ラテカピュータ(PC-2000/2001)
Tweet何かと言えば合体させたがるのが家電メーカーの常だと思うのですが…最近はシャープのお家芸みたいな言われ方をして、公式ツイッターアカウント(@SHARP_JP)も意識的にそういう振る舞いをしたりなんかしてるぐらいですが…その中でもこのラテカピュータは特に「変態」と言われていますね。確かに、もう今の時代では「ラテカセ」で既にお腹いっぱいみたいなところに加えて、コンピュータを合体させてくるのですから…。 |
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1970年代終盤あたりから、ラジカセに続く高機能オーディオ家電としてテレビ付きラジカセ、俗に言う「ラテカセ」が流行するようになりました。5インチ未満のブラウン管とその駆動回路、およびチューナーが十分小さくなったことでまずポータブルテレビが登場し、かつてラジオとカセットレコーダーが合体したようにテレビとラジカセを合体させよう! というような発想で実現したものと思われます。松下電器が1972年にその形態で商品化したものが最初だったようですね。
シャープでも1977年に「LYNX45(5P-V1U)」という一見ビデオカメラ…いや利用イメージからすると映写機のような形のポータブルテレビを発売した翌年に「LYNX45TH(5P-R1U)」というラテカセを発売します。
( ´-`)っ【無骨な合体かっこいい…モノクロTVつきラジカセ リンクス 5P-R1U 昭和53年】 #お前らの昭和をばらせ pic.twitter.com/840g2yqFkJ
— SHARP シャープ株式会社 (@SHARP_JP) June 19, 2013
合体商品とかいう企画って何かの発想法みたいな…そうそう、「オズボーンのチェックリスト」そのものじゃないですか…って9番目の「結合」ばっかりか。ちなみに個人的に一番変態的だと思うシャープの合体商品はドライヤー付きシェーバーです。
ラテカセを見た電卓部門のある人物が、これにコンピュータをくっつけてしまおうという企画を立てました。シャープOB会「あやめ会」対談記事によれば、ラテカセの開発は栃木で行われていて、奈良の電卓部門からアイデアを説明しに行き、驚かれながらも製品化までこぎ着けたとされています。さらに詳しい開発裏話がシャープのデザインのサイトにある企画「HISTORY」の1ページ、「1979年(昭和54年)ラテカピュータ」でも紹介されています。後で紹介するアスキー誌のコラムによれば、1979年2月27日が新製品としての発表日になっているようです。
【これシャープっぽい製品だなと思ったらRT】“ラジオ+テレビ+カセット+コンピュータ+時計+放電プリンタの6大情報メディアを有機的に結合したパーソナル情報センター”(当時の表現)「ラテカピュータ」1979年 ※カセットはデータと音声記録も pic.twitter.com/uegAen2X
— SHARP シャープ株式会社 (@SHARP_JP) October 30, 2012
社内的にどういう取り決めがあったのかは定かではありませんが、初期ロットと思われる200台ほどを生産して商品としては終了してしまいました。特に人気も出ず、後継機も開発されず、他のメーカーも追随せず、それっきりのマシンになったのです。
その後、ラテカセもカラー&ステレオ化したり(CT-6001)、液晶時代が到来して録音できない以外はほぼラテカセじゃね? みたいになったり(JC-TV10)、パソコンの方も8bitから16~32bit、あるいはそれ以上の発展をしていく一方でユーザーどころか使用体験のある人も皆無に近い状況で歴史に埋もれた存在となり、まさに知る人ぞ知る状態に…。
個人的にはマイコンやなんやらをちゃんと知ったのが1980年後半のことだったので、店頭で見る機会もなく(マイコンという範疇では近所に置いてある店はなく、ラテカセという範疇ではどのメーカーのも同じに見える程度の認識)、いやおそらく店頭からも撤去されていたでしょうから、ほぼ知る機会すらなくなっていたはずです。何かの機会にふと聞いたとしてもすぐ忘れ、ちゃんと存在を認識したのはシャープさんのツイート(上記のものではなくもっと後)がきっかけでしたしね。
遠藤諭(@hortense667)氏は月刊アスキーの編集長時代に連載していたコラム「近代プログラマの夕3」にて、1997年7月号から3号連続でラテカピュータを取り上げました。それは昔触った時の思い出話などではなく…。
と、実機に触れることも叶わぬままその話題を終えています(氏は今でもずっと気になり続けているようですが…)。
その後、若干ながらラテカピュータを知るための障壁が取り除かれます。まずシャープのTwitterアカウントが、先ほどのプレスリリース写真を使用したツイートをしたことで話題を呼びます。その後奈良県天理市にある「シャープミュージアム」にて実機が展示されて見学すれば誰でも直接見ることができるようになり、さらにその後夢の図書館(@Dream_Library_)アカウントがラテカピュータのパンフ画像を投稿して仕様などの情報を読み取ることができるようになりました。
夢の図書館(マイコン博物館)さんも実機は保有しておらず、アスキーの初代編集長でもあった館長の吉崎武氏も入手に至らなかったことを長く後悔していらっしゃいます。それでもパンフがあること自体がすごいんですけどね(一度ヤフオクに出たが負けた)。
1979年にSHARPが発売した「ラテカピュータ」
— #夢の図書館+マイコン博物館+模ラ博物館(公式) (@Dream_Library_) March 14, 2020
店頭で操作した思い出では、TV画面にプログラムリストが
オーバーレイされた その後のパソコンテレビへの布石か?
