RADEON HD3850 512MB AGP / Advanced Micro Devices



Graphic Acceralation Chip:RADEON HD3850 (RV670:コアクロック668MHz) / Advanced Micro Devices

RAM:GDDR3-SDRAM 512MB(1400MHz 256bit)

Port:AGP (32bit 66MHz 8x 0.8V)

動作確認マシン:PC/AT互換機(S2885ANRF Thunder K8W


 2007年冬にデビューした、RADEON HD3850搭載AGP対応カードの1つ。

 RADEON HD3850自体は、ATI/AMD系では初のPC向けユニファイドシェーダー搭載グラフィックコントローラーとなったR600系(RADEON HD2900など)を基本としつつ製造プロセスをシュリンクして55nmとしたモデルである。

 AGP版のこの製品では関係ない話も含まれるが、RADEON HD3xxxシリーズでのRADEON HD2xxxシリーズからの主な変更点は、DirectX 10.1対応、PCI Express 2.0サポート、省電力機能(PowerPlay)の搭載、CrossFireXのサポートなどとなる。

 RADEON HD2xxxシリーズまではハイエンドチップとしてのR600がまず存在し、そこから機能の削減を行った派生モデルが開発されるというトップダウンのラインナップ展開だったのだが、このRADEON HD3xxxシリーズ以降AMDは開発方針を変更し、量産性の高いアッパーミドルチップのRV670を基本とし、マルチGPU機能を積極的に活用するという、ミドルアップダウン展開を行うようになっている。

 このカードに搭載されたRV670は正にそのラインナップの中核をなすアッパーミドルの基軸チップそのものであり、前世代のハイエンドであるR600の設計・仕様の大半をほぼそのまま継承している。だが、その一方でR600と比較して消費電力半減、チップ面積半減、シェーダー数維持(単精度積和演算ユニット数は320)、と低コスト化を進めつつも性能を維持する、という理想的な改良が実現している。

 もっとも、そうした改良の一方でメモリバス幅半減(512bit→256bit)となっており、性能面で無視できない悪影響も一部にあったのだが、これはメモリバス端子を置くチップの周辺部分の長さが製造プロセスのシュリンクで確保できなくなった(バス信号線を外部に取り出す端子の面積やサイズは半導体の製造プロセスのシュリンクと基本的には無関係である)=つまり製造プロセスのシュリンクとトレードオフの関係にあった問題らしく、ライバルのGeForce系でも同様の判断となっていて、G80からG92へ改良される際にやはりメモリバス幅を384bitから256bitに削減している。

 G80に対するG92でもそうだったが、製造プロセスの縮小のもたらす低消費電力、低発熱、低生産コスト、動作クロック耐性の向上、といったメリットは圧倒的で、また実用上メモリバス幅削減に伴う性能低下が露見するのは本当に限られた環境なので、この辺の損得勘定はなかなか判断が難しい。

 特に消費電力はこの製品の実現にも関係している重要な問題で、HD2xxxシリーズでは不可能だった(そもそもラインナップにアッパーミドルに該当する製品が存在しなかったのも確かだが)、アッパーミドルレンジクラスのチップを搭載できた(なお、HD2xxxシリーズではHD2600がAGP版最上位であった)のも、RV670の消費電力がAGPカードに搭載できる電源回路の給電能力の範囲に収まっていればこその話なのである。

 ちなみに、この製品では“Rialto”と呼ばれるATI/AMD標準のPCI Express−AGPブリッジチップが、黄橙色の保護用ゲルシートで周囲を保護されているとはいえ、チップむき出しの状態で基板の半田面AGPカードエッジ端子直上、つまりRV670の真裏に実装されている。

 AMDの採ったこのレイアウトには、AGP版とPCI Express版で冷却系のレイアウトや仕様を統一できるというメリットがあって、専用の巨大クーラーを装着したこの製品でも、基板上にPCI Express版RADEON HD3850で標準搭載されていた1スロット仕様クーラーのアウトラインを示すシルク印刷が施されている。

