Wave Star / Q-Vision


接続バス:C Bus (16bit)

サウンドコントローラ:YMF288-S (OPN3-L) / YAMAHA + CS4231A-KQ (WSS-PCM) / Crystal Semiconductor + STAR / Work Bit + H8/3040(HD6433040TF16) / 日立製作所

対応機種:PC-9800シリーズ(出荷段階で486以上のCPUを搭載する機種。但しEPSON製互換機及びPC-H98を除く)

動作確認マシン:PC-9821Xv13/R16,PC-9821Xt13/C12,PC-9821Ra300/M40


 1996年に発売開始された、DOS環境でのPC-9801-86互換FM/PCM音源と、Windows環境でのWindows Sound System(WSS)互換PCM音源およびPC-9801-86互換FM音源、それにSound BLASTER仕様のジョイスティック/MIDIインターフェイス機能(Wave BLASTER互換のMIDIシンセドーターボードの搭載も可能)の3つの機能を統合した、市販された製品としては恐らく最後のPC-9800シリーズ用Cバス対応サウンドボード。

 これは、Q-Visionの前作であるWave Master(DOS環境での86互換を謳ったサウンド・SCSI複合ボード)のサウンド部分を改良した製品で、姉妹機種としてSMIT対応SCSIコントローラを追加したWave SMIT(Wave Masterの後継機種という意味ではこちらが直系となる)や、I-O DATAが提唱していた98セカンドバスType II規格に対応するセカンドバスボードであるSecond Bus Starなどが存在する。

 ハードウェア的には、WSS-PCM互換音源(CS4231A)+YMF288(OPN3-L)FM音源という組み合わせを基本とする比較的シンプルな音源構成のボードなのだが、STARというWork Bit製カスタムチップ(及び日立製作所の8bitマイコンであるH8/3040)を追加する事によって、ジョイスティック/MIDIインターフェイス機能やDOS環境におけるPC-9801-86ボード互換PCM機能を実現している。

 このボードの86互換PCM出力は、このSTARチップを介することでCバス経由でFIFO転送によって受け取った86フォーマットのPCMデータをWSSフォーマットのPCMデータに変換してWSSに渡す(録音時は逆のプロセスを実行する)という、非常に巧妙なハードウェアエミュレーションによって実現されているとみられる。

 このボードは、FM音源チップとして86ボードに搭載されていたYM2608B(OPNA)からADPCM部その他幾つかの機能を省略したYMF288-S(OPN3-L)を搭載しており、PCM部分の互換性が確保されたことでDOS環境での86ボードとの互換性はかなりの高水準に達しており、更にMIDIインターフェイスもMPU-401互換(一応UARTモード互換とされている)であるため、拡張スロットの少ないValue StarやCanbeのDOS環境でPC-9801-86+MPU-PC98IIに相当する機能をボード1枚でほぼ済ませられることになる。

 しかも、Windowsでは専用ドライバにより音飛びの殆ど発生しないWSS-PCM互換音源(但し、CPUパワーが不十分なら音飛びは当然に発生する。原理的に86ボードに比べて音飛びの発生の可能性が低いというだけで、完全な解消を保証するものでは無いことには注意されたい)を直接アクセス可能なこの製品は、その高機能故に対応機種が486以上のCPUを搭載して出荷された機種に限られはするものの、その存在価値は今なお高い。

 もっとも、そこまでやってもなお一部のDOSゲームなどでFM音源部の初期化に失敗するものが存在するのだが、これはYM2608B→YMF288でレジスタの改廃があった(ジョイスティックI/OポートやADPCMなど削られた機能が結構あるのでやむを得まい)ため(つまりアプリケーション側がYMF288側が要求する、正しいレジスタの初期化手順を踏んでいない)があるらしく、正しく初期化を実行するソフトで一旦初期化(例えばFMPの常駐・常駐解除など)してから当該ソフトを実行すれば大概の場合問題なく動作する。