ラジオカセットテレビ PC-2000 99,000円
マイコン PC-2001 149,0000円
放電プリンタ CE-300 150,000円
なんと、プリンタが一番高価だった pic.twitter.com/W1xzGo09Az
スレッドの投稿の都合で中身→表紙の順に並んでいます。表紙にある宇宙船はアメリカのアポロ宇宙船とソ連(当時)のソユーズ宇宙船で、今まさにドッキングしようとしているところですね。外部から撮影する人はいないのでこれ自体は想像図でしょうが、「アポロ・ソユーズテスト計画(ASTP)」というものが実際にあって、衛星軌道上でドッキング実験を行った様子が使われているのです。
このドッキング実験の当時私は小学生低学年でしたが、新聞やテレビなんかで大騒ぎしていたおぼろげな記憶があります。東西冷戦の象徴として様々な宇宙開発でしのぎを削った米ソの宇宙船が合体するとか、それまでは考えられなかったわけですからね。ラテカピュータのパンフに合体するアポロとソユーズの絵があるのも、まさか合体するとは思わなかったものを合体させたというイメージからなのではないかと思います。
パンフには仕様表がありますけど見にくいので、ここに書き出してみましょう。
PC-2001
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PC-2000
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そしてカタログ上、ラテカセ部とコンピュータ部は別々の製品として表記されています。それぞれ別の型番がついていたりもします。写真もよく見ると、しっかりとは合体せず浮いたような状態でばかり掲載されています。今までは縁もゆかりもなかったけど、こいつらは合体するんだよ! と強調したいみたいにも読み取れるんですが、ちょっとくらい合体後の状態も載せてくれれば…。
と思いきや、こういう見方もあるようで。
時期によって変わっている可能性もありますが、小型テレビには15%の物品税がかかっていたので、テレビ+ラジカセ部分にだけ税がかかるようにしてコンピューターとタイマー部分の価格を別にしたということですね すると結局セットでの販売しかなかったということですかね https://t.co/ESUV103oph
— タイニーP/四寺儀けんぞう (@Kenzoo6601) February 19, 2021
なるほど、よく見ればラテカセ部は必須ではない、なくても使えるようになっていると読み取れる記述はありますね。
ふむ。パンフとしては「合体しても使える」という体裁を通さないと、コンピュータ部にまで物品税がかけられるのが避けられないという判断でしょうか。価格もコンピュータ部の方が高いですしね。最終的には帳簿処理の段階まで分離できてないと税務処理もうまくいかないでしょうから、注文伝票も別々に発行できたはずで、建前とは言えコンピュータ部だけを購入することも可能だったと思うのですが…。
余談ですが、パンフにてラテカピュータが「PC-2000」「PC-2001」という型番であるのを初めて知りまして、なるほどだから1984年に発売したポータブルコンピュータ・PC-2500の型番が最初の機種なのにいきなり500刻む必要があったのかと納得しました。PC-2000にしちゃったらラテカピュータと被るからなんですね。PC-1300SなどがあるからPC-1350が50刻んでスタートしてるのと同じか…。
パンフにはもうひとつ、専用の放電プリンタとしてCE-300というものが掲載されています。これSM-B-80T/GTのパンフにも専用純正プリンタとして掲載されだものと同じに見えます。というか、当時いくつかのメーカーが同じプリンタをそれぞれ発売していたみたいなのですよね。
日立 | SUNPEC | NEC |
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シャープ |
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シャープが純正品としてラインナップしているくせに違う型番で3機種あるとか、以前からOEMじゃないかなと思っていたら…OEM元はシャープ自身でしたか。そりゃ3機種も作っちゃうでしょうよ。1978年7月号のI/O誌New Productsより。
意外にシャープはいろんなコンピュータ製品のOEM元だったり、プリンタメーカーとして歴史があったりするんですよね。その後様々な経緯により事業撤退して棲み分けしていくことになるわけですが…。
ではいよいよ、各部を細かく見ていきましょう。まずはラテカセ部から。現時点で動かせていないのと、マニュアルの類いを入手できていないので各機能の説明は正確性に欠けるおそれがあります。
ラテカピュータのコンピュータ機能は、見た目にはラテカセ部にただ付け加えただけと言ってもいいくらいのものなので、ラテカピュータのラテカセ部を紹介することはLYNX45THを紹介するようなものですね。
テレビ画面は白黒の4.5型。まだ当時はカラーテレビの回路を小型にするには技術不足だったので、ラテカセも白黒ばかりです。ちょうど、ポケット液晶テレビが発売され始めた頃も、据え置きはとっくの昔からカラーになっていましたけれど、まずは白黒からスタートしましたからね。 画面はブラウン管の前に透明のプラスチック板がはめてあります。画面の保護用でしょうかね。 画面の右は選局ダイヤル。上がテレビ用、下がラジオ用です。選局を全て集約(ダイヤルをひとつにする)するには至っていません。もっともアナログ選局時代に全バンドがひとつのダイヤルにまとまっていると、バンドを変えるたびに大きく回さないといけなくなったりするので良し悪しなんですけどね。 |
