パンタ&HAL 「マラッカ」

VICL-5133 / invitation/VICTOR

1992/2/21発売

(原盤:1979年3月発表)


1.マラッカ

2.つれなのふりや

3.ブリキのガチョウ

4.裸にされた街

5.ココヘッド

6.ネフードの風

7.北回帰線

8.極楽鳥


 今、日本のロック、というジャンルが存在する。

 だが、昔は「日本語でロックなんてナンセンスだ」という意見もあったらしい。

 そもそも、「ロック」のなんたるかも正確に理解しているとは言い難い私には、一体何がどうナンセンスなのか良く判らないのだが、とりあえず「日本のロック」で自分が知っているアルバムを10枚挙げろ、と言われたならば多分このアルバムを筆頭に挙げるだろう。

 このアルバムは、「鈴木慶一がプロデュースをしたから」という理由で買ったもので、まぁ酷い買い方もあったものなのだが、ここは結果オーライという事にしておこう(苦笑)。

 実際、私の普段の好みから言えば、「傑作だから聴く様に」ってなレコード評があってもこういうタイプのアルバムはまず聴かないだけに、それはそれで勇気のいる決断ではあったのだ。

 だが、少なくともこの時に限ってはその決断は吉と出た。

 とにかくこれは素晴らしい。

 パンタ、という稀代の反逆児の描き出す、骨太でダイナミックな、それでいて時として繊細かつ透明な魅力をたたえた詞と曲、そしてそれを熱過ぎもせず冷た過ぎもしない、アキュレートかつ力強い、計算されたハーモニックさを湛えた演奏で支えるHALのメンバー達。

 そして何より、それを初のプロデュース作品となったにもかかわらず、非常に綿密且つクールに計算された形でアルバムにまとめ上げたプロデューサーとしての鈴木慶一の手腕。

 今の感覚では明らかに古い演奏・録音なのだが、それら3者の見事なアンサンブルからは、私の様な「日本のロック」というジャンルに疎い者にさえ時を超えて強く訴えかけてくるものがあったのだ。

 

 開幕を告げる様に、剛直でストレートに叩き付けられる「マラッカ」、

 どこか投げやりで、それでいて妙に前向きな言葉と演奏が楽しい「つれなのふりや」、

 えらくシュールな言葉の中に立ち上がる、奇妙な諧謔味に満ち溢れた「ブリキのガチョウ」、

 優しく、哀しく、そして切ない、過ぎ去った一つの時代に手向ける一輪の花の様な「裸にされた街」、

 隠微さと異国趣味が美しく交錯する、官能的な「ココヘッド」、

 暑く、乾いた情景と、それに負けない位「熱い」主人公を描き、中盤のストリングスが鮮烈な印象を残す「ネフードの風」、

 軽やかなテンポで奏でられる、とんでもなくスケールの大きなラブソングの「北回帰線」、

 そしてアルバムの最後を締めくくる、幻視のロマンティックさと透明な悲しさが同居する「極楽鳥」。

 

 このアルバムに収められた8曲に、私はロックというジャンルの根元的に持つ多様性と強さを見た気がする。


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