PC-1421
EL-5510

 いわゆる「電卓戦争」でシャープとカシオは国内はおろか世界の電卓メーカーを蹴散らしてしまったわけですが、なんでもかんでも日本メーカー製が席巻してしまったわけではありません。特に金融電卓と呼ばれるジャンルの製品は、専門家にお任せの日本と自分で計算し比較する欧米という文化の違いから、日本ではなかなか良いものが育たず海外メーカーに分がある状況です。ヒューレット・パッカードのHP-12Cなんかは超ロングセラーで、このスタイルの関数電卓はもう全て廃品種になっているのですけど、これだけは若干改良しただけでほぼそのまま、30年くらい売り続けています。

 とは言え、日本のメーカーだって「そのジャンルは他のメーカーにお任せ」で済ませるわけもなく、細々とながら金融電卓を作っています。もちろんシャープも。そしてそのシャープが、オリジナルに展開するジャンル「ポケットコンピュータ」と金融電卓を組み合わせて発売したのがこのPC-1421なのです。

 スタイルはまさにPC-14xxシリーズ。ポケコンに金融計算機能を追加するというよりは、金融電卓機能をまず実装し、さらにポケコンならではの「プログラム機能」で普通の金融電卓にはない特徴を出そうというのがそのコンセプトなのでしょう。

 ところで、ここをご覧の皆様の中には「こんなのあったっけ…?」と首をかしげる方もいらっしゃるかもしれません。そう、PC-1421は国内未発売の製品なのです。専用機能を搭載したポケコンと言えばCAP-X/CASLを搭載したPC-1440/1445、統計機能を強化しているPC-1425なんかがあるわけですが、これはそれらより前、1985年頃の製品のようです。つまり、一般販売用としては初めての専用ポケコンということになりますね。ただ、これが海外専用だったということからしても、どれだけ日本国内での金融電卓の売れ行きが悪いかわかるというものですよね。




 いわゆる「関数キー」部分ですが、関数電卓ではお目にかかれない刻印がずらり…。


 もちろん液晶のインジケータなんかも専用品です。CALモードにFINという文字が見えますが、これがフィナンシャル=金融電卓モードですね。もちろんBASICモードだってあります。 



 こちらはEL型番バージョン、EL-5510。型番以外には違いがありません。



 ELポケコンにはお馴染みのテキストブックと、マニュアル。どうも欧州向けがPC-1421、米国向けがEL-5510みたいなのですが、戦略とかターゲットとかが向け先によって微妙に違うような気もしますね。

金融計算機能について

 それでは、ここで目玉である金融計算機能について紹介しましょう。といってもそもそも私は門外漢、元にしているのはEL-5510の取扱説明書(PC-1421のもありますがドイツ語なので…)と、日本で売られているシャープとカシオの金融電卓の取扱説明書です…基礎知識がないのに専門用語だらけで、書き始めてから7年も経ってしまいました…(6年以上放置してたんですけど)。

CALモード(FINモード)

 CALモードで金融計算を行うには、CALキーを液晶のFINインジケータが点灯するまで何回か押して、FINモードに入ります。
 取説には、基本形として次の3つが挙げられています。

  1. 複利計算(Interest)
  2. ローン計算(Amortization)
  3. DCF(Discounted Cash Flow)

 まずは複利計算から。複利計算では次の4つのキー(というか変数)が使われます。

回数
利率
PV 元金
FV 元利合計

 この時の基礎方程式は次の通りです。

FV=PV(1+i)

 例題では、「1年間100万ドル投資するとして、銀行Aは毎月の投資で9.3%の年利、銀行Bは年4回の投資で9.35%の年利があるならば、どちらの銀行の戻りが大きいか」とあります。この場合の操作は、次の通り。

1000000[+/-][PV]   元金として100万を入力。
12[n] 預け入れ回数は12回。
9.3[÷12][i] 年利9.3%は、1回の支払い当たりに直すため12分の1とする。
[COMP][FV] 元利合計を算出。
[χ→M] 銀行Aの計算結果をメモリにストア。
4[n] 回数を4回に変更。
9.35[/]4[=][i] 年利9.35%を4分割。
[COMP][FV] 銀行Bの元利合計を算出。
[-][RM][=] 銀行Bから銀行Aの計算結果を引いて、差を表示。

というように、各変数に値を入れてCOMPキーを押して求めたい変数キーを押せば、値が表示されます。PVをマイナス値で入れるのは投資する=手元からなくなる、からかな?
 値をセットする変数を変えると、方程式を逆に計算することもできます。例えば、

1097068.34[FV]
12[n]
9.3[÷12][i]
[COMP][PV]