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真ん中辺りにはモード選択が並びます。 「TV Band」とあるのはテレビの周波数帯の選択。アナログTV時代はVHFがふたつ、UHFひとつを選ぶようになっていました。これも後の時代には据え置きテレビと同じ感覚で使えるよう、VHFをひとつにまとめた機種もありましたね。 VHFがふたつあるのは、1~3chが今で言うFMワイドの領域にあり、4~12chとは離れた周波数になっていたからです。なので特性の違いから別々の回路にするのが当たり前になっていました。 下にあるSlectorはラジオとテレビの選択。ラジオについては周波数帯の選択も兼ねてます。ここではTVモードとCOMP(コンピュータ)モードはひとつにまとめられています。というか、ラテカセ部から見るとCOMPモードはTVモードの一部なんですね。 MWはMiddle Wave、つまり中波を意味します。最近こういう表現はしなくなりましたね…。 SWはShort Wave、つまり短波ですね。当時はまだもう少しBCLブームの残り香はありましたかね。じきににわかBCLファンはマイコンファンに鞍替えしていくのでしょうが…とは言え、3.8~12MHzというのはBCLの主戦場とは言い難く、むしろラジオ短波(今のラジオNIKKEI)で株価とか競馬中継を聞く人用みたいになってましたかね。 その右、AFCとあるのは自動周波数制御のことで、多少チューニングがずれてもきちんと同調できる仕組みです。今時のラジオならどれにも入ってますかね…。周波数が近い局があった時に分離しにくくなるでしょうから、AFCをオフにできるようになっています。このスイッチにはストッパーがあるので一番上には動かせないようになっています。 AFCスイッチには下にAMとも書いてあって、中波と短波の感度切り替えも行います。AFCがオンの時は感度を上げ、オフの時は感度を下げてますね。 その右のModeとあるのがラテカピュータ全体の動作モード切り替えです。テープだけを動かす時は一番下に、テレビやラジオを視聴する時は一番上にします。真ん中はスリープタイマーとありますね。元のLYNX45THにはTimerの文字はありませんでしたので、機能拡張されているのだと思われます。 ここの残りは「RATECAPUTER」とある近辺ですね。ここの文字は元々は「TV RADIO CASSETTE RECORDER」とありました。文字の上にあるスリットの奥には内蔵マイクがあると思われます。下のメーターには「BATTERY/TUNING/LEVEL」とあって、モードにより充電レベルや受信感度、録音レベルが表示されるものと思われます。 |
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その操作ボタンをガードするかのように金属の棒がL字型についてますね。ボタンやツマミの保護用にしてはあまり出っ張ってないような…というこの棒のタネ明かしは後ほど。 下には4つ丸いツマミが並んでおり、音関係の調整に使われます。左からマイクとラジオ等の音声のミキシングレベル調整、低音、高音、音量となっていますね。 低音と高音の調整ツマミが別れているのは古いラジカセによくあった構成だと思います。後の時代にはTONEツマミになってまとめられてしまいましたからね。 |
続いて正面から向かって左側面、ブラウン管のある方。
左側面は、回路が近い場所にあるのかテレビ関係のものが集中しています。 上はアンテナ端子で、右がVHF、左がUHF。いずれも300Ωフィーダー線で接続します。VHFを300Ωというのは珍しいような?いや昔はわりとあったかも…。 普通VHFは75Ω同軸ケーブルをつなぐわけですが、ラテカセはポータブル機ですから、アンテナを接続するのは一時的なもの、つないだままにはしないですよね。だから付け外ししやすいフィーダー端子にしたんじゃないかと思います。 もっとも、ここはF型コネクタを採用すればあっさり解決できたはずの箇所なんですが、日本ではまだ普及しておらず選択肢に入らなかったのでしょう。輸出仕様である5P-27Gだと同軸コネクタひとつなんですけどねぇ。 フィーダー端子に挟まれたスイッチは内部/外部切り替えスイッチです。ロッドアンテナ(内部)を使うか、フィーダー端子入力(外部)を使うかの選択ですね。スイッチを下にすると内部側になります。 下にふたつ並ぶツマミは同期調整で、右が水平同期、左が垂直同期を調整します。 |
次いで正面向かって右側の側面、カセットデッキ側ですね。
音声入出力端子など。左端はマイク入力ですが、REMOTEと書かれてすぐ上のジャックと線が結ばれているのは、リモートスイッチ付きマイクの接続が想定されているから…ですね。昔あった外付けマイクにはスイッチ付きのものが一般的だったんです。 AUX.INは外部入力(ラインレベルかな?)、MONIT.は「MONITOR」を略したんでしょうが中途半端ですね…これはイヤホン端子です。 PHONEはヘッドホン用端子なんですが、イヤホン端子があれば間に合ってるところのはずなんですけどなぜか別に用意されています。しかも標準ジャックですよ。確かにヘッドホンは標準ジャックなのが当たり前の時代だったのでしょうけど…。 BEATのスイッチはビートカットスイッチです。AM放送受信時にビートノイズの少ない方に切り替えます。 |
ここに製造番号がありますけど、これはPC-2000としての番号になります。90001532という数字を覚えておいてください。
電源入力部。AC入力は一般的な家庭電化製品のものと同じ、メガネ型端子が使われています。今から特殊な物を用意しなくていいのはありがたい。 その左、DCジャックは12Vの表記がありますがACアダプタで駆動するためのものではなくて、カーバッテリーで使うためのコードをつなぐためものですね。いやまぁACアダプタでも動かせると思いますが、何Aのものを用意すればいいんだろう? 下に「79製 1-6月期」とあるのは製造時期ですが、1979年発売のラテカピュータとしても早いってことではなく、むしろその時期にしか製造していない可能性の方が高い気がしますね…。 |
そして上面。
カセットデッキ部。奥にロゴがあります。コンピュータと合体したことをアピールしたいのか、ラテカピュータのうち「ピュータ」の文字が大きいですね…ピュータ…ぴゅーた…ぴゅう太?? (そうではない) もちろんロゴの下に簡単な説明文を入れるのが厨二っぽくてカッコイイんですよ。 COMPUTER WITH BASIC LANGUAGE/RADIO/TV/CASSETTE RECORDER/DIGITAL CLOCK とかもうここで一気に語り尽くしてるのです。 |
スピーカー。いわゆる2WAYというか、低音部が得意な大スピーカーと高音部を補う小スピーカーの組み合わせ…なんですけどまぁ多分アンプ回路を分けたりはしてないでしょうね…。 大きいスピーカーは直径12cmなんですが、筐体の装飾としては16cmあるように見えます。なんかせこいな~! 左にはコントラストと明るさの調整ツマミがあります。同期調整ツマミとは場所も形も違うツマミなのは、放送局や番組ごとに調整できた方が良いということなんでしょうか。 |
上面の手前の方には、色の違う箇所があってボタンとして押せるようになっています。「Radio Dial . Clock Light」と書いてあるように、選局ダイヤルと時計のライトの照明を点灯させるボタンのようです。 このボタンは押してもロックされませんので、押している間照明が点灯するということなんだと思います。 |
最後に背面。
中央に電池蓋があります。この上の所にある箇所を押せば蓋が開く…はずなのですがどうにも開きません。コンピュータ部を取り外さないと開かない?
