Sound BLASTER Live!(CT4620・4760) / Creative


Bus:PCI Rev.2.0 (32bit 33MHz 5V)

サウンドコントローラ:EMU10K1-EBF / Creative(CT4620)・EMU10K1-EDF / Creative(CT4760)

Codec:CS4297A-JQ / Crystal Semiconductor(CT4620)・STAC9721T / SigmaTel(CT4760)

対応機種:PC/AT互換機

動作確認マシン/マザーボード:PC-9821Xv13/W16MS-6163S1837UANG ThunderboltSUPER PIIIDME


 Creativeが1998年夏に発表したPCIバス対応サウンドカード。

 筆者は初代であるCT4620と2代目の上位モデルに当たるCT4760をWindows 98/NT4.0 WorkStation/2000 Professionalで使用した。

 これは、AdLibの上位互換カードとして世に出たSound BLASTERの系譜に連なる直系のカードで、扱いとしてはISA版のSound BLASTER AWE64 GOLDの後継機種ということになる。もっとも、ドライバによるソフトウェア的な互換性を保持しているという以外は全くの新規設計で、当然ながらISA版Sound BLASTER各モデルとは物理的な互換性が無い。

 搭載されているサウンドコントローラは、Creativeの傘下に入って久しいE-muの手になるEmu10K1という公称処理能力1000MIPSのかなり強力なPCIバスインターフェイス内蔵DSPで、この演算能力を生かしてEAXと呼ばれる3Dサウンドエフェクト機能や全二重サポート(注1)による8つの異なったサンプリングレートでの同時録再(注2)を可能とするPCMデジタルサウンド、64音/48chマルチティンバーのハードウェアWave Tableシンセ+192音のソフトウェアWave Tableシンセ(注3)で合わせて最大256音同時再生を可能とするmidiシンセ、あるいはここまでに挙げた各機能の入出力をフォローする強力な多チャンネルデジタルミキサ(注4)、といった多彩な機能の殆ど全てをLive! Wearと呼ばれるドライバソフトウェアで実現する様になっている。

 このため、カード自体のサイズは比較的コンパクトで、Emu10K1とAC'97準拠のCodecチップ(注5)を除くその面積の殆どは入出力用コネクタやアナログ入出力回路のノイズブロック/増幅段用キャパシタ等によって占められている。

 ちなみにカード上のコネクタ群にはCD-ROMドライブ等の内部デバイス用SPDIF同軸デジタル入力端子(注6)や自社製5インチベイ用入出力モジュールあるいはデジタル入出力/midi入出力コネクタ拡張用ブラケットへのケーブル接続用ピンヘッダ、それに初代に関してはCreativeの主導で策定されたSB-Link(PC/PCI)端子(注7)等が用意されていて万全の拡張性を主張しているが、困った事にSPDIFの内蔵Out端子が用意されていない(注8)ため、このカードのデジタル出力を他のサウンド/オーディオカードに送り込みたい場合は外部出力経由とせねばならないので、ケーブルの取り回しという観点では感心できない設計である。

 なお、CT4620とCT4760は、そもそも基板設計が異なっており、CT4620には盲腸の様に残されていたPC/PCI端子のパターンがCT4760では廃されレイアウトの整理が進んだ他、CT4620には無かった外部SPDIF同軸デジタル出力端子(ミニプラグ)がCT4760には追加されている。もっとも、少なくともこの2モデルについては基本的な性能差は殆ど無い。

 ちなみにDACとADCを担当するAC'97 CodecチップはSigmaTel・Crystal Semiconductor・Creative自社の3社の製品がそのときの入手性に応じてランダムに使用されていた模様で、筆者の感想としては、音質は上記の順(注9)であった。

 このカードの特徴である、多機能高スペックをDSPを主体とする簡潔なハードウェアで実現しようというその設計は、一方でその機能をサポートするドライバの記述、特にアクセスタイミングの調整やコード記述の極端に難しいDSPのプログラミングにしわ寄せが行ってしまう事になった。事実、この製品のドライバは3代目に当たるLive! Ware 3まで“まるで使い物にならない”と酷評される程あちこちにバグを抱えた非常に厄介な、しかも恐ろしくファイルサイズが大きな代物(注10)であり続けた(注11)。

 更に言えばこのカードのNT系OS対応ドライバは初代の発売時から用意されていたにもかかわらず、余程実装に難があったらしく、例えばソフトウェアシンセサイザー(YAMAHA S-YXG50のNT版)をインストールしてある環境では、このカードの専用ユーティリティ(ミキサなど)の一部が起動時にエラーを出して動作しない等の問題が延々と発生し続けた(注12)。この、NT系をメインで使ってきた筆者には、このカードについては正直良い印象が全く無い。

 只、流石にと言うべきか、Windows 9xあるいはDOS上でのSound BLASTER互換モードだけはなかなか充実していて出来も良く(注13)、この点だけは評価に値する。

