MZ-700

 あるRTで、新潟在住のメンバーが「MZ-700を見つけたけど買って送ろうか?」と言うので、ほんとはMZ-1500があるから無理にはいらないんだけどなー、とか思いつつお願いしました。が、程なく送られてきたMZ-700を見て発売当時の欲しくて欲しくてたまらなかったあの気持ちが今かなったような気分になりました。なにせあの頃は夢にまで出てきましたからねぇ(なぜかMZ-700がポストに入っていて、『誰からかなんて関係ないや、ラッキー』とか思って両手に抱えていたのですが、次第にその感覚がなくなって、目が覚めたという…)。購入・発送をお願いした彼には後日代金+送料で4000円を支払いました。
 これとほぼ時を同じくして、電脳倶楽部でMZ-2500のフルセットが「あげます」で出てきました。私はこれ幸いと5インチドライブのMZ-1F07のみを希望し、獲得しました(本当は別の人に全て渡る予定だったのですが、ご厚意でこれだけ譲ってもらいました。まぁフロッピーの入手性からしても今更5インチというのもあっても仕方ないんで、これで良かったのかもしれません)。
 本体とFDDがあってもI/Fを入れるI/Oボックスがないと接続できないので、アイビットに問い合わせてみると中古品があるとのこと。早速週末に出かけてゲット(6000円)してきました。マニュアルも箱も、そして電源キーも欠品になっていましたが、電源はON状態でキーが抜けていたのでとりあえず使用できます。店主は探しておくと言ってくれたのですが、結局連絡がありませんでした。今はキーを分解してちょっと細工を施し、フロッピーケースの鍵をつっこんであります。これがサイズもみんなぴったりで、おかげで本体・FDD共いっせいに電源ONできるようになりました。
 写真を見るとMZ-731相当ですが、実際はMZ-721にプリンタのMZ-1P01を取り付けてあるものです。まぁ見た目は同じなんですけれども。
 ところで、写真撮影のためにセッティングを解いていたら、FDDの電源で漏電してるのに気づきました。コンセントひっくり返しても治らないので、本格的でしょうか…FDDをばらして電源の埃でも取ったら治るでしょうかねぇ…。

MZ-700のエミュレータについて

 MZ-700はその安さから始めて買ってもらった/買ったパソコンに挙げる人がたくさんいる機械です。これで我慢したというひと、大作を作って雑誌の編集部を慌てさせた人、輝かしい青春の一ページに飾られている人など、MSXなどと並んで入門機として人気がありました。そういうマシンですので、エミュレータがあるのです。

ドイツの方が作成したエミュレータです。WindowsのDOS互換BOXでも動作するようです。欧州仕様のマシンを再現しているはずなので、キーアサインなどが違うと思います(実は試してない)。
 svgalibを使用する専用版で、最近現れたいくつかのエミュレータの元になっています。
 上記Linux版を素直に移植したところパフォーマンスがあまりに悪かったので別のZ80エミュレータを探してきて作りなおしたという日本のまるくんの作品です。欧州仕様にあわせたエミュレータがここから取り出せます。
 MZ-700だけでなく、SpectrumZXやTRS-80なども含むマルチエミュレータを目指して作られています。…って、上記まるくん作エミュレータ欧州仕様と同じ場所なんですが。他の窓にレジスタ情報を表示するなど、エミュレータ環境ならではのソフトです。

スペック

CPU Z80A(3.6MHz)
ROM 4KB(モニタ)、4KB(キャラクタジェネレータ)
RAM メインメモリ64KB、4KB(V-RAM)
キーボード ASCII準拠キー配列
上下左右独立カーソルコントロールキー
ディファイナブルファンクションキー
INST(インサート)、DEL(デリート)キー
ディスプレイ
(オプション)
画面構成40桁×25行
グラフィックフォント 80×50 カラー8色
家庭用TVまたは専用モニタを使用
●家庭用カラーTV接続用RFモジュレータ内蔵
●RGB端子付
●コンポジット端子付
インターフェイス プリンタインターフェイス・カセットインターフェイス内蔵
データレコーダ
(オプション)
本体内蔵型、転送方式シャープPWM方式、
転送速度/1200bit/s・オーディオカセットテープ使用
プリンタ(オプション) カラープロッタプリンタ本体内蔵型
スピーカ 内蔵 音声出力 最大 500mW
時計機能 内蔵
電源 AC100V±10% 50/60Hz 消費電力 20W
使用状態 温度/使用時0℃〜35℃、保存時-20℃〜60℃
湿度/使用時85%以下
外形寸法・重量 MZ-731:440(幅)×305(奥行)×102(高さ)mm・4.6kg
MZ-721:440(幅)×305(奥行)×86(高さ)mm・4.0kg
MZ-711:440(幅)×305(奥行)×86(高さ)mm・3.6kg