というか、LYNX45THではバッテリ駆動時の電源は単一電池×9本だったのが、ラテカピュータでは充電式電池に変更されました(この時代の製品なので鉛蓄電池と思われる)。ユーザーが積極的に交換する必要がないので、固定しているのかもしれません。しかしそうなると、充電回路も必要でしょうし、コンピュータ部への供給もありますからLYNX45THとは電源部がかなり違うということなんでしょうね。
下のコンピュータ部の汚れているところは錆びて塗装が剥がれた部分です。液漏れしましたかね?
ラテカセ部は四隅に近いところに白っぽい丸がありますけど、これは「足」ですね。縦置き用の足です。
ということで、縦置きしてみたところ。テレビ視聴は平置き限定と割り切って、縦置き状態では普通のラジカセに見えるようなデザインになっていますね。ロゴとかは天地が逆になりますけど。 5P-27Gなど欧州向け輸出機はカセットの蓋や小さいスピーカーの枠が全部黒になってて、のっぺりした印象になっています。LYNX45TH(5P-R1U)やTRi-MATE(3T-59)のようなアクセントがあるのがいいように思います。 |
縦置きするとラジカセ風に見える、と言っても操作までは同じにはならないわけで。特にカセットのボタンは上から押し込んで操作するわけにはいかないので、あまり使いやすくありません。 そこで活きてくるのがボタンを保護するかのように取り付けられていた金属の棒。ここと併せてつまむように操作すると、楽にボタンを押せるわけです。細かいところもいろいろ考えられていますね~。 |
ところで。
このキャリングハンドルの付け根のそばにある、丸いものってなんだかわかります? これ、LYNX45THでキャリングハンドルがついてたところの穴を塞いでいる金具なんです。つまりラテカピュータでは少し下寄りにキャリングハンドルがついていることになります。 そうなった理由はもちろんコンピュータ部が合体したからで、コンピュータ部のために重心が底寄りにずれたのでハンドル取り付け位置もずらさないといけなくなったというわけです。 元の位置の穴がそのまま残っているということは、ラテカピュータ用の筐体があるわけではなくて、改造によってハンドルの取り付け位置をずらしているということになりますね。 |
この穴を塞ぐ金具があるために、キャリングハンドルはこれ以上上に上がらないようになっています。上げないようにしたのか、上がらなくなってしまったのかはわかりません。 なので、ハンドルを上に跳ね上げておくことができないので下に降ろすしかないわけですが、そうするとコンピュータ部の前を邪魔するのでキーボード操作に支障が出てしまいます。 結局、ハンドルは本体の下まで回して、前足の代わりにして全体をチルトさせるようなスタイルでないと、コンピュータが使えないようになってしまいました。 キャリングハンドルってどうやら元のLYNX45THのものと同じらしいんですよね。構造として足の代わりになるようにはなってないので、滑って本体が落ちてしまわないか心配になります。 |
ところで、どうもパンフやプレスリリースの写真を見ていても実際の大きさとかがピンと来なくてですね…テレビが4.5インチとすると、あの5インチフロッピーよりちょっと小さくて…とか考えてるとこれかなり大きいんじゃないのとか思ったり、いやそれだと運ぶの大変だからもっと小さいだろうとか思い直したり…ということもありましたので、今時のものと一緒に写真に収めてみました。
立てかけてあるのはシャープの「Android One X1」です。これだと大きさの感覚は掴んでもらえるでしょうか?
ちなみにラテカピュータが置かれているのは別のパソコンの上、見えているのはMZ-5500の天板です。幅はだいたい同じなんですよね。430~450mmといったサイズは多分19インチラックに由来する(ラックに入れる本体サイズが451mmくらい)だと思うんですが、オーディオコンポが揃えてたのにパソコン側が倣っただけで全部同じになるのがちょっと面白いですね。
だんだんラテカピュータとしての核心に迫ってまいります。コンピュータ部のハードを見てみましょう。
左下には、コンピュータのON/OFFスイッチ。ボタンを押し込むとテレビ画面にコンピュータの映像が映るはず、です。 一部でテレビ放送との重ね合わせ表示ができたとの説明があるのですが、それをON/OFFする方法が見当たらないので、おそらく勘違いではないかと思います。OFFできないと文字が背景に紛れて読めなくなってしまいますからね。 なおパンフのはめ込み合成画面とプレスリリース写真を拡大してみた感じでは、コンピュータの映像は白地に黒い文字が表示されるのではないかと思います。 |
右下は時計とタイマー。この液晶に時計と各種モードが表示されます。 ラテカセ部の本来の機能としてはスリープタイマーしかないのですが、このタイマーによってON/OFF制御が拡張されているようです。またアラーム音も鳴らせます。 |
Twitterのフォロワーさんから教えていただき、それを元にいろいろ試してみたところでは、時計の使い方は次のようになるようです。ラテカセ部が動いてないので連動する表記については正確ではない可能性があります。
電池を入れた直後はピー、ピー、ピー…と断続的に鳴り続けたりすることもあるのですがよくわかりません。時刻設定してほしいとのサインなのか、単なるチップの暴走みたいな状態なのか…。
電池と言えば単3×2ということになっていますが回路的にはちょっと特殊で、2本の電池の間からも電源が供給されるようになっています(つまり1.5V)。このせいなのか、2本の電池を2本とも外して交換する普通の方法ではなく、1本外して交換し、もう1本外して交換するというようにすれば、現在時刻を消すことなく電池交換が可能なようです。とは言え1.5V動作中はカウント動作が止まっているようなので、時刻合わせが多少楽になるかな、という程度ですね。
なお時計のところに「Pause」としてLEDがありますが、これ時計の回路と全く接続されていなくて、どうもラテカセ部のカセットデッキのPauseボタンと関係する…つまりコンピュータからの制御でポーズ状態になった時に点灯して知らせるよう用意されたものではないかと思います。
