PC-9801RA2 付属キーボード / NEC


 PC-9801型番では最初の32bitマシンであるPC-9801RA2(1989)に添付されていた逸品。

 このシリーズはPC-9800シリーズの全盛期に作られた、非常に絶妙なクリック感を与えるノンクリックメカニカルスイッチキーボードであり、その凝縮された様な造形とよく考えられたキー配列故に愛好者の多い歴史的傑作である。

 中でもこのデザインとなって最初の製品であるPC-9801RA/RS/RXのいわゆるRシリーズに付属した分は先行試作的な意味合いがあったのか、同一形状ながら特に優れたキータッチ(もしかしたら気のせいかも知れない、という話もあるが、確かに僅かだが格差は存在している)で、Xv13/W16付属キーボードと比べればこれが本当に同じシリーズのキーボードなのかと疑いたくなる程である。

 察するに余程高価なスイッチが採用されていたのであろう。

 このキースイッチはNEC自社製であった様で、同時期のN5200用キーボード等でも同系のスイッチが採用されているが、その中でもこの機種に採用されていたものの出来は特に傑出しており、これをもってPC-9800 シリーズ用キーボードの頂点と見なしても何ら差し支えないであろう。

 また、キートップが濃淡二色のグレーのプラスティック一体成型による多層成型品となっており、各キー毎に別の金型を用意するという恐ろしく高価な代物であった事も見逃せない。

 つまり、キーの表面がタイピングによって摩耗しても読めて然るべきと考えられた程の耐久性のスイッチが搭載されていたという事で、実際これ以降のモデルの分も含め、このタイプのキーボードの強靱さは並大抵ではなく、製造から15年以上たった今でさえ大学や工場等で酷使に耐え続けている姿を目にする事がある程である。

 ハードウェアの話をすると、このキーボードに実装された専用マイコンはIntel 80C49のNECによるセカンドソース品で、この機種以降パワーオンリセット回路が追加されて起動後も抜き差しが可能となった。

 また、キー配列を見ると、メインストリームのPC-9801としては前作に当たるVシリーズ用キーボード(PC-9801VM/VF〜VXなど)や32bitマシンとしては先行作に当たるPC-9801XL^2の付属キーボード(基本的にはVシリーズ用と同一設計)には無かったVF1〜VF5が新設されているのが目を引く。

 これらのキーはアプリケーション側で自由に機能を割り当てられる様に、通常とは少し違う形状のキーに透明のカバーを被せて、その間に割り当てた機能を書いた紙を挟み込める構造となっている。

 これらの機能的な位置づけはファンクションキーと同様で、それならファンクションキー+Shift操作でF11〜F20としても良さそうなものだが、98の場合、この時期以降事実上標準FEP(Front End Processor:今のIMEに相当)となったATOKが日本語変換にファンクションキーを常時占有してしまう(設定にも依るのだが、ATOKは原則的に特殊キーに依存しない代わりにかなりの数のファンクションキーを使用する)為に、FEPの必要とする分以外に別途ファンクションキーとして使用可能な複数のキーをセットで追加する必要があった訳である。

 なお、Rシリーズ用とDシリーズ以降用のキーボードの機種判別ポイントは、キー群の右上部に記された機種名表示で、Rシリーズ用は“PC-9801R”、それ以外は“PC-9800Series”となっている。

 余談だが、このキーボードは後期のPC-9821(例えばXv13/W16やRvII26/N20、あるいはRa300/M40)のWindows 2000環境でキーリピートを続けるとそのままキー入力が発振状態に陥り、暴走するという悪癖がある。

 これは別のキーを押すなりキーボードケーブルを一旦抜いて挿し直せば解決が付く問題であるが、恐らく内蔵マイコンのファームウェアの仕様が古い事に原因があると思われる。

 まぁ、製造時期が5年以上も違う本体と繋いで使う方が間違っていると言えば間違っている(この種の本体付属キーボードは添付本体とセットで使用するのが原則である)のだが、少なくともこのキーボードのキータッチがユーザーに敢えてそこまでさせる程度には優れているのは確かである。


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