DIGI96/8 PST / RME


Bus:PCI Rev.2.0 (32bit 33MHz 5V)

サウンドコントローラ:XCS40XL“SPARTAN” / XILINX

DAC:AD1852 / Analog Devices

ADC:AK5383VS / 旭化成マイクロシステム

対応機種:PC/AT互換機・PCIバススロット搭載Power Macintosh

動作確認マザーボード:S1837UANG ThunderboltS2460 Tiger MPS2466N-4M Tiger MPXS2885ANRF-T Thunder K8WS2885A2NRF Thunder K8WE


 かつてDIGI32シリーズというPCIバス対応SPDIF入出力カードで知られたドイツのRMEが開発した、ASIO 2.0対応2/8ch出力オーディオカード。

 まず2001年春に入手したものを2004年4月まで使用して売却し、その後2005年1月に再度ジャンク扱いで、そして2007年10月に3度中古にて入手した。

 この製品はシリーズバリエーションとして2ch専用のDIGI 96や2/8ch両用でより業務用途に特化した入出力端子を備えるDIGI96/8 PRO(SPDIF・AES/EBU・ADAT・アナログOUT)・PAD(SPDIF・AES/EBU・ADAT・アナログI/O)等が存在するが、普通に“聴く”のをメインに使う分にはAES/EBU・ADAT両端子は不要とは言わないが使用頻度が非常に低いのでこのPSTで充分(注2)だろう。

 これはXILINX製FPGA(注1)と高速な20ns 128KB SRAMの組み合わせで低負荷での超低レイテンシ動作を実現したカードで、ステレオ標準プラグによるアナログ入出力、パルストランスを介した同軸入出力、それにADATに対応したTOS LINK(Optical)入出力をそれぞれ各1ch実装するという明らかにスタジオユースを重視した設計になっている。

 機能的にはその名が示す通りサンプリングレート32/44.1/48/64/88.2/96KHz(注3)でWindowsがサポートする16〜24bitのすべてのPCMフォーマットに対応するPCMオーディオ入出力機能をサポートし、ADAT経由の場合は同規格に許容される最大8Chの同時録再が可能となっている他、内部に実装されたSync In/Out端子を用いて同型カードを複数枚デイジーチェイン接続する事で同期動作させる事も可能である。

 流石は高価な業務用と言うべきか、このカードの各入出力の精度や音質は誠に素晴らしく、殊にアナログ入出力は24bit 96KHzに対応した非常に高音質(注4)なもので、これを一度聴いてしまうと他のサウンドカードのアナログ出力で音楽を聴くのが馬鹿らしくなってしまう程である。

 只、その分析的な音作り(注5)故にソースを選ぶ傾向も強く、録音の質の良いソースでは素晴らしい音像を再現してくれるが、質の良くないソースではストレートにその悪さが伝わってくるという特徴もある。

 無論この特徴はスタジオユース、とくにモニター時には非常に重要な要素であるからむしろそうであって当然だが、それ故このカードは低品質なソース、例えばビットレートの低いMP3ファイルを綺麗に再生したい、といった用途には極端に不向き(注6)である事は予めご承知おき願いたい。

 最近ではCreativeのEmu10k2系チップやVIA(旧IC Ensemble)のEnvy24系チップなど、96KHz 24bitのサンプリングレートをサポートするサウンドチップが普及し、またマザーボードのオンボードCodecチップでさえ“Intel High Definition Audio”(注7)と称する192KHz 32bitまでをサポートする機種への移行が進んだ昨今では、このカードの96KHz 24bitというスペックでさえ陳腐化を否定出来ないが、実の所額面上のスペックがいかに立派でもカードの実装が駄目なら良い音が出ない、というのはオーディオ機器としては自明の事(注8)で、筆者はスペック上このカードと「同等」あるいはそれ以上と主張するEnvy24系チップを搭載した幾つかのカードとSoundBLASTER Audigy/X-Fi系カード各種を試してみたが、それらはこと音質に関する限り、いずれも登場から既に8年以上を経たこのカードに勝る物ではなかった。

 あるいは、「搭載DACの差が音質差に繋がっているのではないか?」という疑問をお持ちの方もおられるかも知れないが、事はそんなに単純ではなく、SPDIFで出したデジタル音声信号を同じDACで受けてアナログ出力しても差が明瞭に現れるのであるから、これはもうコントローラチップそのものの根本的な性能差と考えて良いだろう。

 もちろん、このカードのコントローラには一般的なWindows MMEで動作する音声ミキサが搭載されていないことは考慮する必要があるのだが。

 ちなみにこのカードのアナログ出力はかなり強力で、オペアンプに新日本無線のNJM4580を搭載し、インピ−ダンスが600Ωとかなりシビアな設計のAKG K240DF(注9)でも充分な音圧が得られる設計となっている。