キーボードは収納しても特にロックがかかるとかはなく、下面に手がかりになる凹みがありますのでそこに指を引っかけて引き出します。 |
キーボードの全景はこんな感じ。左上の黄色いシフトキーは各キーの上にある文字やコマンド、左下の緑色のシフトキーは各キーの下にある文字を入力するのに使います。右にはモード切り替えスイッチがあって、上のスイッチはPRO/RUN/DEFモード、下のスイッチは角度指定でDEG/RAD/GRADモードを選ぶようになっています。
左右で色が違う雰囲気がありますが、光の反射の加減です。なんだか反射の方向が違うみたいなんですよね…。
なんと言いますか、英文字がアルファベット順に並んでいるのはやっちまった感溢れるというか…電卓あがりの人の発想という感じがします。両手打ちできないんだからタイプライタ配列準拠で並べる意味はないと思ったのかもしれませんが、普通のパソコンと似た配列にしないと探しにくいんですよね。カシオもFX-702Pではアルファベット順でしたけど次の機種からQWERTYに改めましたし、同じような発想をする人は多かったのかもしれません。
ところでこのキーの上下に文字や記号が記されているやつ、取れるんですよ…テンプレートというかオーバレイというか、パンフには付属品として書かれてないんですが標準添付されているはずです。 |
せっかくなのでスキャナで取り込んでみました。実はこれ、裏表で書かれている内容が違うのですよ。まず命令や記号がたくさん書かれている面。プログラム作成用(PROモード用)ということでしょうか。
裏面はごく一部の命令しか書かれていません。プログラム実行用(RUNおよびDEFモード用)でしょうか。
書いている内容が絞られているだけで、別の機能が割り当てられているわけではないんですよね。なのでプログラム実行用はDEFモードでダイレクトに呼び出すラベルに説明がつけられるようほとんど何も書いてないのかもしれないなぁと思っています。
キーボードはコンピュータ部の薄いところに収納する必要があるからか、キーも薄いというか全然出っ張りがなく、押してもストロークが皆無なんですよね。0.8mmぐらいしか高さがありません。 しかもテンプレートを置くとキーが埋まってしまい、ほぼのっぺりです。「ボタン戦争は終わった」とかいうキャッチフレーズで薄型電卓を作っていた流れなのかもしれませんが…。 |
右側面は、右下隅の丸いやつについて。
情報がなくて推測するしかないんですが、消去法で考えるとおそらくこれはプリンタポートですね。丸DIN7ピンとか独特にも程があります。 まぁ7ピンなので自動的に普通のパラレルポートと違うのは明らかですね。ひとつGNDに接続されているので残り6本。4ビットパラレルという可能性もありますが、先ほどのOEM先仕様の中でシリアルのもの(SUNPEC)もありましたから、もっと調査しないとなんとも言えませんね。 |
今度はひっくり返して底面。写真の上方が画面やダイヤルのある正面になります。
単純に薄い箱が底に貼り付いてるという格好ですね。ラテカセ部の筐体がプラスチックなのに対してこちらは鉄板でできた箱です。通風用の穴が開いてはいますが板金で作れる程度のものですね。そこはやはり金型を作るだけの予算はなかったか…。
コンピュータ部のラベル、シリアル番号がこちらにもあります。99001002という番号はラテカセ部の番号である90001532とはかなり違いますね。ということはやはりラテカセ部とコンピュータ部は別々に生産されて、管理も別ということでしょうか。 しかしあまりにシンプルな番号…もしかしてこれシリアル番号としては2番目だったりします? |
ラベルの右にはネジで留められたフタがあって、開けると電池ホルダーが二つ現れます。白いのが時計用、黒いのがバックアップ用です。いずれも単三電池2本を使います。 白い電池ホルダーに黄緑の何かが貼り付いてますが、これは電池ホルダーが割れてしまったのを補修したものです。というかこれで動いてたの? ちょっと信じられないなー。 |
裏面の大きめのネジを五つ緩めて取り除くと、コンピュータ部がごっそり外せます。背面側に開けばこのとおり。
ラテカセ部からの信号は何本もありますが一つの束になっていて、それなりに取り回ししやすくされています。ではここからメイン基板の主要なIC類を見ていきましょう。
3つ並ぶQFPのLSI、どうやらこれがラテカピュータのCPUのようです。SC38657/SC38658/SC38659と刻印されています。配線の雰囲気からすると、SC38657がキーボード制御、SC38659がメモリと画面表示制御、SC38658がBASICインタプリタのメイン…でしょうか? いやしかし、200台ほどの生産でカスタムLSIを作っちゃうのは驚きです。3つもあると評価とか大変になる(=コストアップ要因)だろうに、それでも汎用マイコンを使用しないメリットがコストも含めてあるということですよね。 |
などと考えてたら、とある情報を掴んだので、型番的に近いというPC-1200とEL-5002のCPUの写真を撮影してみました。
PC-1200 | EL-5002 |
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…おおー…なるほど…。パッケージ形状も端子数も、そして短辺の中央の端子が欠けてたりするのもそっくりですね。数字の上三桁が同じなのはこれが同じシリーズのマイコンを指していて、中身の違いは内蔵マスクROMの内容だけ…ぐらいの可能性がありそうです。市販の汎用マイコンを使わなくても、自社製品で十分汎用的に使えるマイコンがあるのなら問題ありませんよね。半導体部門がZ80を売り込みに来たのにけんもほろろに突っ返したとかいう話も、製品を作る上では何も不自由してなければ頷けるというものです。
でもあれ…ちょっと待てよ…製品としてはPC-1200の方が前なのに、なんでラテカピュータのCPUの番号の方が古いんだ…? 「とある情報」のように、元は試作品だったとか? いやさすがに試作品でマスクROMを作って工場で生産とかないよね…まさかこのCPUのROMってワンタイムPROMだったりする…?
