SM-B-80T

 見てのとおりのワンボードマイコンです。シャープのワンボードにはMZ-40Kもありますが、MZ-40Kは多分にブーム化していたワンボードマイコンをウチも出してみましたという要素が強いのに対して、SM-B-80Tは純粋にZ80というマイコンを売るための「トレーニングボード」としてのワンボードマイコンです。NECのTK-80が元々目指したコンセプトですね。

 そういうコンセプトゆえヒットとかブームとは無縁のマシンですので、入手はまずムリだろうと思っていました。が待てば出てくるもので、ヤフオクにてSM-B-80TEに続きこのSM-B-80Tまで出品され、落札することに成功しました。

 私自身はそれまでSM-B-80Tの実物には全くお目にかかったことがなく、ついこの間まではただひとつオーム社の「図解Z-80の使い方」の目次ページの次に「ワンボードコンピュータ製品例」としてモノクロ写真で掲げられていたもののみしか知りませんでした。知名度の低さゆえか、One Board and Old PCというページに各社のワンボードマイコンと共に写真つきで掲載されていたりはしますけど、それ以外に掲載や紹介されているサイトはあまりないようですね。

 多分初めて行ったエレクトロニクスショーのシャープの半導体のブースでもらったパンフレットにZ80関係の製品についていろいろ書かれていましたが、書かれているのはSM-B-80TEであってSM-B-80Tではない。長い間、私には「名前は知っているが謎のマシン」であり続けたのです。

 さて、このSM-B-80Tは「ワンボード」とか言いつつ大きく二つに分かれています。中央の基板がメインボードで、右の黒いのがキーボードです。メインボードとキーボードはフラットケーブルで結ばれています。基板の手前側に出ているエッジコネクタ(100ピン)はSM-B-80TEや他の製品とも互換性がある配列になっています。おそらく、このボードで開発を行った後そのまま組み込みボードとして使用できるよう、キーボードを切り離し可能にしたのだと思われます。

 もっとも、最終製品組み込み用としてSM-B-80D(LH-8H01A/B)というのが別途用意されていたりするんですけどね…。




 キーボード部です。黒い筐体に黒いキー、灰色っぽい字なのであまりはっきりしません。配列や機能はSM-B-80TEとほぼ同じです。



 さらにアップ。右上の型番を書いた書体、まさにMZシリーズのものと同じです。オリジナルか?引用元が存在するのか?ますます不思議です。なんでMZでないワンボードにまで使われているのか不思議でしたが、よく考えたらこれもMZの部品事業部も「電子部品事業本部」だったんですね。同じではないにしろ、それぐらいなら交流もあったのかも…。
 メインボード。両横にくっついている橙色のものは、CPUホルダまたはサイドホルダ(LH-1P004)といわれるもので、上部が鉄道のレールのようにふくらんでいて、下部にあるクリップのような機構で何段にも重ねることができるようになっています。

 右上の青いコネクタのそばにある黒い四角がキーボード用のZ80PIO、青いコネクタの左がリセットアドレス選択スイッチ(左に倒しておくとモニタプログラムが起動する)、その左の3つの小さい四角はテープ用のIN,OUT,リモートのジャックです。すぐ下の四角、8251と組み合わせてカンサスシティスタンダードのテープI/Fを備えています。

 左上のカードエッジコネクタは拡張用Z80PIO用コネクタで、すぐ下の黒い四角が増設されてあるPIOです。さらにその下の白っぽい四角はリレーで、テープのリモート端子の制御のためのものです。その下がCPU、手前に二つある黒い四角がROMで、左はソケット、右はマスクROM?のMB7055です。

 下に出ているカードエッジコネクタのさらに下に四角い影が見えていますが、これはRCAピンプラグです。なんのためのものかというと、これが電源コネクタなのです。実はこのボードは基板上に電源を供給するための場所が指定されてはいるのですが、端子などの「実際に接続できるモノ」がないんです。前に使っていた人の苦労が偲ばれます。

 回路にはリモート端子以外にもちょっとしたギミックがあります。右上の部分に棒状の端子が2本立っているのですが、これが1ビットの出力ポートになっていまして、おそらくキーボード用のZ80PIOの余り出力を使用したものだと思われます。ちなみに、そのPIOはキーボードを使わなければユーザー用のパラレルI/Oポートに使用できるとカタログにはあります。