 又、このカードのSPDIF出力は、カード自体に搭載されている超高精度クロックオシレータを利用するMasterモードと、このカードに対するSPDIF入力信号のクロックをそのまま流すSlaveモードの2つを切り替えて利用可能で、不安定なSPDIF入力がソースの場合でも確実に出力出来る様に工夫されている(注10)他、5.1chサラウンドデータなどをSPDIF入力経由で受け取った場合に非オーディオデータとしてそのまま出力に回すNON-AUDIOモードやProfessionalタイプのヘッダ出力にも対応している。

 只、これらの充実したスタジオ録音用機能の実装と引き替えに前述の通りPCMのミキシング機能が持たされていないので、これは単体ではゲームには使えないが、それはお門違いというものだろう。

 機能的な充実度とその動作の安定性、アナログ入出力の音質、それにSPDIF経由のデータを下手に加工しない、という点ではこのカードは非常に優れた設計であり、私個人としては全く不満が無い。

 また、ゲームの対応については内部にワードクロック入力と兼用のSPDIF入力端子(CD-In)が存在しており、これに適当なサウンドカードの内部SPDIF出力をつなげばそれで済む(注11)ので、オーディオ/サウンドカードの2枚挿しを許容出来るのであればこの点は全く問題にはならないだろう。

 何しろ値段の高いカードなのでなかなかお勧めしがたいのだが、PCで高音質なデジタルサウンド/オーディオ環境を本気で求めるのであれば、あるいは過去に録り貯めたDATの資産をCD化したいのであるならば、このカードあるいは後継となるDIGI 96/8PST PROは購入を検討するに値するカードであると思う。

 なお、このカードのWindows NT4.0/2000/XP用ドライバは対称マルチプロセッシング対応を公式に表明しており、事実デュアルプロセッサ搭載マシンでの動作が非常に安定していることと、残念ながらWindows XP Professional x64以降のWindows用ドライバサポートが行われていないことを特に申し添えておく。

 また、カードエッジ端子部が何故か3.3/5V両用仕様で誤挿入防止キー用の溝が切ってあって挿さってしまう為に誤解しそうなのだが、このカードは基本的には32bit 33MHz 5VのPCIバス専用で、S2466N-4M Tiger MPXの64bit 66MHz 3.3V PCIバススロットに挿すと、そもそもマシンが起動しなかった。

 但し、最終期のロットと、メーカーに修正依頼を出した個体については3.3Vスロットでも動作し、筆者が3枚目に入手した個体はそのいずれかであったらしくThunder K8WEの133MHz PCI-Xスロットに挿しても問題なく動作したが、それまでの2枚との相違点はシールになっていた機種名表記がシルク印刷になった程度で、基板上の部品実装には明確な変更点を見出せなかった。

 購入を検討しておられる方は、この点について特にご注意願いたい。


 (注1):Field Prgramble Gate Array:現場で書き換え可能な大規模集積回路。

 (注2):ADATはTOS LINKでも入出力出来る。

 (注3):オプションモジュールの追加でワードクロックによる可変同期もサポートする。

 (注4):DACとして搭載されたAnalog Devices AD1852は、24bit 192kHz出力にまで対応する優秀なマルチビットΣΔ型D/A コンバータ(チップ単体でのダイナミックレンジは114dBに達する)である。また、ADCとして搭載された旭化成マイクロシステムAK5383は、108KHzまでのサンプリングレートに対応する24bit128倍オーバーサンプリングADCで、Enhanced Dual Bitと呼ばれる新開発のサンプリング方式(つまり、従来の1BitΔΣADCではない)によるΔΣ変換で低歪率と広ダイナミックレンジを両立する事に成功しており、チップ単体でのダイナミックレンジは110dB(ちなみにこれとピンコンパチブルで上位機種に当たるAK5393ではダイナミックレンジが117dBとなるので、コストを度外視してこれと交換すれば理論上、ADC性能はなお向上可能である)に達している。これらの威力により、このカードのダイナミックレンジは入力:105dB・出力:106dB、チャンネルセパレーション>110dBという破格のスペックを実現している。

 (注5):あるいは計測機器的と言い換えても良いかも知れない。

 (注6):MP3圧縮展開に伴う歪みがストレートに聞こえてしまう。

 (注7):開発コード:“Azalia”。額面のスペックの結構さの割に、大した音は出ない。

 (注8):これは例えば、CDの規格を下回る14bit DACを搭載していたフィリップスのLHH 2000(1985年発表)が、何故その後20年に渡って名機と評され続けているか、といった問題と同じ要因によるものである。

 (注9):筆者が長年に渡って愛用している密閉型ヘッドフォン。

 (注10):従って当然の様にEsoteric D-2でも安定同期する。

 (注11):このカードはいわゆるSound BLASTER系のリソースを一切使用しないのでリソースレベルでの干渉は理屈上発生し得ない。


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