むむ…PC-1201はSC38651、EL-5001はSC38660、とな…こりゃ何がどうなってるのかよくわからんな…。
HM4315Pは4096×1ビットのSRAMです。おそらくこれがメインRAMですね。 |
セラミックパッケージのこのLSI、封止部分が錆びて読み取りにくいですが、なんとこれはHD46505、X1にも使われたCRTCです。当時から定番でしたね。 しかしまぁ、突如としてこんなメジャーなチップにお目にかかれるとは…。 |
HD46505の近所にあるHM435101P-1、これは256×4ビットのSRAM。サイズと場所からして、おそらくVRAMでしょう。画面は32文字×16行が表示可能ですから、計512文字。1文字8ビットのはずなので256×4×4、という計算ならぴったり合いますね。 |
こちら、HD46505の左下にあるのはモトローラのMCM6830というマスクROMのセカンドソース品、HN46830Pです。これはフォントROMとして使われていると思われます。 容量は1024×8ビット、フォントROMなら横8ドットだとまぁ縦8ラインでしょうから、128文字分。パンフには108種の文字記号を出力できるとありますので、計算は合いますね。 これ、チップセレクトが4本もあって論理がプログラマブルなので、解析が面倒そうなのですよね…。 |
それから他にも小ぶりの基板がありますね。
これは電源基板。全体写真での右端に裏返して搭載されている基板です。ぴよーんと赤黒の線が左端についていますが、これが入力ですね。100V(家庭用電源)ではなく直流15Vからの変換なので、使われている部品もわりと小さめだったりします。 | ||
4つ並んだスライドスイッチの背面が、空中配線みたいになっているのが面白いですね。 らせん状になってる金具がついているのは電池ボックスなんですが、基板と配線が直ではんだ付けされていたこともあり、どうせ割れてるんだからと破壊した残骸です。アラーム用の圧電ブザーも見えてますね。 |
修繕箇所の特定や確認したいことがあったので、ちょっとがんばって回路図を起こしてみました。といってもこれでクローンを作ろうというわけでもなく、おおよその機能がわかれば良いというぐらいのものなので、あまり正確性は期待しないでください。もう面倒なのでロジックICの電源やパスコンは省略してしまいました。その他にも抜けてる部品がいくつかあると思います。
まずは電源基板から。表示幅の都合で縮小していますが、クリックすれば元の大きさでご覧になることができます。以下同様。
ラテカセ部から降りてくる+15Vから必要な電圧を作っています。-4.5Vを作っているのが特徴的でしょうか。「ラテカセ部から降りてくる」と言っても、この基板から伸びるケーブルの接続先はメイン基板ですので、ON/OFFの制御はこちらにはありません。
次にメイン基板、CPU部。
おそらく内部のROMの内容が違うだけで機能的には同じと思われるCPUが3つ…。どの端子が何者なのかさっぱりわからないので、便宜的に「CPUx-xx」「CPU-xx」という信号名にしています。どのCPUの何番端子に接続されている信号である、というのを見分けるためですね。CPU1・CPU2…ではなくCPUとあるものは、全部のCPUの同じ端子につながっていることを指します。
左上にあるコネクタはキーボードにつながっています。ここの信号はほとんどがCPU1の受け持ちですね。4本だけCPU3につながっているのは、PRO/RUN/DEFモードとDEG/RAD/GRADモードのスイッチ状態を入力済めためのものでしょう。
各CPUが協調動作をするためにデータなりステータスなりを互いにやり取りするような接続があるかと思ったんですが、相互に接続されている信号はどれもどこか別の箇所へつながっていて、CPU間で閉じているものはないように見えます。それともまだ見つけられていないだけか…。
次はメインRAM部。
左上にあるのはCPU1~3の20~28番(27番を除く)端子のどれをRAMアドレスにするか選択するセレクタです。RAMアドレスは12本必要なのでセレクタでは4本足りませんが、その分は各CPUの37~40番端子で賄っています。しかしこれ、なんで全部同じ形にしなかったんでしょうね? CPUの出力端子の回路の都合でしょうか?
右上にもセレクタがあります。こちらはRAMからCPUに送られるデータの選択ですね。メインRAMだけでなくVRAMの読み出しデータも選択しているんですが、RAMって3ステート出力するよね…セレクタって必要…??
回路図の右にある多ピンのコネクタは、最初の全景写真で何も接続されず端子だけが浮いていたコネクタのことです。使われてないってことはテスト端子か何かかな…とか思っていたんですが、これ拡張RAM用のコネクタですよね。電源基板みたいな感じで固定できる未使用のネジ穴もあったりしますので、ここに搭載する心積もりでもあったんでしょうか。 |
搭載されているRAMのE端子に接続されるチップセレクト信号と同じ塩梅で別々にデコードされた3本の信号がつながっています。ということは拡張RAM基板には6KB実装可能だということになりますね。その大きさの基板に載るのかどうか、ちょっと怪しい気もしますが…。あとここにだけ来ている信号が3本あるのは…出力セレクト用?
