PC-FXGA / NEC HomeElectronics
Type:PC-FX ゲームアクセラレータ
動作確認マシン:PC-9821As2/U8W、PC-9821Xa9/C8、PC-9821Xv13/W16、PC-9821RvII26/N20、PC-9821Ra300/M40
Bus:C Bus (16bit 10MHz)
1995年12月に発売された、NEC HomeElectronics最後のゲームコンソールとなったPC-FXの機能±αを凝縮する驚異のCバスボード。
姉妹モデルとしてPC/AT互換機のISAバススロットに対応するDOS/V版(フルサイズの長い1枚もの基板で、ジョイパッド端子や映像出力・音声入出力はブレイクアウトボックスで対応する希少品。ちなみにPCIバス対応版の開発も予告されていたがこちらは結局製品化されずに終わっている)が存在する他、先行モデルとしてこのボードからHuC6273とその周辺チップやS映像出力端子を外してバッテリバックアップメモリを搭載したFX-98IF PC-FXボード(建前としてはCanBe用という事になっていた)が存在している。
“±α”と記したのはこのボードにはバックアップメモリが搭載されておらず(これはPC側のDOS上のファイルで代用される。取り扱いがやや面倒だが、逆に言えばバックアップが無制限に取れてしかもセーブデータ改造も楽という他に代え難いメリットが生じている)、更にCD-ROMドライブも内蔵されていない(故に音楽CD、フォトCDの再生機能が省略されているし、ゲームCDの自動起動もサポートされていない。但し、その反面本来のPC-FXのスペック(2倍速)を超えた高速なCD-ROMドライブを利用可能というメリットがある)その一方で、本来のPC-FXには無い3Dグラフィックアクセラレータが追加搭載されており、Cバススロットを搭載するPC-9800シリーズ本体に実装しMS-DOS上でMSCDEX.EXEからCD-ROMドライブにアクセスできる環境を(そうしてNTSC信号を表示可能なモニタ/テレビを)用意すれば本来のPC-FXのソフトが全て使用可能であるのに加えて、専用開発環境(GMAKER)で3Dポリゴンを使用したソフトを開発出来たりパッケージ同梱のDoGA GINIE(プロジェクトDoGA製作)でCGアニメーション製作が可能であったりといった付加価値を備えている。
ちなみに3Dグラフィックアクセラレータとしてはハドソンとクボタコンプス(元々はクボタ(旧久保田鉄工)の電子・メカトロニクス事業部門で、1986年に分社した)の共同開発によるHuC6273というチップがHuC6271と共にヒートシンクの下に搭載されているのだが、このチップを共同で開発した両社は後に三信電気と組んでGSHARKと称する組込み機器や携帯電話などの携帯情報機器向けに特化したハードウェア2D/3DグラフィクスエンジンのIPコアを開発しており、HuC6273はその機能や仕様(PC-FX本来のそれとは互換性がないが遙かに強力なスプライト機能を実装し、さらにZバッファ、フラットシェーディング、疑似シャドウ、疑似スポットライト、テクスチャマッピング等の一般的な3D描画機能をサポートする)、それに開発経緯から、このGSHARKの直系の祖先に当たるものと推測される。
この製品はその実装すべき部品点数の多さから基板がメインボードとサブボードの2枚(それもサブ基板は表裏両面にチップが表面実装されてさえいる)で構成され、メインボードにジョイパッドI/Oと電源コネクタが、サブボードに映像出力・音声入出力コネクタが実装されている。
各ボード上の搭載チップは以下の通り。
メインボード(PWH-6020):
μPD70732GD-25(V810) / NEC
32bit RISC CPU(21.475MHz駆動)
424800-70L / NEC *4
70ns 512KB DRAM *4 (メインメモリ:2MB)
μPD65631GDE45 / NEC
バスコントローラ
μPD65641GM107 / NEC
メモリコントローラ
MSM538022C-E5 / 沖電気
1MB Mask ROM
HuC6204 / ハドソン
クロックオシレータ(42.95MHz)
HuC6272 / ハドソン
グラフィックコントローラ(BG・データ転送)
424260-70 / NEC *2
70ns 512KB DRAM *2(フレームバッファ:1MB)
LH5496U-35 / シャープ
512 x 9 FIFO
サブボード(PWH-6021:表):
HuC6270 / ハドソン
グラフィックコントローラ(BG・スプライト描画)
HuC6271 / ハドソン
MotionJPEGデコーダ
HuC6273 / ハドソン・クボタコンプス
グラフィックコントローラ(3Dポリゴン・拡張スプライト描画)
HuC6230 / ハドソン
サウンドコントローラ(ADPCM・PSG・ミキサ・DAC)
HSRM20116LF / ハドソン
Dual Port DRAM(VRAM)
MSM511664AL-70J / 沖電気
70ns 128KB Fast Page Mode DRAM
MSM511665A-70 / 沖電気 *2
70ns DRAM
サブボード(PWH-6021:裏):
HuC6261 / ハドソン
グラフィックコントローラ(パレット・プライオリティコントロール・RAMDAC)
HuC6270 / ハドソン
グラフィックコントローラ(BG・スプライト描画)
HSRM20116LF / ハドソン
Dual Port DRAM(VRAM)
HSRM2264LM90 / ? *2
?
