のFM音源ガチャですが、TMS3631という音源チップが入っていたようです。TMS3631はTI社ことTexas Instruments(テキサス・インスツルメンツ)が1980年代の初め頃(70年代?)に発売した電子楽器用のLSIです。

TMS3631は、PC-9801用の拡張ボードである、PC-9801-14に搭載されていました。エミュレータのMAMEではTMS36xxという実装がありますが、対応しているゲームはTMS3615かTMS3617だけのようにみえます。

・・・というくらいの情報しかネットにはありませんでした。どういうわけかデータシートも出てきません。そんなわけで、興味が出てきたので、国会図書館で調べてみたところ、トランジスタ技術1983年6月号 P261-273にとても詳細な記事が掲載されていましたので、永田町近くにお住まいの方は直接足を運び、遠方の方は遠隔複写サービスを利用するといいと思います。

これで終わりというのもなんですから、記事からの引用の範囲でまとめてみました。ちなみに記事の執筆者はZ80系書籍でも有名な吉田幸作氏です。

記事の参考文献に、TI半導体技術資料No.10(1982)や、TMS3631データシートが挙げられていますから、データシート自体は存在していたようです(当たり前か)。

  TMS3615 TMS3617
入力 鍵盤(スイッチ) 鍵盤(スイッチ)
音程 1オクターブ 1オクターブ
出力

全音ポリフォニック

ミキシング出力

全音ポリフォニック

ミキシング出力

フィート出力 8′,16′ 2′,2′2/3,4′,51/3,8′,16′
最大クロック 1MHz 2.2MHz
方式 OMTS OMTS
電源電圧 9V,12-15V 12-15V
  TMS3630 TMS3631-RI104,RI105
入力 マイクロコンピュータ 4bit×19 マイクロコンピュータ 6bit×8
音程 4オクターブ49鍵 4オクターブ49鍵
出力

全音ポリフォニック

ミキシング出力

8音ポリフォニック

8和音独立出力

フィート出力

4′,8′,16′,他にコード、ベース、モノフォニック出力

RI104:(2′,4′,8′,16′)×7+(2′)+1ch

RI105:(11/32′2/3,5′1/3,10′2/3)×7+(2′2/3)×1ch

最大クロック 1MHz 2.2MHz
方式 TOS TOS
電源電圧 11-16V 8-15V

TMS3631とTMS3630は同時発売で、それよりも前にTMS3615、TMS3617といった音源が出ていました。この辺の音源は、ノーティーボーイとかのアーケードゲームでも使われていました(ノーティーボーイはMAMEでも動いているのですけど、MAMEで動いている動画をみると音が違いますね)。
TMS3615については、データシートがネットにありました。

OMTS方式というのは、Octave Multiple Tone Synthesizerの略だそうですが、私にはなんのことだかさっぱりです。TOSはTop Octave Synthesizerの略だそうですが、こちらはもっとさっぱりです。Top Octave Synthesizerでググると資料が(英語で)色々と出て来るので、ちゃんと読めば、あーあれかというくらいの方式だとは思うのですが。

追記:Twitterで教えて頂きました。「OMTS方式というのは、MSN5232とかと同様の、アナログシンセみたいに倍音を重ねて音を作る方式」

フィート出力というのは、トラ技の記事に書いてあるので引用します。

~略~ 電子オルガンは様々な音色を出すことができます。~略~ 基本になっているのはフルート系の音です。米国ハモンド社の電子オルガンにおいて、8′(フィート),4′(フィート),16′(フィート)というフルートの音色をつけたのが始まりです。これは、電子オルガンの音色をパイプオルガンに似せた事によるのですが、パイプオルガンの音階は、パイプの長さによって変わります。そこで、C1の音のパイプの長さが8フィートであることから、C1の音が出る音階を8’としたものです。

つまり、4′は1オクターブ高い音、16’は1オクターブ低い音、10′2/3などは完全5度シフトされた音階・・・ということになります。

当時は、まだマイコン機の黎明期で音源が搭載されているものは少なく、大型のビジネス用のコンピュータには音源用チップを載せる必要がありませんでしたから、この頃の音源チップは電子オルガン用に開発されていたという歴史的な経緯を知っておくと理解が早いかもしれません。

TMS3631のブロックダイヤグラムと、TOS+分周器の構成図はこちら。

ブロック図

詳しいことは記事を参照してもらうとして、大雑把には、WCLKに合わせてキーを送ると各CHから信号が出る、みたいな作りのようです。CH1は2フィート、CH2-8は8フィート出力(1オクターブずつ違う4種類の信号)が独立しています。つまり、それぞれを信号を調整して最終的にミックスするという回路を作らなければなりませんが、それぞれの信号に対してエンベロープをかけるといったことが出来るわけです。

タイムチャートはこんな感じですが、これだけみてもよくわかりませんので、やっぱり記事を参照してもらうということで。

タイミングチャート

最近はPSGやFM音源をPICやAVRマイコンなどに繋げて鳴らすという楽しみ方をされている方がいるので、ざっと電気的な特性について説明をします。その前にピン配置図を。

ピン配置

40ピンパッケージですが、ピン間隔が0.07inchとなっていて、一般的なユニバーサル基板やICソケットには入りません。電源電圧は-15~-8Vです。TMS3631はP-MOSで、Hレベルが0~-0.8V、Lレベルは-4V~VDDですから、TTLレベルのマイコンに接続するにはレベル変換が必要になります。トラ技の記事では電源には-9Vを供給して、レベル変換にはコンパレータのLM339を使っています。
なんだかこれだけでちょっと面倒かな・・・という気分になるのですが、音源からの出力がミックスされていない=自前でミックスしなければならないというわけで、ここでもまた大変なことになります。

詳細な画像は諸事情により控えたいのですが、以前、TwitterにUpした画像があるので、それをみてもらうとわかるように、抵抗とダイオードのオバケになってます。

この回路を作るには最初から心が折れそうな仕様ですネ。この音源を搭載したPC-9801用増設ボードのPC-9801-14で鳴らした曲をUME-3さんがUpしていて、味わいと懐かしさのある音を聴くと、他の曲でも聴いてみたくなってくるので、ぜひ、どなたか実際に回路を作って頂きたいものです。

[追記] ツイッターのハッシュタグ「#PCー9801ー14の音色を残す」で検索すると、PC-9801-14を使ったフラッピーの曲を見つけることができますよ。

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