次はビデオ出力部。
左上にあるのがCRTC(HD46505)。そのデータ端子(D7~0)に接続されている信号に注目してほしいのですが、MA0から11までの飛び飛びの信号…って、これメインRAM部でアドレスを選択していたところの出力なんですよ。つまりRAM相手にはアドレスバスなんですが、CRTC相手にはデータバスだと言う…。
CRTCの他の入力端子を見ると、ライト信号が'L'固定=書き込み専用になっているので、つまり初期化の段階で一時的に設定値を流し込んだら、それっきりCRTCをアクセスしないということなんでしょう。16桁/32桁の表示モード切り替えは、CRTCの左下にあるセレクタで行われるのでCRTCを設定変更する必要はありません。
モード切り替えの右にあるセレクタはCRTCからの表示アドレスとCPUからの読み書きアドレスの切り替えですね。CPUは4bitですがキャラクタコードは7bitなので、チップセレクトなんかがちょっとややこしいことになっています。気になるのは、CRTCのMAx出力の並びとRAM(VRAM)のアドレス入力の並びが合ってないところなんですよね…CPUとはちゃんと合ってるんかな…?
VRAMのデータ出力を文字コードとして、実際に表示する信号を作るのが中央上から右上にかけての回路。左からCG-ROM、シフトレジスタ、表示制御、同期信号重畳ときてスイッチにつながります。このスイッチ、コンピュータ部の前面左端にあったCOMPUTERスイッチのことで、4回路2接点のものが使われています。Offの時はすぐ右下にあるコネクタの端子が短絡されていて、Onの時は代わりに上の回路の出力が接続されるということは、コンピュータ部を動かしていない時はラテカセ部から来たビデオ信号をただ折り返すだけで、コンピュータ部動作時はラテカセ部からのビデオ信号の代わりにコンピュータ出力をラテカセ部に送る…ということですか。
モード切り替えの所はカウンタの計数や出力を選択していますが、シフトレジスタのところでは周期が倍になるドットクロックを切り替えるためにマスクする信号をワイヤードORしています。全く別の回路を見た時にも思ったのですが、1970年代のデジタル回路ってわりと気楽にワイヤードORを多用している傾向があるっぽいですね。ワイヤードORはオープンコレクタを前提とするがゆえにあまり高速な信号を得意とせず、回路の高速化に伴ってロジック回路に置き換わっていった印象があります。データバスとか割り込み要求とか、68000の*DTACKとかのようなマルチマスタ信号にしか使われなくなりましたかね。
次に、その他雑多な回路。
雑多というか、主に電源・テープ・プリンタの回路をまとめました。中央から左上に広がる回路がテープのFSK変調・復調回路と思われます。まぁ正直よく理解できていません…。
右上が電源の供給部分なんですが、ここに電池もありまして、電源が切れている時にメモリをバックアップするための電流を確保するようにもできています。できていると思います(やはりよくわかっていない)。
右下はプリンタ出力と思しき回路ですが、75188と75189の組み合わせで入出力しているので、言ってみればRS-232Cポートですね…ただ、RS-232Cレベルの出力が2本、入力が1本なので汎用のシリアルポートとは違うようです。さらにはRS-232Cレベルではない信号が1本ありますしね…。
さらには、75188の電源のうち-12Vは電源基板で作ったものなんですが、+12Vがプリンタからの入力になっており…どゆこと? こういう構成は初めて見ました。
最後は時計とタイマーの基板。
LCDについては、分解が難しそうだったのでざっくりバス接続で表現しています。LR9422という時計ICが全部の面倒を見ているようです。
ラテカセ部に行く信号は1本だけで、ではコネクタに来ている線は何かというとほとんど何かを点灯させるためのものですね。Pauseとある所のLEDはコンピュータ部の外観の説明で紹介したPauseランプ。時計操作部と隣接していたんで機能的に関係があるのかと思ったら完全に独立していたとは。
LCDの右にある電球記号は、ラテカセ部の「Radio Dial, Clock Light」ボタンを押すと光るランプです。これもラテカセ部からのみ制御できるもので、時計基板としては独立していますね。
コンピュータ部にはあとキーボードもありますが、都合により回路図は後日作成予定です。ひとまず、コネクタの端子の意味とか知りたかったのでその点においては十分な情報が得られました。
オマケで、コンピュータ部を外した時のラテカセ部の様子がこちら。
LYNX45THの底面がそのままありますね…固定用の支柱を5つネジ留めしてありますが、これで支えられるのか…。パンフにてキャリングハンドルの下にチラッと見える銀というか真鍮っぽいような金属棒はこれですね。
ハード編でご覧頂いたように、ラテカピュータのコンピュータには関数電卓クラスのカスタムマイコンが使用されています。内蔵しているROMの内容が読み出せない以上、マニュアルのない現状では実際に動かす以外にそれがどのようなものか確認する術がありません。そんなわけなので、入手できる資料から読み取れる範囲でソフトの機能を推測してみます。
ラテカピュータはその姿こそ一発屋的イロモノ商品ですが、その一方で実は情報(電卓)部門としては初めてのBASIC搭載コンピュータというマイルストーン製品だったりもします。もちろん前年(1978年)にMZ-80Kが発売されているのでシャープとして初めてというわけではないのですが、当時は部品事業部と情報部門との間には技術的な断絶がありましたし、情報部門がコンピュータ製品の完成度を高めていく過程を考えると決して無視できない出来事ではないかと思うのです。
情報部門のコンピュータというのはプログラマブル電卓が発展してできたものと言えます。下に挙げたPC-3600などは、外部I/Oを接続・制御できるなど「パーソナルコンピュータ」との宣伝文句に見劣りしない機能がありましたが、数値表示しかできないため記号言語以下の難読プログラムしか作れませんでした。やがてマトリックス表示FL管の登場でそれは改善し、人間の読める英単語で構成されたプログラムを作れるようになりました。
PC-3600 | PC-7300 |
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このPC-7300と姉妹機種のPC-5300、そしてその先代のPC-7200とPC-5200には、「シャープフォートラン(シャープミニフォートラン)」というプログラミング言語が搭載されていました。1970年代半ばではまだ計算機のプログラミング言語の主流はFORTRANであってBASICではありませんでしたから、よりプログラマーに寄り添った言語を採用するならFORTRANに準じたものを選ぶのは自然な流れだったのでしょう。
その後1980年半ばにBASIC言語を採用したポケコン(PC-1210/1211)とパソコン(PC-3100S)が登場するわけですが…そこまでの間にラテカピュータがあるわけです。ラテカピュータ以降、プログラマブル電卓は別として、情報部門から発売されるコンピュータにはFORTRANベースのものはありません。
ところで、先ほどのキーボードのオーバレイというかテンプレートに書かれたコマンドや命令と思しき単語群を見て、どう思いましたか? BASICにしては命令語さえ縮小してしまう…なんだかタイニーBASICを連想したりしませんでしたか?
