Revolution 3D WRAM 8MB AGP / Number Nine Visual Technology


Graphic Acceralation Chip:Ticket to Ride (T2R) / Number Nine Visual Technology

RAM:50ns WRAM 8MB(増設モジュールにより最大16MB)

Port:AGP (32bit 66MHz 1x 3.3V)

動作確認マシン:PC/AT互換機(S1837UANG ThunderboltMS-6163


 Number Nine Visual Technology(以下#9と略記)の手になるオリジナルハイエンドグラフィックアクセラレータチップシリーズの第3作目に当たる、Ticket to Ride (T2R)を搭載した2D/3D兼用グラフィックカード。

 一応、名前に“3D”と銘打っている通り、前作までよりはずっとまともな3D描画機能を持つが、それでも所詮はS3のViRGE以下の機能しか持ち合わせていないので、この方面に関してはおよそ使い物にならない。

 無論、これも前作までと同様に傑出したGDI描画性能を備え、しかも漸くDirect Draw機能のフォローも行われたので、2Dに関しては相当優秀なカードである事には変わりはない。

 相変わらず高価であったが、それでも前作まで(約7万〜10万)と比べればずっと安価に、具体的には少なくとも大学生でもバイトすれば何とか買えそうな所(約3〜5万)まで値段が下がってきた。

 実はこのRevolution 3DのAGPモデルこそは日本市場に出荷された最初のAGPグラフィックカードの一つであり、同社最後のRAMDAC外付けモデルとなった事も含め、様々な意味で記録に残る製品であった。

 但し、AGPモデルとPCIモデルの相違点は基板のレイアウトを含め意外な程に少なく、文字通りバス/ポートのカードエッジ部の相違のみ、といった感があった。

 これは、T2RチップがAGPとPCIの最大の相違点であるサイドバンドアドレッシングやGARTといった拡張機能を特に使用していなかった為らしく、つまりAGPを「32bit 66MHz動作するPCIバス」としてしか使っていなかった様だ。

 カードのレイアウトはどことなく「アメリカでデザインしたMatrox製品」とでも言うのか、ライバルのMatrox Millenium(カナダ製)をかなり真剣に研究した跡の伺えるデザインになっていて、前作までの奔放さや煩雑さは影を潜めている。

 特に、先代と先々代に当たるImagine 128系チップの場合はImagine 128 Series II系の後期モデルを除きImagine 128/Imagine 128 Series IIチップ内蔵のPCI to ISAバスブリッジによって接続されていたCL-GD5422/5424チップがVGA機能を代行していたが、この製品に至って漸く最初からVGA BIOSがT2Rチップで動作する様になり、この辺に関わる部分についてカード上のレイアウトが大幅に整理されているのが目を引く。

 もっとも、肝心のT2Rチップ自体のパッケージサイズは相変わらず大きなもの(当時最大のライバルであったMillenium IIと比較しても30%位大きい)であったから、それは基板レイアウトにも幾分影響を与えていた様だが。

 ここで実現をみたチップ数の削減(最低でもGL-GD542xとそれが必要とする512KB分のDRAMが不要になる)はこの製品全体の生産コスト削減に相当大きく影響を及ぼしていたと考えられ、前述の通り前作のImagine 128 Series IIで7万以上していた価格はこの製品に至って3万から5万円程度にまで値下げされたのであるから、思うにこのデュアルグラフィックチップ構成というのは相当高くついていたのではあるまいか。

 なお、低コスト化の為の努力はRAMDACにも影響を及ぼし、前作のImagine 128 Series II VRAM 8MB版で250MHz品が搭載されていたのが、今回のRevolution 3Dの8MB版ではImagine 128 Series IIの4MB版と同じ220MHz品にグレードダウンしている。

 実際にはその限界性能が必要になる様な使い方はしない訳だが、この辺でImagine 128系がいかに贅沢をしていたかが良く分かる。

 それでも、コスト重視の筈のこの製品でも実際の性能に影響の出るVRAM周りのパーツについては非常に贅沢な選定が行われており、ここでもやはりMillenium系を意識したのか、それらと同じWRAM、中でも特に希少な50nsモデル(Millenium系はIIでも60nsモデルを使用。公式には50ns品は三星のカタログには存在しなかった筈なので、恐らく特注の選別品と考えられる)が実装されていた。

 ただ、Millenium IIの後、RIVA 128の直前に発表されたこのカードは登場が遅きに失した感がある。

 確かにこのカードの、いやこのT2Rチップの実現する2D描画性能は傑出したものであり、これに少なくともViRGEには充分比肩しうる程度の性能の内蔵セットアップエンジンによる3D描画性能を付加した事は、設計開始時点での一般的な感覚からすれば妥当な判断であったと思うが、#9にとっては残念な事に、そういったタイプのグラフィックカードが通用する時代は長続きしなかった。

 何故なら2D描画でこれにほぼ拮抗し、3D描画性能では最早次元の違う性能を叩き出すnVidiaのRIVA 128がこのカードの出荷を追う様に発表され、その高速性と安価さを武器に瞬く間に市場の大半を制してしまった為である。

 結局の所、RIVA 128はミドル〜ローエンド層に適応した安価なグラフィックアクセラレータであり、高解像度方面の機能実装が不十分であった為に#9が主たる市場としていたハイエンド層には普及をみなかった訳だが、この時に#9やMatroxが受けた打撃は相当のものであった様で、あれ程隆盛を極めた#9が衰退し最終的に消滅の道を辿ったのも、その傍証となろうか。

 言ってみれば、このRevolution 3Dは最強の前Dreadnought級戦艦の様なもので、革命児たるDreadnought=RIVA 128が出現してしまったが為に、一夜にして旧式扱いとなって色褪せてしまったという事である。

 もっとも、そうは言ってもその実力は今もって侮り難く、特にその出力画像の品位においてはRIVA 128等のRAMDAC内蔵モデルは比較対象にもなり得ない訳なのだが、厄介な事には本当に高品位なディスプレイとディスプレイケーブルを揃えて正しく調整しないと真価を発揮しないという相当に使用者を選ぶ(このカードの真価を知るユーザーの数が全世界で万の大台に乗るかどうかは非常に疑問である)性格のカードであった。

 ちなみに、#9はハードウェアの設計製造に当たってはあれ程緻密で素晴らしい仕事をするのに、どうもドライバの開発方面では今一つ、いや、今三つ位の技術力しか持っていなかった様で、この製品のWindows版純正ドライバはどうしようもないタコであるというのが世間での定評であった。

 何しろ、Windows98発売から1年近く経ってからリリースされたドライバでも山程致命的な不具合が残っている(特にDirect Draw関係)有様で、ハードは良いけどドライバがアレなので使いたくないという声が結構大きかったらしい。

 不可思議なのは#9自身がその問題の改善に最後まで乗り出そうとはしなかった事で、続くRevolution IV(Ticket to Ride IV搭載)が不振に終わったのもその辺に理由があると思われるだけに、その対応には疑念が残る。

 尚、#9恒例のVGA-BIOSの起動メッセージは、このカードの場合もPCI版と同様に“I've got a "Ticekt to Ride"”(アルバム“Help!”収録の“Ticekt To Ride”の歌詞のもじり)だが、PCBの透かし文字は“Its been a hard day's night...”(1964年の大ヒットシングル、“A Hard Day's Night”より)と“and we've been working like a dog.”(同じく“A Hard Day's Night”の歌詞のもじり)であった。


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