と入力すると、-1000000が表示されます。なかなか賢いですね。この文章を書きながらPC-1262のビジネスシミュレーション機能で上の式を入力してみたんですが、方程式を逆に解くには変形した式を改めて入力する必要があるわけで、このあたりはさすがに専用機ならではというところでしょう。

 単にどちらが利率として良いかを知るだけなら、実効金利を求める方法もあります。

12[→EFF]9.3[=]

と入力すれば、回数に対する年利から実効金利が求められます。

 次はローン計算。ここでは次の変数が使われます。

回数
期間ごとの金利
PMT 返済額
PV 融資額
AMRT 特定回の支払いにおける元本分と利息分、残高
ACC(p1/p2) 特定期間の支払いにおける元本と利息のそれぞれの合計

この場合の方程式は次の通り。

PMT PV ───────
1−(1+i)−n

 例題では、「会社の移転に合わせて引っ越しをするため、14万ドルの融資を受ける。条件は7万ドルを頭金とし、残り7万ドルを12.5%の年利で30年間返済する。毎月いくら払い込めばよいか」というもの。ちなみに本当の例題は会社名がBNWとかもじってるくせに、移転先がコネチカットのグリーンウィッチとか妙に具体的だったりするんですが。それはともかく、この場合の操作は次の通り。

70000[PV]   希望する融資額として7万を入力。
12.5[÷12][i] 年利12.5%は、1回の支払い当たりに直すため12分の1とする。
30[×12][n] 返済回数は月単位なので、30年を12倍する。
[COMP][PMT] 返済金額を算出。

 この時に、ある返済における元本分と利息分のそれぞれの占める金額、そして元本の残高を表示できます。1回目だと

1[AMRT]   1回目の元本分(PRN)
[AMRT] 1回目の利息分(INT)
[AMRT] 元本の残高(BAL)

となります。最初のAMRTキー入力前に入れる数字が何回目かを表します。なのでここの数値を変えれば、それぞれの回で返済内容がどう変わるか確認することができるわけです。
 さらに、ある回からある回までの返済が元本・利息それぞれどれだけを返済したことになるかを表示させるには次のように操作します。

13[p1/p2]24[p1/p2]   13回目から24回目までの合計を求めます。
[ACC] 13回目から24回目までの元本返済合計(ΣPRN)
[ACC] 13回目から24回目までの利息返済合計(ΣINT)

回数指定を1から360にすれば、返済全体における元本と利息の合計が得られます。

 最後に、DCF。ここでは次の変数が使われます。

期待する収益率
CFi 毎回のキャッシュフロー
NPV 正味現在価値
IRR 内部収益率

 例題は、「4年間倉庫として使うためのビルを購入することを検討している。ビルの価格は100000ドルで、4年後に120000ドルで売る計画を立てている。最初の3年間の賃料の同等の節約額は、7000ドル、8000ドル、および8000ドルと予想される。 この投資は、年間10%の投資収益率を達成できるか?」というもので、これはつまり不動産投資ってことですかね。ちなみにビル購入を検討しているのはやっぱりBNWだそうですよ。
 そんなわけでこの場合の操作は次の通り。

10[i]   目標とする収益率を入力。
100000[+/-][CFi]   投資額として10万を入力。「投資」なので支出になることから、符号をマイナスにする。
7000[CFi]   1年目の賃料相当額の入力。
2[Ni]8000[CFi]   2年目と3年目の賃料相当額。
120000[CFi]   売価として12万を入力。
[NPV]   現在の価値の総額を算出。
[IRR]   収益率を算出。

 価値総額がプラスであれば、目標の利率を達成していることがわかります。

 2回目と3回目のキャッシュフロー入力では賃料を入力していますが、実際には不動産を購入していますので、もし賃貸物件だったら支払うはずの金額を逆に儲けとして入力するんですね。なおキャッシュフロー項目は20まで入力できます。同じ数値を連続して入力する場合は、その回数をNiで指定することで項目数を節約することができます。

 収益率が未達の場合、任意のキャッシュフローを変更して再計算させることができます。例えば上記の1年目の賃料を8500ドルとするには

8500[STO]1

と入力します。STOキーの後の数値はキャッシュフローの項目番号で、初回を0として考えるのでこれは2回目を指すわけです。変更後NPVやIRRを実行すれば新たな計算値が表示されます。

 ここまではCALモードでの説明だったのですが、もちろんポケコンですからBASICでもこれらの計算機能を使うことができます。上記の操作で出てきた変数はシステム変数として定義されていて、BASICプログラムの中で使えるのです。

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