MDC-926Rs / 緑電子


インターフェイス:SCSI-2 (50pin SE 10MB/s)

転送モード:DMA/FIFO/Ultra MD Bus Master

Bus:C Bus (16bit)

コントローラ:WD33C93BJM / Western Digital + MIDORI-7 / 緑電子

対応機種:PC-9800シリーズ

動作確認マシン:PC-9821As2/U8WPC-9821Xa9/C8


 画期的な性能を実現したSMITの全盛期に、“ウルトラMDバスマスタ”なる聞くからに怪しげな技術をもって真っ向から挑んだ、緑電子1996年の意欲作。

 規格的には、純正PC-9801-92互換パラメータを持つCバス対応バスマスタ転送SCSIボードという事になる。

 Cバスの理論転送速度一杯にまでなるデータ転送速度をこのボードが一体どうやって実現していたかは実の所未だに良く分からないが、当時の同業他社製バスマスタ転送CバスSCSIボード群より転送速度が高速であったのは確かである。

 回路的にはCバスSCSIボードの通例に漏れず、WD33C93BJMと専用の1チップDMA/FIFO/バスマスタ転送対応SCSI&Serialコントローラ、それからバッファ用(注1)と思しきアクセスタイム30nsの高速メモリを中心に構成されており、このMIDORI-7と命名された緑電子オリジナルの大きな専用コントローラチップを除けば特に目立つ様な仕様ではない。

 このボードの挙動それ自体は一般のバスマスタ転送Cバス対応SCSIボードとさほど変わらなかった事も考え合わせると、“ウルトラMDバスマスタ”の正体は恐らくこのバッファメモリの存在を前提とする(注2)、内蔵DMAコントローラ+ローレイテンシバッファメモリによるウェイトを極限まで削った高速バスマスタ転送であると考えられる。

 個人的にはこの様な「幾ら速くても他人の真似は願い下げ」というコンセプトの製品は大好き(笑)なので発売された時から狙っていたのだが、財政事情の関係でなかなか買えず結局PC-9821A-E10をAnを買った先輩に譲渡した売却益+αで中古品を買った記憶がある。

 果たしてこのボードの速度は驚異的で、Cバス対応SCSIボードでは数少ない「等速CD-Rがちゃんと焼ける」だけの性能が出ていた。

 このボードや、SMIT対応SCSIボード(LogitecのLHA-301とI-O DATAのSC-98III)のベンチ結果を見る限りは、総合的には幾分ワークビットが開発したSMITの方が有利(注3)な様だったが、何しろSMITはメモリマップドI/O転送というそのロジックから言って明らかにCPUパワーが必要(注4)であり、絶対的なCPU性能が低い下位の486搭載マシン等の場合には、安定的に性能の出るこちらの方が当然有利であった。

 又、先に挙げたCD-R焼きの場合、CPUに依存せずにMIDORI-7の内蔵高速DMACがバスを延々占拠し続けるバスマスタ転送であれば転送が途切れる事が少ないのでバッファアンダーランが発生しにくく、それが書込の成功率を高める一因となっていた様だ。

 なお、このボードは設定についてはNEC系のPnPだけでなく独自のMD PnPモードを持つ(注5)など正直言って取っつきはかなり手強いボードであった。

 更にSCSIだけではなく上限2.5Mbps(理論最大値)というこちらも限界に挑んだ様な転送速度を実現したRS-232Cポートが一緒に付いているので、基本的に多機能重装備なMate Aの場合IRQ(この場合はIntと書いた方がしっくりくるが)の割り当てで一度は地獄を見る仕様だった(笑)。

 それが厭ならRS-232Cを切れば問題は無いという意見もあるが、Mate Aユーザーでこれを挿そうという場合は大抵内蔵RS-232Cの速度にも不満を持っているのが通例であったから、その選択肢はハナから存在しないのと同義であった。