 総じてCreativeのドライバ/ユーティリティは“行儀が非常に悪い”という印象が個人的にあるのだが、この系統のカードのそれは、その最たる物であった。

 さて、肝心の音質についてである。

 流石にサウンドカードとしては高価なだけあってヒスノイズの少ない、およそ安物のISA版サウンドカードに比べると格段に高音質なアナログ出力が得られているのは確かである。ただし、その一方でミキサがAC'97とのからみで48KHz 16bit固定で動作しているらしく、これと3Dエフェクト処理のエコーあるいはリバーブのせいか、44.1KHz等の他の周波数のデータの再生時に妙にこもった様な音質劣化が感じられ、殊にCT4620の付属オプションであるCT4660やCT4760本体のSPDIF同軸出力経由のデジタル信号(注14)をDAT(注15)の内蔵DACや外付けDAコンバーター(注16)経由で出力して元のCDと比較した場合にはその差は非常に顕著で、少なくとも筆者には、これを宣伝文句にある様に一般的なオーディオ機器と同格の音質とは言えない、と感じられた。

 無論、ゲームの効果音やBGMの再生にこのカードが好適である事は、CPU負荷の極端に低いその設計も含めて大いに評価すべきであると思うが、少なくともオーディオ機器としてPCを取り扱いたいのであるならば、48KHzのPCMデータしか再生しないとでも言うのでない限りは、このカードを中核に据える事はお勧め出来ない。

 これに対して、オリジナルの巨大なSound Font形式のサンプリングデータを利用可能なこのカードの内蔵シンセは非常に優秀で、E-muが本来そちらに主眼を置いてEmu10K1を開発していた事を伺わせている(注17)。

 従って、このカードを“ハードディスクにデータを保存出来るサンプラー”と見なして使うのであれば、恐らくそれなりには幸せになれる事だろう。

 ただし、今更買うべきカードでないことは断言しておく。


 (注1):余談だがCreative製リテール版サウンドカードで正しく全二重に対応したのは初代Live!が最初で、AWE64以前のISA版Sound BLASTERシリーズでは互換性維持の必要から残されていた古い8bit PCMデバイスと標準の16bit PCMデバイスを無理矢理並列動作させて全二重サポートを実現するという、非常にトリッキー且つ汚い実装であった。

 (注2):再生だけなら内部論理レベルでは最大でステレオ16chまでサポート。標準のLive!の場合はメイン基板上にFrontとRearでステレオ2chのアナログ出力端子が2系統、合計4ch分実装されている。

 (注3):Sound Font対応でPCのメインメモリ上に最大32MBまでサンプリングデータのテーブル領域を確保可能。ちなみにLive!の内蔵DSPの仕様で32MB以上のデータは同時に扱えないため、以後の機種に対応した大容量音色データをロードすると音抜けが発生する。

 (注4):但しデジタル入力には色々細かい制限がある。

 (注5):筆者が入手したCT4620ではCrystalのCS4297A-JQが、CT4760ではSigmaTelのSTAC9721Tが搭載されていた。

 (注6):Live!でもOEM向けやバルク品、あるいはValueと銘打たれた廉価版モデルでは省略されている事が多い。

 (注7):1997年12月10日のCreativeによるEnsoniqの吸収合併で得られた技術によって不要になったため、この製品では結局未実装に終わっている。汎用性のないこの手のコネクタは対応機種同士ならば幸せになれるのは確かだが、やはり邪道である。Ensoniqの吸収合併でこれが不要になったのは幸いであった。

 (注8):専用拡張コネクタには含まれているが、例によってピンアサインは公開されていない。このコネクタにはOptical出力端子駆動用5V給電端子も含まれるため、ここからSPDIF入出力信号を取り出すのは配線ミス時のリスクがかなり大きいので注意されたい。

 (注9):端的に言ってしまえば自社ブランドのCodecは最悪の出来であった。今更このカードを積極的に買おうという方はまずおられまいが、中古やジャンクで買い求める場合には避けられるのが賢明である。

 (注10):これは結局現行バージョンでも変わっていない。もっとも、コントローラが基本的にDSPであるため、ある程度のドライバファイル肥大化は避けられないのも確かである。

 (注11):バージョンが上がってバグが取れる事をCreative自体は“ドライバによってカードの機能が進化する”と表現していた。全く物は言いよう、という事か。

 (注12):つまり、Windows NT/2000/XP用ドライバではソフトウェアシンセと同じ実装方法でmidiシンセドライバが書かれている可能性が高いという事である。これについてはS-YXG50(Ver.3以前。Ver.4についてはWDMドライバ化されて問題が解消している)側も綺麗な実装とは言い難い面があったのだが・・・。

 (注13):OPL系FM音源チップが搭載されておらず、内蔵シンセが代行して発音するので、OPLの機能をフルに使い切るソフトは正常に音楽が鳴らない可能性がある。但しOPL自体が機能的にかなり貧弱なチップだったので、実質的にはこの条件に当てはまるソフトは皆無に近い筈である。

 (注14):元データとしては音楽CDをPLEXTORのCD-ROMドライブで、付属のPlextor Manager 96を用いてWAV化したものを利用した。

 (注15):SONYのDTC-57ESやTCD-D3/D7で確認した。

 (注16):Esoteric D-2で確認。

 (注17):事実姉妹機種としてAudio Production Studioという、Live!から虚飾を廃して本当に必要な機能を追加実装したE-muブランドのサンプリング/オーディオシステム(定価 \99,800)が存在している。こちらのドライバがWindows 95/98専用の物しか提供されていなかった事は、Live!のNT系ドライバの出来が悪い理由を推察する材料となろうか。


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