 なんと、箱があります。カラフルな箱です。さすがにMZ-40Kのような情けないコピーは入っていません。

 さてこのSM-B-80T、応用範囲はワンボードマイコンに留まりません。TK-80でいうところのBasic Stationのように、テレビI/F、プリンタI/F、フルキーボード、BASICまで装備したグラフィックターミナル、その名もSM-B-80T/GT(LH-8H04)というオプション製品があるのです。

 …さすがに残念ながらまだ実物を手に入れてないので、パンフレットの写真からSM-B-80T/GTをご紹介。

 見た目は、いかにもボードコンピュータを拡張したという雰囲気。本体がバラック的に積み上げられ、なかなか立派なキーボードがあるとは言うものの、そのキーボードと本体とはフラットケーブルで接続するなんていうのは、まさに古き良きワンボードマイコン時代のスタイルですよね。

 写真の奥に見えるのは接続可能な周辺機器。一応全部シャープ製品で固めてはあります。
 右はラジカセ、外部記憶装置になります。「ザ・サーチャー」とか言ってますから時代を物語りますよね。
 中央はテレビ、コンポジットビデオ端子とRFモジュレータ搭載によるTVチャンネルへの利用ができることを謳っています。
 左は放電プリンタ、これまた時代を物語っています。インクリボンいらずで高速印刷する手軽なプリンタですが、専用紙を使う必要があるのと銀色ベースがゆえに見にくい(複写すると全体が暗くなる?)ということで急速に廃れてしまいました。どこかからのOEMの可能性はあるのですが、MZ-1P02・PC-1300/1300Sなど自社製品としてもいくつか発売しています。そういえばこれシャープ公式ツイッターアカウントが以前公開した「ラテカピュータ」の写真にも写り込んでいましたね。

(´-`)っ【ラテカピュータ=ラジオ+テレビ+カセット+コンピュータ+時計+放電プリンタ 昭和54年】 #お前らの昭和をばらせ pic.twitter.com/48YeJiL8

— SHARP シャープ株式会社 (@SHARP_JP) 2013, 2月 19

 いつか手に入れたいと思っていたラテカピュータ、さすがに生産台数200台では無理でしょと思っていたのですが…まさか本当に手元に来るとはね…。




 SM-B-80T/GTの構成図。真ん中にCPUボードとしてのSM-B-80Tがあり、それを上下から挟むように画面・キーボードI/Fを構成するボード(上)と拡張メモリボード(下)が追加されています。BASICのROMなどを搭載する必要がありますので、メモリボードが追加されるわけですね。



 なんかパンフレットには普通のパソコンのように使えますよとアピールする絵がいくつか描かれているんですが…片方の人がヘルメットしてるってことは現場ですか? やっぱりケースに入れませんか?



 …というだけでなく、この絵の雰囲気が後のMZシリーズ(80B以降)のマニュアル表紙を飾る絵とよく似てるんですよね…シャープ社内のデザイン部の人の作品でしょうか? それだけじゃなくて、実はこのパンフレット、MZ-80Kのパンフレットとそっくりの構図になっているページもあるんですよね…いずれまた比較写真なんかも掲載しましょうかね。

 しかし、なんと言うか、これまでモノクロ写真でしか見られなかった品物が手に入るというのは、まるでモノクロの世界に色がついたような感じがしますね。入手当時は箱と基板だけでマニュアル類がなかったのですが、後でシャープ監修「Z80ユーザーズマニュアル」という本を入手し、この中にSM-B-80TとSM-B-80Dのマニュアルがまるまる収録されていたのでなんとかなりました。もちろん回路図も全てあります。もちろん「本物の」マニュアルも手に入れておきたいところですが。

 手に入って早速動かしてみたのですが、どういうわけか動きません。以前SM-B-80TE入手の際に使用した電源をまた使ったのですが、なぜか5Vが出ないんです。なんだかこの現象は昔見たことがあるな…と思っていたら、カタログには電源を2Aと規定。容量が足りないのに無理に流そうとすると、電圧が下がるわけです。ということで日本橋で小さい2Aの電源を調達してつなぎなおすと、やっときれいに動くようになりました。バスインターフェース用のICが少し熱を持っているので、これがかなりの電力を食ってるのかもしれません。でもなんだか違うICをつけてあるように見えるんだがなぁ〜。

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