Quarter L 付属キーボード / SONY


 SONYのAXマシンであるQuerter L(初代)に付属していたAX配列のメカニカルスイッチ搭載キーボード。

 基板にはSONYを示すと思われる“S”のロゴが裏面にプリントされていたが、キースイッチが現行の物と同タイプ(軸足の成型色は白)のメカニカルスイッチで、コントローラが“ALPS AX”の刻印の入ったIntel純正8051AHとなっている事から、恐らくアルプス電気のOEM供給品であろう。

 ちなみにこの基板上のチップ類の製造週を示す刻印から、このキーボードの生産時期は1991年前半と考えられる。

 機構的にはALPSメカニカルスイッチの完成期の作品だけに安定しており、タッチも少々クリック音が刺激的だが軽めの好感の持てる物であった。

 また、キートップの文字表記が印刷や染色ではなく、濃淡2色の樹脂の層状成型によっていて、高コストと引き替えに、擦過による摩耗に強い設計であることも見逃せない。

 このキーボードの付属したQuarter Lはネットワーククライアントマシン(このマシンの誕生した1989年〜1990年当時、SONYはNEWSというBSD系UNIX互換OSを搭載した開放分散処理ネットワーク・ワークステーション(確かこんな謳い文句で販売されていた)を開発製造販売しており、これはそれをサーバとするネットワークに繋いで利用するクライアントマシンとして企画された様だ)を主眼に置いて設計された高級機で、故にこのキーボードもその高価な本体に見合った高級品が奢られた物らしく、筆者の記憶する限りでは、確かこれは単品だと4万近いプライスタグが付いていた筈である。

 そのあたりの事情は高価なALPSスイッチが奢られ、構造的にもかなりしっかり造り込まれている事からも明らかであるが、この時期のキーボードとして見た場合、これの機構部の設計は最上の部類に入る物で、今の基準で評価してもほぼ完璧と言って良い出来である。

 なお、物理的な意味でのこのキーボードの欠点は只一つ、その外装ケースに使われているプラスティックの材質が日焼けによる経年変化に弱い事のみで、デザインがいかにも当時のSONYらしい洒落た物(但しこれはどうも当時のALPS製OEM供給向けキーボードの標準デザインだったらしい。もっとも、あの“SONY”ロゴと“Querter L”ロゴが入っているだけでかなり格好良く見える)だけに、この点は非常に惜しまれる。

 もっとも、日焼けしてもそれほど気にならない成型色ではあるのだが。

 ここまで意図的に記述を避けて来たが、このキーボードの真の価値はそれらの機構的特徴にではなく、実はAX配列と呼ばれるその独特のキー配列にこそある。

 AX配列というのは、IBM 1391401系の101配列(ASCII系)をベースにしつつ、日本語処理に必要なキー2つ(“無変換”と“変換”)と\キー1つ(“¥”と“\”を別のキーとして設定したので1つ増となる)、それに謎の“AXロゴ”キー(AX評議会のシンボルマークが表示されているキー。実体は未定義のプログラマブルキーで、Windowsのドライバでは“Windows”キーとして機能する)の4キーを追加した物で、右側Altキーを“漢字”キーに、同じく右側Ctrlキーを“英数カナ”キーに割り当てるという工夫を凝らす事で日本語処理に伴うキー数増を最小限に押さえた他、一般的な日本語106/109キー配列のキーボードで発生する日本語モード時と英数モード時の記号配列のズレが発生しないという、本当に良く考えられた配列である。

 また、この配列の特徴として、左側Ctrlが“A”の左に、Escが“1”の左に、そして“Caps Lock”が左側Shiftの下に配置されており、PC-9800シリーズからの移行ユーザーや、Emacs系エディタの愛用者には非常に使い易い並びとなっていた事は特筆に値しよう。

 一言で言えば、これはAT互換機用日本語入力対応キー配列の理想型である。

 英数モード時に101とほぼ同じ使い勝手を実現し、日本語モードでは“漢字”1キーだけでIME起動が可能、しかも101/106系で非難の対象となる事の多いEscと左側Ctrlの位置が理想的、というこのAX配列は、残念ながらAX評議会の解散で今や幻の存在と化しつつあり、Windowsでも9x/NT4.0までしか公式サポートされていないが、今だからこそ復活させる/再評価されるべき価値のある配列であると筆者は考える。

 最後に、このキーボードの総評をしてこの項を締めくくるとしよう。

 このキーボードには只一つの致命的弱点を除いては不満点は存在しない。

 たった一つの致命的弱点、それは追加入手がほぼ不可能な事である。


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