S2895A2NRF Thunder K8WE / TYAN
CPU Type:Socket 940 *2
Chip Set:nForce Professional 2200(CK8-04) + nForce Professional 2050(I/O-4) / nVIDIA + AMD-8131 / AMD
FSB Clock:266,333,400MHz
RAM Module Type:184pin 2.5V PC2100・PC2700・PC3200 ECC Registered DDR-SDRAM DIMM *4*2
Ext.Slot:PCI Express x16 *2, 64bit 133MHz PCI-X *1, 64bit 100MHz PCI-X *2,32bit 33MHz PCI *1
Ext.Onboard Device:TSB43AB22A / Texas Instruments (IEEE1394) , AD1981B / Analog Devices (AC'97 Codec)
Power Supply Type:SSI EPS12V
Board Form:Extended ATX
BIOS: Phoenix BIOS
2004年末に国内デビューを飾った、TYAN初のnForce系チップセット搭載マザーボード。
姉妹モデルとしてPCI-Xバス対応Ultra 320 SCSIコントローラである53C1030を搭載するS2895UA2NRFが存在する。
また、この製品はHewlettPackard製グラフィックワークステーションであるxw9300/CTに、S2895U2NRFからnForce Professional 2050(I/O-4)に接続されている方のGbEコネクタを省略しBIOSを各国語対応の専用品に変更したカスタマイズ品がOEM供給されており、これによる量産効果が同業他社の競合製品よりも低価格での販売実現に寄与している様だ。
Opteron対応マザーボードとしては先行してAGPをサポートするnForce3 Pro250チップセットを搭載する製品がRIO WORKSやIWILLから発売されていたが、TYANはこれをやり過ごしており、結果としてOpteron対応マザーボードとしてはPCI-ExpressとnForce系チップセットの双方を初体験、という思い切った状態でこの製品を開発している。
このボードにはチップセットとしてAthlon 64用のnForce4チップセットの上位に当たるnForece Professionalが搭載されているが、IWILL/RIO WORKSの競合製品(HDAM Expressなど)がnForce4 SLI相当のnForce Professional 2200とPCI-X TunnelであるAMD-8131を組み合わせているのに対し、こちらでは1基目のCPUに接続されるnForce Professional 2200に加えて2基目のCPUに接続されるnForce Professional 2050を搭載している。
これにより、2chのチップセット内蔵GbEインターフェイスや2本の16レーンPCI-Expressスロットの実装を実現しており、特に後者は当時のnVIDIA製一般向けチップセットであった通常のnForce4では真似の出来ない両スロット16レーンフルスピードによる対応グラフィックカードのSLI動作、という高速3D描画環境を実現可能とした。
16レーンPCI Express 2本の搭載については、メーカー側はSLI動作よりもむしろ、片方をAMD-8131によるPCI-Xバスでさえ速度が不十分な状況で超高速ストレージインターフェイスカード等に割り当てる事を念頭において設計していた由で、発売開始当初の製品にはSLIのために必要な純正アダプタさえ付属しないという徹底ぶりであった。
もっとも、流石にPCI-Express対応ストレージカードが出揃っていなかった当時の状況では、やはりフルスピードSLI動作(注1)が主目的という事になる様で、筆者が2005年7月後半に購入したパッケージにはTYANのロゴ入り純正SLIアダプタが同梱されていたから、発売後に方針の修正があったという事であろう。
マニュアル記載のブロックダイアグラムを見ると一目瞭然なのだが、このnForce Professional 2200・2050チップは直接には接続されておらず、2基のOpteronに内蔵され、相互間の通信に利用されるHyper Transportコントローラ(注2)を介して接続される構造となっている。
つまり、データはnForce Professional 2200←→Opteron(CPU 1)←→Opteron(CPU 2)←→nForce Professional 2050という経路で流れる様になっている為、このボード(および同種の構成を採る他社製品)ではOpteronを2基搭載せねばnForce Professional 2050チップが機能せず、その配下のGbEや16x PCI-Expressスロットが使用出来ないという事になる。
また、同じ理由でCPUを1基のみ搭載する場合には、必ずnForce Professional 2200に直結される方のソケットに挿さねばならない。
