XGA-2 / IBM
Graphic Controller Chip:32G6698 / IBM
RAM:80ns Dual Port DRAM 2MB>
Bus:ISA Bus (16bit 8MHz)
動作確認マシン:S1837UANG Thunderbolt
IBM純正のISA対応XGA規格準拠グラフィックアダプタカード。
いわゆるグラフィックアクセラレータの機能を持たないカードとしてはほぼ最終世代の製品で、CGA・EGA・VGAと続いたIBM PC標準グラフィックアダプタ群に対する上位互換性と、エンジニアリンググラフィックワークステーション用に提供されていたIBM 8514/Aグラフィックアダプタ(1024*768 16/256色表示専用)に対する上位互換性を共に備えている。
一般にXGAというと最近では1024*768の画面サイズと解されているが、実はIBMのグラフィックアダプタにはこれまで、8514/A、Display Adapter 2(Atlasという専用チップを搭載し、VGAに対する上位互換性と5550シリーズのグラフィックコントローラに対する上位互換性を共に保証する、日本向けPS/55専用カード)、それにこのXGAと1024*768サイズをサポートする3つのアダプタ規格が存在しており、本家であるIBM内部においてさえ、必ずしも1024*768=XGAではなかった事には注意が必要である。
そもそもXGA規格はこれ以前のIBM製アダプタの規格と同様に、画面のサイズのみならず、垂直/水平同期周波数や、BIOSのファンクション、レジスタ及びI/O ポートなどの挙動を含めて厳密に定義されたハードウェア寄りの規格であって、以後のグラフィックアクセラレータの様な「差違はドライバで吸収」という設計思想とは一線を画する存在なのだが、この時期以降画面に対して直接ハードウェアアクセスするDOSアプリケーションから、一旦何らかのAPIを経由して間接的にウィンドウ上に描画する、GUIアプリケーションへと市場が移行を開始し、中でもPC/AT互換機用GUI市場を制したWindowsのAPIコマンド、俗にGDIコマンドと呼ばれるコマンドオペレーションに特化した設計で市場を席巻した、S3の手になる一連のグラフィックアクセラレータチップの出現で一気にこの流れが加速された結果、時代に取り残される事となってしまった、ある意味非常に不幸な規格であった。
GDIオペレーションの普及は、即ち起動/既存DOSアプリケーションとの互換性維持のためのVGA互換コア+高速描画可能なGDI対応オリジナルグラフィックコア(この構成はVGAとかけ離れたネイティブモードを持つオリジナルグラフィックコントローラを搭載する場合に多く見られ、特にOpen GLアクセラレータにおいては汎用グラフィックコントローラでも3D描画が重視される様になった最近まで一般的であった)、あるいはVGA互換とGDIネイティブに両対応するシングルコアという構成のグラフィックチップの出現を容易にした(ハードウェア互換性、特に垂直/水平同期周波数の問題は、この時期に登場したアナログマルチスキャンモニタによって解決が付いたし、ソフトウェア的にもオリジナルグラフィックコアに対応したWindows・OS/2用ネイティブモードドライバさえ用意しておけば、一般的には特に問題にならなかった。無論、これに加えて商用UNIX互換OSなどに対応するドライバが提供出来ればそれに越した事は無かったが)のみならず、その種の高解像度対応高速グラフィックチップの提供する多色高解像度環境が当然のものとして認知される状況をも醸成したから、それに柔軟に対応出来ない旧来のパラダイムに依拠する、非常に硬直的な規格の恐竜的進化の最終到達点であるXGAが市場で成功を収める可能性は最早残されてはいなかったのである。
この辺の事情は、我が国のPC-9800シリーズの高解像度モード(640*400 8/16色表示の事をNECではこう呼ぶ。ここでは便宜上640*480 256色の9821固有モードも含めておく)に対するPC-98XA・XL・XL^2・RL・PC-H98シリーズの超高解像度モード(1120*750 16/256色表示)が、結局S3などのグラフィックアクセラレータに取って代わられたのと同様で、XGAを含むこれらの高解像度グラフィックアダプタは遂に市場の中心に据えられる事なく終わってしまったのである。
もっとも、双方共にAutoCAD等のCADアプリケーションに特化した描画支援命令セットを備えていた為、EWS的な使途には結構長く重用され続けたのも事実で、小さいが決して無視出来ないその市場需要の存在故にATI等のグラフィックアクセラレータチップにはDOSレベルでのXGA完全互換モードを備えたものがあった事は記憶に留めておくべきであろう。
ちなみにこのカード自体は、元々MCA(Micro Channel Architecture)のトークンリングバスマスタに特化した設計であったXGAを無理にISAに対応させた関係でDMAバスマスタの挙動にどうにも不安定な部分があって、およそ褒められた出来ではない。
MCAというバス規格はEISAとの競合の関係もあって世間的には32bitバスとして認識されているものと思うが、実はこれはPCIがそうである様に16・32bitとバス幅がスケーラブルに変更可能であり、この規格の最も重要な部分はバス幅ではなく、そのトークンリングバスマスタ機構や電気的な回路設計にこそあった。
実際、日本IBMが販売していた純正のMCAマシンであるPS/55では、MCAネイティブ対応の日本語グラフィックカード(Display adapter 初代、II〜V)を「AVE(Auxiliary Video Extension:補助ビデオ拡張)」と呼ばれる20ピン分の拡張(いわゆるフィーチャーコネクタに相当するオーバーレイ信号線が付加されている)を施した16bit MCAスロットに挿して出荷しており、また米国IBMの純正MCA版VGA/XGAコントローラも基本的に16bit接続であったので、ISA対応はバスの速度面では決して不可能ではなかった筈だが、鉄壁の安定を誇ったMCA版に比べてISA対応のこのカードの挙動がどうしても不安定であったという事実が物語る通り、特に高解像度なXGAの場合はMCAのバスマスタ管理機構がその威力を最大限発揮していたのである。
なお、このカードの画質はIBM製のRAMDAC(恐らくはセラミック粉末混入タイプのプラによる白いパッケージの品。仕様から推測するにドットクロック80MHz駆動が定格で、上層(セラミック粉末混入プラスティック)+シリコンチップ&ワイヤ(外周)+下層(セラミック粉末混入プラスティック)の3層サンドイッチ構造の本体を備え、四囲を黒いプラスティックで封止する事で上下層を接合・固定してある様だ)を搭載してある関係で決して悪くはないが、そもそも高解像度多色のGDI環境向けの製品ではないので、それこそISAオンリーのマシンでもない限りはわざわざ今使う程のものではないだろう。
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