HM514900AJ7 / 日立 *2
70ns 576KB(パリティ含む?) Fast Page Mode DRAM *2(HuC6273ワークRAM)
上に記した各チップの使途に関してはパターントレースなどによる推測が多く含まれており信頼性が低いのが申し訳ないが、このボード固有の拡張機能を支えるHuC6273とこれに関連するRAMチップ(実装位置から推測してHM514900AJ7・MSM511664AL-70J・MSM511665A-70の計5チップ。Zバッファやストライプ等、各機能毎に独立してRAMを利用する構成を採っていると考えられる)以外は恐らくPC-FX本体と共通の筈である。
これはかなり複雑かつ冗長なアーキテクチャを備えており、特に各グラフィックコントローラごとに細切れにワークRAMあるいはVRAMを持つ構成から各グラフィックモード・機能はプログラミングの自由度が低い事が予想され、事実BG画面はHuC6270 *2・HuC6272の合わせて3チップ(およびそれぞれが管理するVRAM)にまたがる為に各プレーンの最大発色数やそれぞれでサポートされている描画機能に制限が多数存在している由で、加えてスプライト描画を担当するHuC6270については2セットが別々に動作するという不可解な構成(HuC6270は元々PC-Engineに搭載されていたチップで、これらにもBG描画機能が割り振られているのは、単に元々搭載されていた機能を無効にしなかっただけの事らしい)で、表示可能パターンのサイズや同時描画可能パターン数上限等にかなり奇怪な制約が存在している。
このあたりを冷静に考えるとHuC6272とHuC6273があればHuC6270 *2は不要な訳で、PC-FXがこれらの8bitマシンと同じグラフィックコントローラを搭載するという理不尽な仕様でデビューしたのは、あるいは本来搭載を想定してクボタコンプスと共同で開発が進められていたHuC6273が94年クリスマスのPC-FXデビューに間に合わなかったが故の緊急避難的判断だったのかも知れない。
実際、HuC6272 − HuC6273 − HuC6271のトリオで構成すればPC-FXのグラフィック周りはかなりエレガント且つ合理的な設計(特にVRAMは無駄な重複が省ける)となった筈で、プログラミング面でも余程楽が出来たと考えられる(特にスプライトはHuC6273のそれで漸く当時の世間並み(拡大縮小や回転をサポートし、表示個数の制限も事実上存在しない)であるし、3D描画もこのチップがあればPlayStation程ではない(PSは36万ポリゴン/秒だがHuC6273でも10万ポリゴン/秒の演算性能を備えている)にせよ問題なく実現できる)から、PC-FXが当初よりこの構成でデビューしていたならば当時の「次世代機」市場における同機の位置づけやその後の展開はかなり異なったものとなっていたのではないだろうか?
いや、むしろそれどころかHuC6273搭載&HuC6270省略構成でデビューしていたならば、PC-FXはSEGA SATURNやPlayStationと比べてまず勝てないけれども致命的に悪い程ではない程度(CPUのMIPS数で単純比較する分にはPlayStationやSEGA SATURNに劣るが、V810はコード長16bitの32bit命令などかなり特徴的な命令セットを備えており、メモリの利用効率を勘案すると性能的にはそれ程悪くはない)の演算・2D/3D描画性能に加えて両機を凌駕する動画再生機能を備える(何しろその為だけのハードウェアを搭載している)、意外とバランスの良いゲーム機足り得た可能性がある。
実際のPC-FXは2D描画機能が殆ど前世代のままで3D描画機能に至っては皆目実装されていないのに動画再生機能だけ突出して高性能という、非常にアンバランスな仕様でデビューしたせいで、「登場したときからギャルゲー専用」、つまり「登場段階で新ハードウェアとしての寿命が(事実上)尽きてしまっている」という空恐ろしい状況に陥ったが、本来搭載されてしかるべきチップを欠いていたのであればそれも当然の事であろう。
随分話が脱線してしまったが、このボードはPC-H98を除くPC-9800シリーズのCバススロットを搭載しMSCDEX.EXEでアクセス可能なCD-ROMドライブをサポートする各機種(つまりCD-ROM内蔵でない古い98でもCバスSCSIボード等を挿してこれにCD-ROMドライブを接続すれば基本的には動くという事である。また、建前上EPSON製98互換機はサポートされていないが、これが動作しない理由は見出し難い)に対応し、付属のDOS用ソフトを動作させる事でPCに接続されたCD-ROMドライブ経由でPC-FXのゲームソフト等が利用可能という事になっているが、fez氏のPC-FXGA++というソフトを利用すれば(制限付きながら)Windows 9x上のDOS窓からも利用可能となるので、それなりの環境整備の手間は要するがこのボードを用いれば本来のPC-FXとは比較にならない位快適なゲーム環境構築も不可能ではない。
ちなみにこのボードは実は一つ非常に重要な特徴を備えている。
それは同軸/S映像出力信号の精度が非常に高く、NTSCの基準信号に準じる程(無論基準信号には及ばないが、少なくとも同時期の他の各種ゲームコンソールがNTSCとは名ばかりのイレギュラーな映像信号を吐いていたのと比べれば雲泥の差であった)のクオリティを実現している事で、これはバンドルされるソフトやムービーの開発の関係で試作機を持ち込まれたProject DoGAの意見が反映されたものであった由(元々はS端子さえ無かったらしい)である。
実際このボードの映像信号はPSやSSの出力だと映像が乱れて実用にならないキャプチャーボードで動画取り込みしても非常に安定しており、この点は高く評価出来る。
まぁ、これは今となっては事実上「空いているCバススロットを埋める」為だけのボードでしかなく、専用ACアダプタ(必須)やNTSC信号表示用のビデオモニタ(これはWindows上でビデオキャプチャして表示するならば特に無くても構わない)等を要する事を含めて何とも扱いの面倒な代物なのだが、それでも本物のPC-FXよりは余程実用性が高いので、現在では一部で貴重品扱いとなっている様だ。
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