背景

 1982年は、翌年にMSX規格発表を控えて、パソコンがブーム化しますます新参パソコンメーカーが増えてきた年でした。「初心者用」と銘打たれたパソコンはますます低価格化し、シャープをはじめとする古参メーカーは旧来機種との互換性やスペック的な完成度を考えるとなかなか安いものは作れず、苦しい戦いを強いられていました。そういう情勢の中で、MZ-80Kシリーズのソフトの互換性をできる限り考慮しながらそれまでのユーザーの不満を解消しようと発表されたのがMZ-700です。
 まずなんといっても大きな変更点はカラー化されたことです。カラーになるとCRTを内蔵するにはコストが高すぎますが、これを嫌ってCRTを外付けとしました。従ってオールインワン設計を通してきたこのシリーズとして初めてセパレート(まだ内蔵する機器は多いんだけど)型になりました。また接続するCRTはデジタルRGBだけでなくコンポジットビデオやRF出力によって家庭用テレビも選択できるようになりました。本体の価格と相まって、入門者が手を出しやすい環境にしたわけです。が、実はカラー化といっても相変わらずグラフィックは使用できませんでした。わずかにキャラクタとその背景が文字単位で、そしてボーダーエリアとが独立して色がつけられるようになっていただけでした。しかしながらMZ-80K以来の豊富なキャラクタ群によってかなり多彩な表現が可能にもなっていました。本体に添付されていたデモプログラムには、チェッカーのキャラクタを使用して擬似的に中間色を出すものも含まれていました。
 本体にはデータレコーダの他、プロッタプリンタも内蔵できるようになっていました。これはポケコンPC-1500のオプションで製品化された簡易なカラープリンタで、ペンの左右の動きをX軸、紙の上下の動きをY軸として本来高価なプロッタを安価に実現したものです。黒・赤・青・緑の4色のボールペンをヘッドに装着して、コマンドでヘッドが回転しペンの色を交換できるようになっていました。モニタには画面出力をプリンタにも振り向けるコマンドがあって、これを使用すると限定的ですがCRTなしでも操作が可能になりました。低価格化のため、このプロッタプリンタとデータレコーダをそれぞれをオプション扱いとしたモデルが三種類用意されていました。
 プロッタの内蔵化に併せて、プリンタのI/Fも標準装備されました。これについてはこれまでの機種ではオプションが当たり前だっただけに、単なる低価格マシンではない印象を与えました。
 キーボードはタイプライタフェイスが引き続き採用されましたが、MZ-80C/1200とは違うもので、より標準的なASCII配列に近くなっています。ただ基本的な記号の一部がSHIFT併用で入力しないといけないのを軽減するため、カッコや加減乗除がSHIFTなしの位置に移動されました。さらに配列が覚えられない人のためにカナがアイウエオ順に並び替えられました。
 モニタROMはカラーや新配列のキーボードのために1Z-009Aが新しく作られました。これはメモリエディット等が可能になるなどSP-1002と比較して機能が強化されました。それにもかかわらず代表的なエントリアドレスはSP-1002に合わせられたため、多くのMZ-80K/C用ソフトがそのまま動くなどかなりの互換性が確保されたのです。しかしながら未公開サブルーチンを使用したプログラムやキーボードの配列に強く依存するゲームなどには不具合が出るものもありました。
 宮永好道著「パソコンの裏事情」によれば低価格化のために取った方法、つまりCRTの外付け化などの方策は妥協の産物であったそうです。完成度をウリにしていたMZの開発陣の悔しさやいかに。

 ヨーロッパではVIC-1001やスペクトラムZXなどの対抗機種として販売されました。低価格機として位置付けされたこともあり、かなりのユーザを獲得したようです。が、どうもユーザ層としては初心者だけでなく中級者も多かったようで、特にZ80を採用していたこともあってCP/Mへの要望が多かったようです(FDDと80桁表示画面が必須となる)。そしてついには拡張ボードに増設ビデオを搭載したボードが現れ、それを標準で添付した「MZ-780」というものが存在したという未確認情報まであります。