 もっとも、PC-9801-86で搭載されていたサウンドBIOSによるN88(86)-BASICからのサウンド機能の利用は、このBIOSを搭載していないので当然に利用不能で、またYMF288(そしてその上位機種に位置付けられるYMF297)はYM2608BにあったCSM(複合正弦波合成)機能が削られているため、奇特にもこの機能を「しゃべらせる」目的でFM音源ドライバに実装していた某社のゲーム等では当然に正しく発音されない、といった問題が存在する。

 また、デフォルト状態でのミキサの音量初期設定に多少難があって、86音源とは異なるバランスで音楽が出力されることが結構ある(主としてSSG・リズムの音量バランスが狂っているのが目立つので、あるいはこれはYM2608BとYMF288の物理仕様の差に起因する可能性もある。ただし、ソフトによってはボードの種類を自動判別してミキサーの音量設定をネィティブ対応することで解決している場合も多少ある)ので、その点に関しては注意が必要である。

 このボードは、先行した本家NECのWindows 95対応PnPサウンドボードであるPC-9801-118と類似した構成を取っているが、後発、しかも同種のボードとしては二世代目の製品であるが故にその完成度や86音源及びMPU-PC98IIとの互換性では本家118ボードを大幅に上回っており(正しくは118が論外なだけ、という意見もあるが)、殊にPnP対応マシンでの挙動が素直(これに対して118は各部で本当に理不尽極まる不可解な挙動を示す)であったことから、これの出現以降118ボードの中古価格が暴落した、という話もある。

 音質的には、データフォーマット変換はともかく基本的にはWSS-PCM互換+OPN3-L FMなのでPCMの音の厚みにやや欠け、FM部の音のキレ(これは86ボードの高音質化改造で得られるそれに比しての話なので、無改造の86音源とは大差無い)も今一つ、という印象がある。

 もっとも、その一方でヒスノイズという点では本家86音源を上回る(86音源に徹底したノイズ対策改造を施した場合には下回るが、あちらは要半田付けである)出来で、ドーターボードを搭載すればMIDIシンセまでこのボード1枚でミキシングしてしまえるから、総合的にはこちらの方が有利なのではなかろうか。

 無論、PC-9801-86には正規のYM2608Bを搭載するが故にCSM機能が使え、しかも「ちびおと」相当のADPCM機能付加が可能、というややイレギュラーな付加価値があり、更に原則これで動かない86音源対応ソフトは無い、という純正ならではの他に代え難い強みもあるのだが。

 その意味では、このボードの構成でYMF288をYM2608Bに換えたボードがあれば良かったのだが、そもそもYMF288は開発時期が古くプロセスの関係で製造が困難になりつつあったYM2608Bの後継/代替品として登場したという事情があって、YM2608Bはこのボードの開発段階では既に大量入手が難しくなっており(このボードに先行するWave MasterではYM2608Bが搭載されており、Q-Vision側としては出来ればこのボードでもYM2608Bが搭載したかったものと思われる)、残念ながらそれは叶わなかったようだ。

 このボードのドライバはWindows 3.1とWindows 95、それにWindows NT4.0に対応したものが提供され、更にWindows 95についてはType Bという別バージョンのROM(Q-Visionのサポートで販売されていた)を搭載すれば、Mate X以降の98本体内蔵WSS PCM音源との共存による全二重PCM録再が可能となった(但しこれはWSSドライバのinfファイルのアドレス設定書き換えを行ってSICなどのツールを併用すれば元のままのROMでも、いやそれどころかPC-9801-86でも可能である)が、残念ながらQ-Visionは2000年に活動を停止してしまったため、ドライバ更新やサポートは終了となってしまっている。

 なお、このボードのNT4.0用ドライバは一応Windows 2000にもインストール可能(ちなみに、86ボードは今のところWindows 2000で正しく動作させる手段が存在しない)で、NT4.0用故にWDMドライバでは無いことからDirect Soundへの対応はソフトウェアエミュレーションに限られるが、筆者の確認した範囲では一応動作している(MPU-401互換のMIDIインターフェイスは動作しないがFMシンセがMIDIデバイスとして利用出来る)ことを申し添えておく。

 総じて言えば非常に便利なボードであったが、如何せん出現が遅きに過ぎた製品であった。


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