1391401 (Model M) / IBM


 長きに渡って市場に君臨したIBM PC/ATの標準キーボードとして、初期に用意されていた84キーキーボードの後継機種として登場し、本体以上に長きに渡って製造販売が続けられた記念碑的傑作であるEnhanced 101 Keyboardの1つ。

 ネットオークション(1993年製)とジャンク(1989年製)で各1枚入手した。

 外見的には93年製はIBMロゴバッジの文字色が青、89年製は5576-001/002/A01などと共通のグレー、という相違点があるので、判別は容易である。

 これもスプリングバック機構搭載メカクリックキーボードで、本家IBM(Made in USA)の製品だけあって、かなりごつ苦しい感じがする。

 サイズ的にはIBM 5576-001より幅はやや狭いが奥行きではやや広い、というかなり大きなもので、重量もベースに鉄板が仕込まれている関係でかなり重い部類に入る。

 キーボードケーブルは専用コネクタでキーボード本体と接続される構造で、過酷な使用条件での断線→代品交換に備えているあたりに時代を感じる。

 もっとも、この構造のおかげでPS/2登場に伴うコネクタ形状の変更にも容易に対応出来た訳で、その点は先見の明があったと言えよう。

 実を言えばこのキーボードの外形デザインはTERADRIVE KEYBOARD 106と色違いでキー数が少ない以外はかなり酷似(TERADRIVEのキーボードの方がこちらを模したものである事は言うまでもない)しており、メカニズム的にも細長いコイルバネの挫屈をクリック感に利用する、IBM特有のスプリングバックによるメカクリック機構で共通するが、コイルバネの太さが異なり(こちらの方が太いコイルバネを使用している)プラ製のフレーム構造も少々毛色が異なっている。

 このプラフレームは89年製がベージュ、93年製は黒と成型色が異なっており、この材質の相違のせいかタッチが微妙に異なっている様で、またプラフレームの外装ケースへの固定方法やコントローラ基板の設計も世代毎に違っているらしく、意外と各世代間での部品の相互互換性は低い。

 興味深い事には、89年製の方ではコントローラには何故かモトローラ系の6805が搭載されており、この種のキーボードのコントローラが必ずしもIntel 8051/52系マイコンで無くても構わない事が知れる。

 キー配列は当然ながらASCIIで、多くのキートップが2重になっていて外装部のみ外せる構造となっており、キーが汚れた時の清掃や交換には非常に便利であるが、これは取り外し可能キーのマッピングから判断するに、恐らく販売先各国の言語への対応が主目的と考えられる。

 ちなみに、このキーボード(及びTERADRIVE KEYBOARD 106)はプラフレームの下にシートスイッチや補強用鉄板を重ねた上で、プラフレームから突き出したピン(各層を貫通する)の頭を溶解して一種のリベット締めとする構造である為に分解=破壊となって復元は事実上不可能(実際私はこれで93年製を駄目にしてしまった)なので、その点については注意されたい。

 但し、この強固な構造故に分解を要する状況になる可能性が殆ど無いのも確かで、このあたりはメンテナンスフリー構造を徹底する事で分解保守を根本的に不要とする、伝統的なアメリカ流合理主義の現れと捉える事が出来ようか。

 もっとも、この種の設計の場合、「メンテナンスフリーは逆にメンテナンスの必要が起こった時には難しくなります」(西敏夫:“鉄道史料”第28号 “Brill台車とその特色”より)という経験則があって、長期的なメンテナンスフリー運用の後は余程の保守設備なり技術なりが無い限りは最終的に保守不能に起因する放棄を強いられる事になるのが相場なので、善し悪しではある。

 キータッチについては、IBMの歴史的名作である電動タイプライターのそれに範を取って設計された関係でストロークがかなり長く、かつかなり重い傾向があり、打鍵音も相当なものなのだがとにかく丈夫なキーボードで、打鍵時の疲労感も不思議と少ない。

 この系統のキーボードは熱烈な支持者が多く、今でも殆ど仕様変更無し(あのIBMロゴが無くなり、ケーブルがキーボード本体直付けとなった)でUNICOMPが販売しているが、この完成度の高さを考えればそれも当然だろう。

 とにかく無闇に大きく無闇にうるさいので日本の一般家庭には不向きだが、そのタッチの良さと強靱さは特筆に値する製品である。


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