NEO ACCELERATOR SYSTEM / SNK/Canopus
Graphic Acceralation Chip:86C964-P(Vision 964) / S3
RAM:70ns VRAM 2MB(増設モジュールにより最大4MB)
Bus:PCI Rev.2.0 (32bit 33MHz 5V)
動作確認マシン:PC/AT互換機(S1837UANG Thunderbolt)
ゲームメーカーとして知られるSNKのロゴの入った、異色のCanopus製グラフィックカード。
これは、S3の86C964 “Vison 964”とTexas InstrumentsのTVP3025-135PCE、それに三星電子製70ns 256KBデュアルポートDRAM(KM28C256J-7)8枚で2MBのVRAMを実装するカード本体(K14-PC-502)と、同じく256KB*8=2MBのメモリ(カード本体と同一品)を実装する増設メモリモジュール(SNK VRAM 2M(K15-EX-502))よりなる製品で、この2つは専用の100ピンコネクタ2基で物理的・電気的に結合される構造となっている。
カード本体にはDIPパッケージのマスクROMに格納されたPhoenix製VGA-BIOSが搭載されており、これの起動時イニシャライズ画面の表示によれば、バージョンは1.0で、Phoenixに続けてSNK、Canopusの順で著作権者表記が表示されている。
もっとも、SNKのロゴが増設メモリ、カード本体共に表記されてはいるが、この製品自体はCanopusの自社ブランド製品であるPower Windowシリーズとの共通点の多い設計であって、事実このカードの増設メモリモジュールの物理的/電気的仕様はバスやフォームファクタ以外は殆ど共通仕様であるPower Window 964LBのそれと互換性があり、しかもカード本体の基板面部品実装レイアウトや配線パターン等の癖も共通している事から、恐らくこれら2製品は同時期に同一スタッフが手がけた姉妹製品であったと考えられる。
このカードは搭載チップの製造週等から1995年前半の製品と考えられるのだが、その前後の時期にCanopusはPower WindowシリーズとしてS3製チップを搭載したPC/AT互換機用PCIバス対応グラフィックカードを幾つか発売していて、当時のS3製チップシリーズの内、86C864、86C968、86C868を搭載した製品があり、しかも前述の通り同一チップを搭載したPC-9821 Mate Aシリーズ用MLバス対応ボードは出荷して好評を得ていたにもかかわらず、86C964搭載のPCI版Power Window、つまり当時の同社製品の命名ルールに従えばPower Window 964PCIと呼ばれるべき製品は出荷せずに終わっている。
だが、実際に出荷された3製品(Power Window 864PCI・968PCI・868PCI)に対してCanopusが提供した純正のWindows 95用ドライバの.infファイルの機種名判別/定義部分を調べてみると、興味深い事には公式には存在しない筈のPower Window 964PCIの名が明記されており、同社が少なくとも市販には至らずともPower Window 964PCIと呼ばれるべき製品の試作は行っていたであろう事が確認出来る。
そこで、このNEO ACCELERATOR SYSTEMと呼ばれるカードを実際にAT互換機のPCIスロットに挿してWindows 9x上でこのドライバのインストールを試してみると、果たしてPower Window 964PCIとして判別されたから、やはりこのカードは本来はPower Window 964PCIとして開発されていたものの、何らかの事情で量産出荷が断念された後、SNKからのオーダーに応じて(生産可能な範囲で)ごく少量がカスタムメイド品として供給されたのであろう。
良く知られる様にS3初の64Bitアーキテクチャグラフィックアクセラレータの上位モデル(下位はシングルポートDRAM対応の86C864)として開発された86C964は、そのデビュー直後にMicrosoftが動画支援再生の為のハードウェアDCIの仕様提示を行った事で一夜にして陳腐化してしまい、S3は急遽964/864対応のハードウェアDCI専用外付けチップの開発表明を行ったりしたがカードベンダー側の支持が得られず、結局ハードウェアDCIを964/864のコアに内蔵した改良版である86C968及び86C868に早期に置き換えられてしまった、という経緯があるのだが、これこそが、つまり86C964チップの予期せぬ早期生産完了こそが、この希有のカードの量産断念の最大要因ではないかと考えられる。
只、この種のカードの設計コストやアートワークのコストというのはそれなりに高くつくのが通例だから、それをそのままお蔵入りとするのも問題があり、チップの供給が可能な範囲の少量、しかも比較的高コストでも許される特注扱いでのSNK向け生産は渡りに船であったに違いない。
この辺りの事情については両社共に沈黙を守り続けており、状況証拠からの推測に頼らざるを得ないのだが、入手したカードの裏に貼付されていたシリアルナンバーシールの“9”という表記や、当時のグラフィックカード業界の動向等を考慮すると、恐らく大筋では間違ってはいまい。
実際、もしこのカードがそれなりに量産されたものであったならば、人目に触れて何らかの噂話が膾炙していた筈で、それがなかったという事はつまり、本当に少量生産だったという事なのだろう。
さて、肝心のカードそのものの設計や性能だが、画質は流石に高画質で好評を博したPower Window 964LBの姉妹モデルだけに非常に良好で、この時代のカードとしては最良の一つに数えられよう。
事実、このカードのアナログRGB出力周辺の設計は非常に手が込んだ美しいもので、その画質も1280*1024以上の解像度での利用には難がある(これは搭載RAMDACのドットクロックに依存する部分なので、回路設計だけではどうにもならない)ものの、その発色の良好さやフォーカス精度の良さは、今でも充分一級品として通用する。
これ程のカードを設計しておきながら、遂に本格的な量産に入れなかったのだから、当時のCanopus技術陣の無念は察するにあまりある。
なお、このカードを入手したのは2001年4月20日で、同月2日にSNKが自主再建を断念し、民事再生手続きに入った事が報じられているから、あるいはこれは、この時期に同社が開発機材を処分した際に流出したものである可能性がある。
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