このあたりの仕様は一見かなり大胆な印象を受けるが、このチップセットは4CPUソケット構成のマザーボードではnForce Professional 2200 + 2050 * 3という大規模構成も可能であり、またAthlon64/Opteronでのデュアルコアモデル登場のロードマップがほぼ確定した時期に開発されたチップセットである事を考えればこの構成でシングルCPU動作というのは正直殆どメリットがない(注3)。
それらを踏まえて考察してみると、このチップセットは慎重な検討の上でデザインされたフレキシブルかつスケーラブルな、非常に効率の良い設計である事が判る。
もっとも、CPU 2基搭載状態でnForce Professional 2050側のPCI-Expressスロットにのみグラフィックカードを挿してマシンを構成する場合、32bit PCIバススロットにTVチューナ/ヴィデオキャプチャカードを挿してTV映像をオーバ−レイ表示させようとすると表示データの転送が追いつかないのか正しく表示できない、という現象が発生する事が確認されており、CPU間のHyperTransportを介する事によるデータ転送のレイテンシ増大は思った以上に大きい様だ。
これは余談になるが、nForce系チップセットの開発にはSGIであのVisual WorkstationのIVCアーキテクチャ(注4)=Cobaltチップの開発に携わったアーキテクトが参加しているらしく、初期のnForce/nForce2の統合グラフィックス機能にはその影響が特に色濃く現れていた。nForce4系になってもその基本的な設計思想は変わっておらず、メモリ-グラフィックコントローラ間のアクセスに帯域を優先的に割り当てる(注5)事で描画性能の向上を図る方針を首尾一貫し続けている。
この為、ディスクデバイスのI/Oトラフィック性能を最優先しなければならない比較的規模の大きいサーバでの使用にはやや不向きで、TYANが未だAMD-8000シリーズ搭載ボードの継続供給を続けている理由の一つとなっていたが、それはそれとしてもこれが当時としては圧倒的な能力を備えたチップセットであった事は確かである。
さて、筆者の場合は同クラス、しかもTYANの前作であるS2885ANRF-Tからの移行、それもCPUやメモリ、それにSCSIカードやHDD等のマザーボードとグラフィックカード以外のほぼ一式を流用しての移行であったのだが、RADEON 9800 PRO 128MBから2世代以上新しいGeForce 6800 256MBやGeForce 7800GTX 256MBへのシフトで性能向上が著しかったグラフィック周りを除外して考えても体感速度が僅かながら明確に向上(注6)しており、チップセットの世代差が性能差に結びつくのを改めて認識させられた事であった。
正直な所を言えば、nForce Professional 2200/2050がそれぞれ持っている4レーン分の1x PCI-Expressインターフェイスが無効のままとなっている事や、唯一の32bit 33MHz PCIスロットの位置などには多少不満があるのだが、それ以外は総じて良くまとまっており、また基板の仕上がりも例によってかなり良いので、満足度はかなり高い。
もっとも、Athlon64 X2やソケット939対応に移行したOpteron 1xx(注7)で比較的廉価にデュアルコアCPU搭載が可能となっていった、そしてソケットAM2・AM3の下で4コア・6コアCPUが一般化していったその後の情勢からすると、このような大規模な構成のデュアルCPU対応マザーボードを使用し続ける事には、主として消費電力などのコスト面で大きな問題が存在する。もっとも、ストレージ系デバイスを高速で動作させようと思う場合に限っては、主としてPCI-Xバスの非サポートやグラフィック用の1本以外のPCI Express対応拡張スロットでx8あるいはx16レーン対応のものが搭載されていないなどの理由で、シングルCPU対応製品では満足出来ないケースがあったのも確かで、その場合にはこういった製品が有用である。
なお、既存のTYAN製AGPスロット搭載マザーボード、特にAMD製CPU対応機種にはそのBIOSに色々難があったのだが、PCI-ExpressになってGARTやサイドバンドアドレッシングといったAGP特有の機能が無くなったお陰か、このボードのBIOSにはグラフィックカードに関する深刻なトラブルが見当たらず、少なくとも高速なグラフィック描画を必要とするユーザーにはこの点だけでもAGPがらみで奇怪な挙動が頻発したS2885から積極的に乗り換える理由になるだろう。
このボードのnForce Professional 2200チップには一部を切り欠いた特殊な形状をした背の高いヒートシンクが装着されているが、この形状はチップのレイアウトの関係上PCI-Expressスロット#1に挿した長めのカードとの干渉を回避する為のもので、フルサイズのOpenGL対応グラフィックカードばかりでなく、例えばリファレンスデザインのGeForce 7800 GTXあたりでも切り欠きが無ければ干渉する事が確認されており、設計上チップ配置で相当苦労した事をうかがわせている。