 何しろ、As2・Ap2以前の98では標準RS-232Cポートの最大転送速度が9600bpsで、28800bpsどころか14400bpsのモデムさえ性能を発揮出来ない有様だったのだから。

 もっとも、IRQ周りの設定や確保が厄介だという事情は流石にメーカーの方も分かってはいた様で、Windows 95用ドライバにはNIM(No-IRQ Mode)というSCSIがIRQを使わない様にする(注6)機能が付いていたし、マニュアルもかなり読みやすく良く出来ていた。

 無論、自慢の高速RS-232CポートがNTではサポートされていなかったりといった風に不満な点も幾つかあったが、そうは言ってもこれは基礎体力に恵まれない486マシンに挿す分には非常に有り難い機能・特徴を満載したボードであって、もう頭打ちだと思っていたマシンにそれでもまだ可能性が残されているという事を嫌と言う程見せつけてくれた。

 結論としては、これは良い買い物だった。

 このボードには早い時期にWindows NT 3.x用ミニポートドライバが用意されていたのだが、これは通例に反してNT 4.0では動作せず(涙)、後日NTを3.51から4.0へアップグレードした時に激遅の92ドライバを使う羽目に陥った(注7)記憶がある。

 只、一つ褒めて良いのはこのNT用ドライバが前述の通りおまけ的なRS-232CポートやNIM(No-IRQ Mode)機能こそサポートしなかったものの、きちんとバスマスタ転送をサポートしていた事で、16MB境界にかかわるダブルバッファリングの実装が面倒な為にNTでの対応はFIFOまでとされたバスマスタ転送対応CバスSCSIボードが少なくなかった事を思うと、これは間違いなく称賛に値する。

 なお、このボードを製造販売していた緑電子は1999年11月30日付でPC周辺機器製造販売から完全に撤退し、以後の修理やドライバのアップデート等といったアフターサポートは全く不可能となったので、その点については注意されたい。

 ちなみに最終更新が99年という辺りで見当が付くと思うが、このボードのBIOSの持つTVAC(ディスクパラメータ自動認識)機能はWindows 2000(PC-9821版)でフォーマットされたディスクを未知のフォーマットである旨表示して無効化してしまうので、この場合はNetWareでの利用時と同様にBIOS上(起動時にShift+Ctrlで呼び出し)で当該ドライブをPC-9801-92互換パラメータに固定しておく必要がある。


 (注1):但しSCSIの為なのかシリアルの為なのかは断言出来ない。あるいは両方で使われていた可能性もあり得る。

 (注2):要するにディスクキャッシュという事だが、仮にこの推測が正しくとも何しろ極小容量なので、大容量ディスクキャッシュメモリ搭載ハードウェアRAIDカード等で問題となるライトバック動作で書込中の停電トラブルが致命的な問題となる事は恐らく無いだろう。

 (注3):ウルトラMDバスマスタはリードではSMITと拮抗するか上回るがライトでは幾分劣る。但しこれは当時メーカー側が明らかにした所によれば、リードの極端に多いWin 9xの利用状況に配慮してリードを重視するチューンを施した為であった由である。

 (注4):従って高速なPentium搭載マシンで最大の性能を発揮するが、Pentium搭載機はほぼ例外なくPCI-Cバスブリッジを搭載しているので、そこでロスが生じる為に理論計算通りに行かない、という矛盾を抱えてもいる。

 (注5):添付されていた“ぐっと楽's”というユーティリティディスクの専用インストーラは半ばこれに依存して書かれていた。

 (注6):インストール時にはWindowsのPnPロジックの関係からIRQが絶対要るので、SCSIの認識→再起動→SCSIが確保したIRQの解放→再起動→RS-232Cポートの認識等といった馬鹿みたいに面倒な手順が強制されるが、IRQの数が有限でしかも希少である事を考えれば、当然出来ないよりは出来た方がずっと良いのは確かである。

 (注7):NT 4.0用ドライバはさらに後日になってからだが公式に配布されたので、一応問題は解決している。


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