京阪電鉄1000系(未改修車)


 1000系未改修車7連による急行淀屋橋行。

 この時点で未改修のまま残っていたのは確かこの編成だけで、随分待って撮影した記憶がある。

 この1000系は京阪線の架線電圧昇圧(1983)に備えて1977年から78年にかけて投入された、700系の車体流用による代替新造車である。

 この系列に車体を譲って廃車された700系は、元々流線型電車として知られた1000形(2代目)および1100形、貫通型となった1200形、1280形、そしてトレーラーの1500形という、性能や機構的に同系の車両の台車や電装品、それにあの「びわこ」号60形連接車の台車(但し63の連接台車は端数となるので流用されなかった)といった機器を流用して製造された、いわゆる車体更新車のカテゴリに入る車両であった。

 この系列の車体は、先行して旧600形及び700形の機器流用で製造された600系更新車の設計を更に改良して1968年以降に新造された物で、製造からまだ日が浅く昇圧後も充分使用可能であったが、幾ら車体が良くても基本設計が大正期にまで遡る旧式の足回りのままでは昇圧に耐えられない事から、冷房装置の搭載工事を兼ねて足回りを完全に入れ換えてしまう代替新造が実施されたのである。

 それ故、この車輛は車歴上1977/78年製でありながらその外観には1960年代後半から70年代前半にかけての京阪のカラーが色濃く出ており、正面向かって左側の窓(車掌台側)が2段上昇窓で、尾灯が“ガイコツ”と俗に言われる外付け式という何処か古風な印象の、だがある意味で非常に良くまとまった好ましいデザインとなっている。

 前述の通り車体を提供した700系は京阪初の両開き3扉車である1650形制御車(後に余剰/捻出部品を用いて電装され、630形として600系に編入)に始まる600系の車体設計を元に、同系で問題となった行き過ぎた軽量化を是正する(600系の車体は各所を軽量化し過ぎた為に重い冷房装置の搭載に耐えられず、これが原因で本格的な代替新造の対象から外された)形で設計された車であって、それ故に側面の窓配置は600系と共通する先頭車でd1D22D22D1、中間車では2D22D22D2(d:乗務員扉 D:客用扉)という、京阪通勤車の主力をなす2200/2400/2600系(2000系初期車に由来する車体を継承する2600系の一部を除き、d1D111D111D11(先頭車)および11D111D111D11(中間車))、あるいはその後継である6000/7000/7200/9000系(d1D11D11D11(先頭車)および11D11D11D11(中間車))のいずれとも異なった特徴的なレイアウトとなっている。

 類似例としては西鉄大牟田線2000系(3扉化後)及び5000系などが挙げられるが、この配置は両端の扉から各端面までの長さが短くなる分、各客用扉間を長く取れる為に乗り心地の良い車体中央に座席が集中できるというメリットがあり、どちらかと言えば長距離を走る3扉クロスシート車に好適な配置(戸袋窓を省けば近鉄5200系やJR西日本221系も同系の配置である)と言える。

 無論そのメリットは何もクロスシート車のみが享受しうる物ではなく、停車駅が少なくて当然乗降回数も少ない優等列車を中心に運用される座席定員の多いロングシート車の場合も当然その恩恵にあずかる事になるから、実際同時期に並行して設計・製造された2000番台各系列より1両あたり4人ずつ座席定員が多く、足が速い(歯数比が2200/2400系よりも高速性能重視の設定になっている)当系列は上に掲げた様に急行・準急等の優等列車への充当の機会も多い。

 この写真では見えないが、台車は川崎重工製のKS-77A(電動車用)と住友金属のFS-399(付随車用)が新製されており、足回り的には先行する5000系に近い設計となっている。

 但し、代替新造時の段階では電動車は1C8Mで2輛1ユニットが基本の5000系とは異なり、単車昇圧に対応する1C4M方式の制御器が新設計の上で搭載されていた。

 恐らくこれは編成分割を可能とし、将来的な車両運用計画に対する自由度を確保する為のものであったと思われるが、実際にはその逆に当系列は登場以来ずっと7連で運用されており、それ故、近年実施された改修工事では遂に電装品の2輛ユニット構成への変更が実施されてしまっている。

 なお、電動車の履くKS-77A台車は今や京阪以外では殆どお目にかかる事の無くなった、“エコノミカル・トラック”と呼ばれる廉価な一自由度系エアサス台車シリーズ(1972年に川崎重工に合併された汽車製造が研究開発していた。その事は、この時期の川崎重工製台車がKWで始まる型番を割り振られていたのに対し、合併後の製品である筈のこの台車が開発会社である汽車製造の社名に由来するKSシリーズのナンバーを継続して与えられた事でも明らかであろう)の最終進化形態であり、低コストで一般のエアサス台車と遜色無い乗り心地を実現している。


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