Power Window 964LB / Canopus


Graphic Acceralation Chip:86C964-P (Vision 964) / S3

RAM:70ns Dual Port DRAM 2MB(増設モジュールにより最大4MB)

Bus:Mate A Local Bus (32bit 25〜33MHz)

動作確認マシン:PC-9821As2/U8W


 PC-9821の中でもMate AないしはA Mateと呼ばれたグループ等のごく限られた機種に搭載されていた32bit Local Bus(ML-Bus)に対応する高速GAボード。

 Power Window 964LBという商品名の他に、M03-ML-408というCanopus社内における形式名を持っている。

 搭載チップの86C964は、S3初の64bitバスアーキテクチャグラフィックアクセラレータで、傑作として歴史に残る86c928の正常進化版モデルである。

 このチップは基本的にはGDI専用として開発されていた筈なのだが、アーキテクチャ的に、MatroxのMGA-IIやその後継モデルであるMGA-2064Wの様なGDIに対する極端な最適化が行われていなかったのが幸いしてか、エミュレーションによるDirect Draw描画でも致命的な性能低下が発生せずに済んでいる。

 ちなみにこれはVideo for Windows登場と発表が重なっていて、専用の外付け動画再生支援チップが開発元のS3からアナウンスされていたが、各ベンダーの支持を得られなかったのか結局開発中止となり、代わりに964のグラフィックコアと動画再生支援機能を1チップに統合した後継モデルである86C968(Vision 968)が登場した為、比較的短命に終わっている。

 このボードに話を戻すと、VRAM 2MBのモデルで定価が約7万、4MBのモデルだと10万近くになるという、当時としても非常に高価な製品であったが、それに見合うだけの画質と速度を兼ね備えた素晴らしいボードであった。

 特に、計測機器用D/A A/D入出力カードの製造販売で培ったノウハウを存分に投じて設計された、その部品レイアウトと基板のアートワークの美しさは絶品で、後にも先にもこれ以上は無い、というレベルのものであった。

 これはAs2を売り払ってXa7に乗り換えた知人からAs2/Ap2専用のセカンドキャッシュと一緒に譲受した物だが、これらを挿すだけでそれこそ驚天動地の速度が出た(当時筆者ははSONYのGVM-1415という、X68030の為に買ったかなり特殊な周波数帯をサポートする14インチモニタを使っていた為、画質面の恩恵はあまり良く分からなかった)ので、非常に鮮烈な印象が残っている。

 ちなみに、メモリが前作のPower Window 928II LBよりも単体では低速(60ns → 70ns)だが大容量なモデル(三星電子 KM428C257J-7)となっているが、バス幅が32bitから64Bitへ拡張されているので実はアクセススピードはかえって向上しており、集積度の向上による実装チップ数の減少(同容量で16枚→8枚)や配線/部品レイアウトの自由度の向上等を考えると、合理的な選択がなされている事が分かる。

 このMate A系のLocal Bus(ML-Bus)は電気的にはPC/AT互換機のVESA Local Bus (VL Bus)と類似の信号線設計で、25〜33MHz動作する486のフロントサイドバスの信号線を直接そのまま引っぱり出してきてしまった(それ故Pentium搭載のAfやAnではバスブリッジやバッファを介する事になるのでそれ程速くはない)という、かなりとんでもない代物(それでも、MLバスについてはNESA用Eバスコネクタを流用した関係でピン数がかなり多く、データ信号線をGNDががっちりガードするEバスの美点(基本となったEISA(ISAとの互換性の関係でかなり理不尽なピンアサインを強いられた)より遙かに信号の安定性が高かったことが知られる)を継承しており、動作安定性の高さはVLバスの比ではない)である。

 それでも32bitで33(As/Ap/As2/Ap2/As3/Ap3)/30(Af/An)/25(Ae)MHz駆動という事で、それぞれ133/120/100MB/sという当時としては破格の連続転送能力(33MHz駆動時のそれは通常のPCIバスと同等)が達成されており、理屈上グラフィックコントローラさえ高速ならば今でも充分実用に耐える性能が得られる仕様となっている。

 事実、このPower Window 964LBやNEC純正のPC-9821A-E11等は同時期の同系チップ搭載PCIグラフィックカードと同等の描画性能を実現しており、2DのGDI描画に限って言えば今見ても決して遅くないという印象があるから、総じてバスの選択には慎重な所のあるNECが汎用高速バス不在のあの時期に敢えてこの不安定なバスを導入したのも頷ける。

 只、その素性故かNECはグラフィックボードベンダー以外へのこのバスの技術情報開示/提供を渋ったらしく、遂にグラフィックボード以外の対応製品は殆ど(例外はCanopusが出したUltra Audio(業務用サウンドボード)と計測用多チャンネルI/Oボード(同じく業務用)、それにNECの純正ヴィデオキャプチャーボードの3点に限られる様だ)登場しなかった。

 これは、VL Busでは高速なバスマスタ転送対応SCSIカードが出ていた事を思うとやや残念だが、グラフィックボードでもVRAM容量次第で電力供給量の制約があった(実際この964LBでVRAMを4MBに拡張した場合、もう一本のLocal Busには極力何も挿さない様に、との但し書きが説明書にはあった)事を考えると、電気的な安定性を重視して慎重を期したNECの判断も止むを得まい。

 ちなみに、このLocal Bus対応ボードにはWeitek Power 9000、S3 86C928、S3 86C964、MGA-I、それにMGA-IIを搭載した製品が存在した事が知られており、中でもGDI描画で最速を誇ったMGA-II搭載のPC-9821A-E11(但しMatrox製品の伝統でDirect Drawは致命的に遅い)と、速度と解像度(VRAM 4MB搭載可能なモデルでは最速だった)が高次元でバランスしていたこのPower Window 964LBが双璧と詠われた。

 実際、この2機種は中古市場でも非常に人気が高く、特に964LBの4MB版は生産数の関係もあって非常に高価であり、長きに渡って3〜4万という驚くべきプライスタグが付けられていた事が知られている。

 これは他の機種のユーザーからすれば一種異様に見えた事と思うが、Mate AのWindows環境の高速化の為には事実上これ以外に手段が存在せず、また自分のマシンに寄せる愛のあまりの強さ(苦笑)故にマシンの乗り換えを拒否したMate Aユーザーの大半がこれを一つの到達点として希求して止まなかった、という特殊事情故の現象であった。

 果たしてMate Aがその愛に値するマシンであったかについては議論の分かれる所ではあるが、少なくとも以後のマシンでは殆ど顧慮されなくなってしまった「造りの良さ」があった事は事実で、このボードの存在そのものがその一つの象徴であったのである。


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