パンフには、プログラミング言語について次のような説明があります。
高級言語の中で最も扱いやすいBASIC言語を基本とした、シャープベーシック方式を採用。
BASIC言語を基本にしたと言いながら、なんで「シャープベーシック」とカタカナで表記するんでしょうか。シャープBASICと表記しないのはなぜ?
PC-7300のパンフにも、こんな文言があります。
PC-7300は、プログラム言語にシャープフォートラン言語を使用。幅広い分野で優れた実績を持つFORTRAN言語を基本にBASIC言語の特徴も加え、より使いやすい言語を実現しました。
シャープフォートランも、FORTRANを基本にしながらカタカナ表記しています。
これらの文章は、カタカナと英単語が統制を失って乱雑に書かれたわけではないと考えた方がよいのでしょう。BASICやFORTRANという単語が単なる言語ではなくANSI BASICやFORTRAN66/77などの標準仕様を指し、ベーシックやフォートランという単語はその標準仕様とはかなり差があるという意味を暗示している…のかもしれません。
実際、シャープミニフォートランなんかはFORTRANというよりむしろBASICっぽいなどと評されることもあるようですし、シャープベーシックも実のところはシャープフォートランをBASIC風にちょっと変えただけ…みたいなことはありませんか?
というわけで、シャープベーシックの命令語と、PC-7x00の資料はないので代わりにPC-1300Sのシャープミニフォートランの命令語を比較してみましょう。
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…というふうに直接比較ができてしまうくらいに、シャープベーシックは標準BASICよりシャープフォートランに似ていると言えます。ベーシックなのだからDOループじゃなくFORループとかサブルーチンの終わりはENDじゃなくRTN(RETURN)…というように合わせてはありますが、命令語が3文字まで・SAVEと言わずにREC・比較記号のバリエーションが少ないままとかシャープフォートランの仕様のままと推測される箇所も見受けられます。
特に表示命令がDSP(DISP)となっているのは、PC-3100S/3200S→MZ-3500→MZ-5500/6500/AXのBASIC-3まで至るプログラミング言語の流れの中にあることを実感します(これらのBASICはPRINT文でプリンタに印字し、DISP文で画面に表示する)。確かにラテカピュータは情報部門のパソコンなのです。
その他細かい文法ぐらいはちゃんとBASICに合わせてあるのか気になります。シャープフォートランでは変数への代入を「計算式⇒変数」と一般のプログラミング言語とは逆方向に表記していたのですが(気持ちはわからなくもない)、シャープベーシックは果たしてどうなのか…。
ラベル機能はありそうな気がしてるんですよね。ダブルクォーテーションが黄色のシフトキーの方で入力する方に入っていますし、なによりシャープフォートラン時代からポケコン時代までずっと存在したラベル機能がラテカピュータだけ抜けてるのは考えにくいものがあります。
うーん、動かしたい…せめてマニュアルとか…。
ということで、ここまでラテカピュータのアレコレを存分にご覧頂けたかと思います。ここまでのものは天理(シャープミュージアム)に行っても見ることはできません。展示物を分解し始めたらそれこそ器物損壊ですがな。
それでもまだまだ謎だらけです。その解明のためにも、次なる目標は動態復元ということになります。補修の必要な部分は多岐にわたりますが、気長にがんばってみようと思います。
ひとつ気になっているのが、TRS-80 PC-1のエピソードとラテカピュータがタイミング的に近いものがあるので、直接的ではないにしろ何か関係しているんじゃないかということです。PC-1210/1211の発売には前提としてTRS-80 PC-1の存在があり、TRS-80 PC-1はタンディのバイヤーがお蔵入りしかかっていた試作品を発掘することで商品化に結びつきました。
バイヤーが見た試作品はBASICが動くものとされています。エピソードにはBASICの仕様まで語られていませんから、試作品を見てからとんとん拍子に商品化されたようなふうに書かれていると、試作品も商品化されたポケコンとほとんど変わらないBASICが搭載されていたかと思ってしまいます。
しかし、ラテカピュータの段階ではBASICと言ってもシャープベーシックのような「似た雰囲気の言語」でしかありませんでした。試作品が本格的なBASICで、製品化されているものがタイニーBASICなんてちぐはぐなことがあるでしょうか? 当時彼らが素直に作れば形態はどのようなものであってもタイニーBASICしか搭載されなかった可能性は高いと思うのです。つまりバイヤーが見た試作機もラテカピュータと同じシャープベーシックが搭載されていたのではないか、と。
BASICポケコンの商品化の過程で、文法を標準BASICに合わせるよう要望が出て最終的に本格的なBASICになったと思われます。開発陣が自ら考えた仕様なら同時期に開発していたPC-3100Sのサブセットになるところですが、もっと素直な標準BASIC仕様に落ち着いたということは、外部からの要求の存在を臭わせるのです。
もしかすると、ラテカピュータのシャープベーシックに触れるということは、幻の試作BASICポケコンに触れているのとある意味同じかもしれません。技術としてはどん詰まりだとしても、礎になったとしたらそれはそれで重要な技術的史料と言えます。もうこれは考古学の世界ですね。だからわくわくするんですよ。