 また、このレイアウトから、ヒートシンク貼付必須であったライバルnVIDIAのHSIと違って、“Rialto”は低発熱設計であることも見て取れる。


 前置きが長くなったが、これは現代的で比較的高速なGPUの性能・機能を、AGPしか備わっていないマザーボードのユーザーに提供してくれる希少なカードの1つである。

 ご存じの方も多いかと思うが、ATI/AMDの長年のライバルであるnVIDIAはGeForce 7シリーズでミドルレンジのGeForce 7600GTやGeForce 7800GSを提供したのを最後にAGP対応でミドルレンジ以上のチップを搭載したグラフィックカードのリファレンスデザイン提供を止め、AMD自身も2009年3月のATI Catalyst 9.3を最後にRADEON X1xxxシリーズ以前のドライバサポートを事実上打ち切ってしまった(ただし、その後も「重大な修正」の必要が生じた際に限ってはアップデート版の提供がなされている)。そのため、AGPでそこそこ以上のまともな描画性能を備えたグラフィックカード、それもWindows 7で使用可能なものを探すとなると、実質的にRADEON HD2xxx以降しか選択肢がなく、さらにその中で絶対性能の高いものを探すとなると、HD4670かこのHD3850か、という話になる。

 これらの内、HD4670はシェーダー数はHD3850と同じ320となっているが、HD3850より1世代新しい分だけシェーダーそのものの設計が改良されていて処理能力が向上しており、しかも高クロックでシェーダーとメモリが駆動される設計となっている。もっとも、その反面メモリバス幅がコストダウンのために半減されて128bitとなっており、特に高負荷になればなるほどHD4670はHD3850よりも有利な結果を出す一方で、メモリバス幅が応答性に影響する日常使用についてはHD4670はHD3850に比してどうしても挙動の切れが悪く、一長一短といったところである。

 そのような事情から、AGPでしかもWindows 7でAeroの使えるグラフィックカードを求めていた筆者は、半ば選択の余地がない状態でこのカードを2010年2月に中古にて購入した。


 カードそのものは、おそらくリファレンスデザインそのものの6ピンPCI Express電源コネクタを搭載した赤い基板本体に、黒染処理を施した巨大な2スロット占有型クーラーを搭載する、2007年頃のアッパーミドルクラスのグラフィックカードで一つのスタンダードとなっていた構成を採っており、1スロットのブラケット部についても、中央にビデオ出力端子を置いてその上下にDual Link DVI-I端子を搭載する、やはり同時期のPCI Express版カードで一般的であった配列となっている。

 つまり、カードエッジ端子部が異なるのと、CrossFireX用端子が省略されていることを除けば、少なくとも部品面から見る限り、このカードは同時期のアッパーミドルクラスPCI Expres版グラフィックカードと何ら相違のない佇まいであり、最早希少となったAGP対応製品であることをアッピールするようなデザイン的な要素は皆無である。


 さて、肝心の動作についてだが、筆者の環境では諸事情から組み合わせたマザーボードがAGP周りのBIOS実装にかなり難のあるThunder K8Wであったため、Windows 7 Professional x64版でドライバ組み込みを終えて再起動後、標準VGAドライバから専用ドライバに切り替わる瞬間に青画面が出た(苦笑)。

 もっとも、この問題については過去に RADEON 9800PROのページでも記した通り回避策が一応存在し、マザーボード側BIOSメニューの「Chipset」→「AGP Chipset ConfigurATIon」にある「P Data Drive Strength」以下4項目の設定をメーカー推奨の「Auto」から「Fixed」に変更し、上から順に“+1”、“+1”、“0”、“0”、などと設定することで一応解決可能である(3DMark06も完走するようになる。ただし、適切なパラメータを設定するにはいわゆる「アミバ方式」の総当たり戦でテストしてみる他ないのだが…)。

 それ以降は至って快調に動作しており、GeForce 8800GTよりやや低いものの、AGP版グラフィックカードとしてはこれまで筆者が見た中で最速の性能を発揮している。

 動作について特筆すべきは、Catalyst 8.12から実装がスタートしたATI Stream版ATI Avivo Video Converterがこのカードでも使用可能となっていることで、ある意味当然と言えば当然なのだが、ポートの構成が下り重視で上りの帯域が狭いAGPでサポートされているとは思っていなかったので、少々意外に感じたことであった。さらに言えば動画再生支援機能も有効に機能しており、この点だけでも世代の新しいHD3xxx以降を使用する価値がある。また、危惧された消費電力や発熱量も筆者の見る限りは特に過大ではなく、これはAGP 8xスロット搭載マザーボードに対する事実上最後のアップグレードパスとしては悪くないどころか、飛び抜けて素晴らしい出来の一品として良いだろう。

 なお、筆者のマシン環境(Thunder K8W+Opteron 265 Dual、メモリ7GB)ではWindows 7 x64におけるWindows エクスペリエンスインデックスでの評価はグラフィックス、ゲーム用グラフィックス共に5.9、3DMark06で約7500程度といったところである。


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