S1668D Titan Pro ATX / TYAN


CPU Type:Socket 8 *2

Chip Set:82441FX + 82442FX (440FX) + 82371SB (PIIX3) + S82093AA(APIC) / Intel

FSB Clock:60, 66MHz

RAM Module Type:72pin Burst EDO/EDO/Fast Page Mode DRAM SIMM *8

Ext.Slot:32bit 33MHz PCI *4, 32bit 33MHz PCI/ISA *1, ISA *2

Power Supply Type:ATX

Board Form:ATX

BIOS:Award Modular BIOS v4.51PG


 1996年5月に発表されたIntel 440FX(Natoma)チップセットを搭載するDual Socket 8マザーボード。

 基板レイアウトと配線パターンのあまりの美しさに目が眩んで(笑)、使うあてが皆目無いにも関わらず購入してしまった、往年の名作である。

 フォームファクタはシングルデッカーのATXで、電源も当然ATX対応である。

 バリエーションモデルとして、チップセット及びメモリソケットやスロット類のレイアウトはそのままに電源回りの設計を変更してDual Slot 1対応としたS1682D Tahoe 2 ATXが存在する。

 1995年11月のPentium PROのデビュー時に用意されていたIntel 450GX(Orion)、450KX(Mars)の2種のチップセットが明らかにサーバでの利用を指向していたのに対し、こちらは主にワークステーションでの利用を念頭に置いた、言ってみれば同時期のPentium用チップセットであるIntel 430HXや430VX(Triton II)の兄貴分とでも言うべき性格の製品であり、事実サウスブリッジである82371SBをこれらと共用している他、メモリインターフェイスの仕様もこれら、特に430HXとの共通性が高い。

 逆に言えば、Socket 8用として先行した2つのチップセットに見られた特徴的な機構、例えばメモリのn-Wayインターリーブ機構や、2chのプライマリPCIバスコントローラの搭載等は一切オミットされていたという事で、2CPUのSMP対応とメモリ搭載上限が430HXの倍に当たる1GBとされた事、それにIntel純正チップセットでは唯一の実装例となったBurst EDO DRAMのサポートにのみ、その本来の素性を明らかにしていた。

 このボードは440FXの持つそれらのハードウェアスペックをフルに充足可能な様に設計された製品で、オンボードデバイスこそ標準的なものに限られた(但し、先述の通りサウスブリッジが430HXと同じ82371SBなのでこの時期の製品には珍しくUSB端子が用意されている。もっとも筆者が試した範囲では正常動作しなかったが)が、2つのSocket 8に2つのVRMソケット(余談であるが、このボードのコネクタ配列がシングルデッカーとなったのはこれらのVRMの取り付け位置に理由があり、背の高いダブルデッカーだとVRMのコンデンサが位置的に確実に干渉する為である)、それに8本のSIMMソケットがATX規格で許される最大サイズの基板上にぎっちりと、けれども極めて整然と並べられており、非常に良く考えられた美しいレイアウトとなっている。

 同時期の他社製同クラス品の中には、上手くレイアウトし切れなくてマザーボード上に垂直に挿されたライザーカード上にSocket 8を並べた物があった事や、そうでなくともSIMMソケットを削って4本のみとした製品が多かった事を思うと、チップセットを構成する各チップの配置に全く無理や無駄が無く、しかも配線パターンが目で見て判る程に美しいこのボードのデザインは、Socket 8時代を代表する逸品と呼んで差し支えあるまい。

 ちなみに5本並んだPCIスロットはマニュアルの記述によれば全バスマスタ対応で、Intelが公表した440FXチップセットのサポートするPCIバスマスタデバイス数が4つ(正確には5つだが、内1つはサウスブリッジである82371SB(PIIX3)が消費する)であるのに反するが、詳細は定かではない。

 何にせよ、このボードの設計や造りは1996年という開発時期を考慮しても相当に高級な部類に入り、特にコンデンサについては別付けのVRMを別にすれば、ボード上に実装された物はUSBコネクタ付近の2本とCPUソケット間の1本の合わせて3本のケミコンを除くと、その殆どが高性能且つ長寿命だが恐ろしく高価なタンタルコンデンサで構成されるというとんでもない設計になっていて、速度はともかく信頼性や耐久性という観点では今時の殆どのマザーボードを寄せ付けない、破天荒に高品質な製品である。

 無論、その分生産コストは大幅に跳ね上がっており、普通のSocket 7マザーボードが2万円以内で買えた時期に、SCSIもLANも無いのにその3倍強という空恐ろしい値段で販売されていた訳なのだが、このボードをじっくり眺めていると、まぁそれも仕方ないか、などと何となく許せる気分になってしまうから不思議である。

 只、電源管理がどうのという考え方が一般化する前の製品、それもBIOSがBaby AT版の姉妹機種であるS1662 TITAN PRO ATと共用である為、Windows 2000ではシャットダウン時に自動で電源が切れないという問題があるが、こればかりは致し方あるまい。

 なお、筆者の入手したボードにはCPU用電圧レギュレータモジュール(VRM)として、9つのケミコンと2つのレギュレータを実装した、いかにも強力そうなCORSAIR MICROSYSTEMSのSP52P6TSという製品が2つ付属していたが、これが当初より付属していた物かどうかは定かではない。

 また、このボードはReal Time Clock(RTC)が電池内蔵のDALLAS製DS12887Aである為、そろそろ電池切れによるトラブルが発生する時期に差し掛かっているが、幸いこれは基板直付けではなくソケットに実装されているので(同一型番のRTCの新品さえ入手出来るならば)交換可能である。

 余談になるが、このボードを生産していた頃のTYANはその本拠を今のFremontではなく、Milpitasに構えていた。

 同じ頃MilpitasにあのNexGen(AMD K6の基となったNx586を開発したx86互換CPUメーカー。96年にAMDに吸収合併完了)が存在していた 事を考えると、NexGenのNx586用リファレンスマザーボードの製造元や、後年AMDがAMD-760MPの開発パートナーにTYANを選んだ理由について、色々想像を逞しくする事が出来よう。


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