実の所、これについてはチップファンを搭載すれば比較的容易に回避可能なのだが、それを敢えてわざわざ特注の変形タイプの大型ヒートシンク搭載としている事から推察するに、やはりこれはHewlettPackardへのOEM供給等を前提に故障しやすい小型ファン搭載を避けたという事で、長期的にノントラブルで実用に供する事を重視した設計方針である事が判る。
このボードは搭載されたnForce Professional 2200・2050チップセットがデスクトップPC向けチップセットの傑作、nForce4系のバリエーションモデルであったことから完成度が非常に高く、今となってはPCI-Express x1スロットが一切実装されていないのが不満といえば不満であるが、それ以外についてはほとんど不満が出ないまま筆者は2年以上使用し続けたし、同型マザーボードを購入した知人たちは、例外なく3年以上に渡ってこのボードをメインマシンに組み込んで常用している。
なお、現時点(2010/07)現在での最新(あるいは最終)BIOSはV1.06であるが、V1.03までと比較するとV1.04以降のバージョンではAdaptec製Ultra 320 SCSIカードのBIOS ROMとの相性が極端に厳しく、特に2ch仕様の製品(ASC-29320-R・-39320など)の場合はメインメモリのアンダー1MB空間の扱いの関係でBIOSが正しく組み込めないため、起動用ディスクとしてこれらのカードに接続したHDDが使用できない(注8)というかなり深刻な問題が発生している。
これについては他の要因もあり得るため、断言は出来ないのだが、少なくとも筆者の場合は同じ2ch構成のUltra 320 SCSIカードでもSCSIオンボードモデルに搭載されているのと同じLSI(旧LSI Logic)の53C1030を搭載するカード(LSI 21320など)については回避策を見いだせたので、このボードに挿して使うSCSIカードに関してはLSI製53Cxxxx系カードを推奨しておこう。
(注1):この機能は、2005年8月8日にnForce4 SLI X16として一般向けnForce4シリーズでも対応製品が発表されており、以後上位機種を中心に一般化した。
(注2):本来は最大8CPU構成での動作を念頭に1CPUあたり3基搭載されているもので、基本的にはこの内1基がチップセットとの通信に使用される。但し、このボードではCPU1についてもう1基がAMD-8131との接続に使用されている(このチップの内蔵HyperTransportトンネルが600MHz駆動であるために敢えて分けられているらしい)由である。このインターフェイスは将来を見越して転送帯域性能にかなり余裕を持たされており、最近では拡張スロット規格の制定や、コプロセッサ接続のインターフェイスとしての仕様公開など、様々な拡張が進められている。
(注3):PCI-Xバスについてもメーカー側にやる気があれば、nForce4チップセットとCPUの間のHyperTransport上にAMD-8131/8132 HyperTransport - PCI-X Tunnelを挿入する事でAthlon64対応マザーボードでも実現可能である。但し、前述の通りAMD-8131のHTは600MHz駆動である為、これをCPU-nForce4チップ間に挿入すると必然的にトータルの性能が低下するから、それがnForce 4+AMD-8131マザーボードが製品化されなかった理由の様だ。なお、この問題は後継となるnForce 5x0系のnForce Professional 3600・3050を搭載するS2915A2NRF Thunder n6650WなどではサポートするPCI Expressの最大レーン数の増加が図られ、ここにPCI Express - PCI-Xブリッジチップ(IntelやNECが開発している)を接続する事で解決されている。
(注4):Windows NT 4.0時代にIntergraphのCMAと双璧をなしたPentium II/III/III Xeon搭載グラフィックワークステーション向けアーキテクチャ。VisualWorkStation 320/540に搭載され、威力を発揮した。
(注5):メモリアクセスの挙動に少々癖がある。
(注6):PCI版のGeForceFX 5200を挿した状態ですらかなり快適であった。
(注7):実質的にAthlon64 X2の同等品。
(注8):少なくともPCI-Express接続のグラフィックカードを使用する筆者の環境でBIOS V1.04/1.05を書き込んだ場合には、何をどう扱おうが正常にROMを組み込める設定が見いだせなかった。もっとも古いPCI接続のグラフィックカードで試した場合には組み込めており、また1ch構成のASC-29320A-RやASC-29320LPではこのような問題が発生していないことから、2ch目のリソース追加が原因で競合している可能性は高いが、LSI Logicのコントローラを搭載するカードでは2chの53c1010/1030搭載品でも問題なく、AdaptecのBIOSにも何らかの問題があると筆者は考えている。
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