 日本国内では大ヒットというほどの売れ行きでもなかったこともあり、ソフトの売上が伸び悩みました。また、ホビーあるいは初心者向けというコンセプトの意識が強すぎたのか、セルフでの開発環境を構築するためのソフトのサポートも遅れました。そして拡張I/Oボックスの発売まで遅れてしまいました。業を煮やしたユーザーの一部はMZ-80I/Oをケーブル加工して接続する行動に出ました。MZ-80I/Oが接続できればMZ-80FDも接続できますので、ディスクBASICやFDOSを使用することが可能になります。これが雑誌に紹介されると、かなりのユーザーが同じ工作をしたと思われます(それなりに高価でしたので数は限られたと思いますが…)。
 発売から1年以上経って、ようやく拡張I/Oボックス「MZ-1U03」が発売されました。MZ-1U03には5Vを1Aまで流せる出力と12Vを印可できる入力がそれぞれ6つ装備されているという、変わった構成の商品でした。ホームオートメーションのまねごとをしてみよう!というのがコンセプトのようでした。さらには鍵式の電源スイッチがあって、人には触らせない自分だけのパソコンという「背伸びしたい子供」に的を絞ったようなギミックが備わっていたのです。
 MZ-1U03はMZ-80B/2000シリーズの拡張ユニットと同じサイズのボードが使えるよう設計されていました。それは逆に言うとMZ-80K/C時代のボードは使えないということです。CPUクロックが違うので確かに動作を保証するわけにはいかないのですが、ソフトが未整備であることもありMZ-2000のボードはほとんど使えず、またしてもユーザーを待たせる事態になりました(昭和57年11月のパンフには、発売予定ながら拡張ボックスとコンパクトフロッピードライブが接続系統図に現れています。コンパクトフロッピードライブは発売されなかったため、このトラブルが影響して各商品のスケジュールが狂ったのではないかとも想像されます)。
 ようやく春になってFDDが発売になりました。待たせるだけ待たせておいて、実はMZ-2200に合わせて発売されたMZ-1F07を使用することになっていました。このドライブに同梱されているI/Fボードには空きICソケットがあって、ここにMZ-700用ディスクBASIC(MZ-2Z009)に付属するROMを挿し込むことでブートできるようになるのです。このディスクBASICには純正RS-232CであるMZ-8BIO3/MZ-1E24を制御できる命令が備わっています。このように新展開を見せたMZ-700ではありましたが、わずか一月後にMZ-1500が発表され、ホビーパソコンの主役の座を譲り渡したのです…。

 MZ-1500発売後もMZ-700のサポートはそれほど緩められませんでした(MZ-1500との互換性が高かったからということもあるでしょう)。注目を集めたクイックディスクは外付けドライブの形でMZ-700にもサポートされました。但しあまりコストをかけないユーザーを狙ったのか、拡張I/Oボックスには装着できない形式のI/Fボードを採用しました。またQDメディアで発売されたシステムプログラムはMZ-700にも対応するように配慮されていました。

 発売終了後数年してから、MZ-700の評価がひっくり返る事件が起こりました。1986年秋、Oh!MZ誌に「tiny XEVIOUS」として古籏一浩氏があのゼビウスを投稿したのです。読者の第一印象こそ「MZ-700でゼビウス?!」と半ば冗談のようなものでしたが、中身はマップデータを全てオンメモリで格納したりキャラクタゆえの高速表示を実現したり、吟味されたキャラクタの選定、研究し尽くされた色使いなどMZ-700の特性をうまく活用したものになっていました。特に記事中で紹介された画面写真に写るアンドアジェネシスの美しさから多くの読者が入力し、出来映えに賞賛の声が集まりました。
 その後も古籏氏は多くのソフトをMZ-700向けに発表し、ついには「MZ-700に不可能はない」と言わしめるまでに至りました。これは、プログラムの良否はハードの性能ではなくゲームならばゲーム性、実用ソフトなら実用性が最も優先されるということ、そして決してそれまでのパソコンにとって全ての性能を引き出したソフトというのは多くないということを示唆した好例ではないかと考えられます。


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