PC-6800
世界初の、TFT液晶内蔵ノートパソコンです(正確にはその内蔵メモリの量をアップさせた上位機です)。「怨み晴らさでおくべきや〜」というわけで、オークションで出品されたものをすかさずゲットしました(「怨み」については後述)。元々強い筐体ではないので、けっこうあちこちに「割れ」が入っています。特にフタの蝶番のところがひどくて、ちょっとの角度ですぐ検出スイッチにひっかかってサスペンドに入ってしまいます。それ以外は悪くない状態ですね(ネジ隠しのゴムが溶けてるとかあるけど、補修可能範囲内のものは気にならないものです)。
さて、時は1993年。AX286Nに関わる騒動にようやく目処が立ちそうな頃、知人から共同でのPCパーツ類の輸入の話を持ちかけられました。知人達は購入目的がHDDだったりケースだったりしたのですが、話を持ちかけた一番の理由は同じ荷物にまとめてもらうことで輸送費を分け合い安く済ませようということでした。
この話を持ちかけられて、私はパーツではなくノートパソコンを希望しました。というのも、実はこの年の初めくらいからComputer Shopperという雑誌をほとんど毎月買って読んでいたのですが、この雑誌に広告を出しているあるショップにあるPC-6880やらそれと同系列のマシンが異様に安かったからです。
1992年のいわゆる「コンパック・ショック」以来DOS/Vマシンと呼ばれるパソコンを扱う店が増えて、日本橋でもついにはJ&Pまで専用のコーナーを設けるまでになりました。それまでもそこそこの大きさだった「テクノランド」の隣のスペースを使って倍の面積に拡張、日本でも最大級のパソコンショップが誕生したのですが、その4階だったかにDOS/Vパソコンの専門コーナーができたのです。本体はもちろん周辺機器や細かいパーツ、ソフト、書籍を並べてPC-98とは違う世界の存在をアピールしていました。例えば最初DELLは日本での足がかりを作る前に三井物産と提携、秋葉原にショールームを設ける以外は直販のみという姿勢(これは今でもですね)だったのですが、誰がどのように説得したのかJ&PのそのコーナーにDELLのパソコンが置かれて、他のメーカーと同じように買って帰ることができるようになっているなど、大型店ならではの特徴を出そうとしていました。
そのDOS/Vコーナーの書籍のところに、輸入雑誌としてComputer Shopperが置かれていました。ソフトバンクがその昔出していた「Computer Shopper Japan」は見た目もごく普通の大きさの雑誌だったのですが、本家のComputer Shopperはタブロイド版ほどの紙面が数百ページくらいあって、それこそ電話帳を売ってるような感じでした。最初は興味本位で買ってみたものの、読んでみるとそれだけで海の向こうのパソコン事情がわかったような気がしてなかなか面白かったのです。もちろん全て英語で書かれていて記事をすらすらと読むことなどできなかったのですけれど、この雑誌は記事よりもむしろ広告に価値があるようなもので、広告だけを読んでいても十分楽しめました。どうせPCといえばPC/AT互換機なのですから詳しく仕様を説明する必要もなく、おおざっぱなスペックを並べればそれで十分でした。ですから英語がそれほどわからなくても読めるものだったのです。初めは一冊2000円〜2500円くらいしていましたが、そのうちソフマップが大量に輸入するようになると800円程度に落ちました。日本でComputer Shopperを読み始めた一般人としては私はかなり早い方だったのでしょうね。しばらくするとパワーユーザーの必読誌として定番になりました。日本でもDOS/VやPC/ATが一定の地位を確保し情報もいろいろ得られるようになった1994年末くらいまで購読しました。Gateway2000とAMBRA(IBMの子会社だったそうな)の熾烈な安売り合戦も誌面で拝見しました。
そのComputer Shopperに、特に日本メーカーのノートパソコンをたくさん取り扱うショップがいくつかありました。もちろん私の興味はシャープのパソコンにあったのですが、その中に"PC-6880 $2199"とかいうのがありました。PC-6800/6700はシャープがAXからDOS/Vに切替える過程にあるノートパソコンで、特にPC-6800は「液晶のシャープ」がノートパソコンとして初めてTFTカラー液晶をディスプレイに採用したマシンとして知られていました。Computer Shopperを見るまでは日本国内仕様の物しか知らなかったのですが、そのPC-6881Jはなんと定価948000円。とても簡単に手が出せるものではありません。しかしComputer Shopperにある海外仕様のものは日本円で20万円そこそこ。なんと1/4の価格です。一方は定価、一方は売値としてもあまりに差がありすぎます。これが内外価格差か…と思い知ると同時に、それを利用して輸入すれば日本国内での高級機が安く手に入ることに気づきました。でも直接このショップに申し込むのは気が引ける、というかそもそも応じてくれるかどうかもわからん、どうすれば…と考えていた時に、「共同輸入」の話が出たのです。
HDDなどを注文する相手のショップはパーツ関連が専門なのでどうかなぁ…と最初は知人も心配していましたが、ショップ曰く完成品でもOKということだったのでお願いすることになりました。が、なかなかその次の情報が来ない…。やっと途中経過が報告されたと思ったら、知人のパーツの一部と共にPC-6800もまだ入荷してないとのこと。それからまたじりじり待たされ、ついには私の注文以外はみんな揃ったとの情報が届きました。
日本でもショッキングな事件がありました。なんとシャープがパソコンの生産から撤退するというのです。DOS/Vパソコンは安さで勝負、でも性能はちゃんとあるということですでに価格競争が始まっていました。特に海外メーカーと対抗するには日本国内で生産するのは得策ではないのです。アーキテクチャ的にオリジナルのもの、具体的にはX68000シリーズとワープロ「書院」以外はOEM供給に切替えるということで、デスクトップは三星、ノートはTwinHead(台湾)の製品をシャープブランドで売ることになったとそれを報ずる新聞記事にはありました。一時期シャープやEPSONなどいくつかのメーカーがまったく同じデザインのノートパソコンを売っていたことがありましたが、あれがTwinHeadのノートパソコンです。
この余波がすでにアメリカに到達していました。ついにショップが音を上げ、「見つからない」と言ってきたのです。知人は「もう一回しっかり探してくれ」と注文をつけていましたが、国内でのこの報道で私はあきらめました。まぁこういうことがあったがゆえにオリベッティのPCを買い、オリベッティ・ユーザーズ・グループを立ち上げることになるのですから、わからないものです。