PC-1200

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 PC-1211/1210のことではありません。幻の初代機、PC-1200です。おそらく、世界で初めて(少なくともシャープとしては初めて)商品名としてポケットコンピュータを名乗った製品です。といっても見た目は関数電卓そのもの、実際にもプログラム機能がついている関数電卓でしかありません。プログラム機能がある=コンピュータである、というような理屈で生まれた商品名ではないかと思われます。

 ヒット商品となるPC-1210/1211なんかを知った上だと、どうしてこれを「ポケットコンピュータ」と呼べたのか不思議でなりません。さすがにそれは神視点なので反則的な見方なのでしょうけど、関数電卓のプログラム機能が高度になったからと言ってコンピュータを名乗らせるのはあまりに大胆です。ビジコンが小型電卓を発売した時に「てのひらこんぴゅうたぁ」などとキャッチフレーズを打ち出したような時代ではありません。電卓とコンピュータには歴然とした違いがあることを、シャープならよくわかっているはずなのに。

 以前は、わりとシンプルに「ポケットに入る関数電卓以上の高機能電卓だから、ポケットコンピュータ」などと、言わばポケット電卓から背伸びしたネーミングだと思っていたのですけど、古いパンフなどを眺めているうちにちょっと違う推測が頭に浮かぶようになりました。ちょっと遠回りしますが、順に説明します。

 シャープの電卓には代表的なものとして初代から続くCS型番のコンペット、EL型番のエルシーメイト、初のMOS LSI電卓からのQT型番(後にラジカセに転用)というシリーズがあります。代表的なもの以外、つまり特殊なコンセプトの電卓についてはその都度別の型番が充てられるようになっており、PC型番もそのひとつと考えられます。

 とは言えPC型番はけっこう古く、1973年頃にはPC-1001というのが最初の製品として存在していました。PCというのはProgrammable Calculator、つまりプログラム電卓を指します。その後のPC-1002もそうですが、これらはコンペットシリーズを彷彿とさせる大型電卓のスタイルを採っていました。

 同じ頃、コンペットシリーズには高機能プログラマブル電卓としてCS-364P/365Pという機種がありました。そしてそれらの後継機種を「パーソナルコンピュータ」と銘打つことになり、コンペットシリーズのままPC-2600/3600という型番で売り出しました(1974年)。

 更に翌年頃、スタイルを一新し「シャープミニフォートラン」と名付けたプログラミング言語を搭載したPC-7200という機種を投入します(型番は3600の2倍ということなのか?)。電卓とは一線を画したということなのか、PC-7200はコンペットシリーズではなく単独の「パーソナルコンピュータ」としてパンフなどに掲載されました。このPC-7200を基点としてシリーズが展開されていきます。

 1976年頃にはメモリ容量を減らした廉価版としてPC-5200が、1977年頃には仕様を縮小して携帯化したPC-1200が発売されます。シャープミニフォートランを搭載したとの謳い文句はPC-1200には適用されませんでしたが、

という共通項があるところからして、PC-1200はPC-7200のポケット版と捉えることができると思います。つまり、「パーソナルコンピュータをポケットサイズにしたのでポケットコンピュータ」というわけです。

 この後、1978〜79年にかけてシリーズを全部バージョンアップさせており、

と、これまた300揃えで、ドットマトリクス表示とシャープフォートラン(シャープミニフォートラン)搭載という共通項を持たせたシリーズを維持することになりました。

 ただし、これらの機種がシリーズとして構成されているというのはあくまで私個人の推測です。型番や機能からの情況証拠でしかなく、パンフなどでの表記はPC-7200/7300という旧〜新機種というつながりとPC-5x00/7x00という下位・上位モデルというつながりのみで、ポケコンまで関連付けたものはありません。

 そのような宣伝が可能だったはずなのですからやればよかったのに…と今の感覚ならそう思いますが、それが活きるのは入門機→応用機などというステップアップを設定している場合か、携帯機でデータ収集→据え置き機でデータ処理という連携運用が可能である場合ぐらいのもので、当時なら営業的にも「それが何か?」と言われそうなものですよね。

 こういうパソコン〜ポケコンのシリーズ構成は本格的なBASICを搭載するあたりで崩れてしまうのですが、それはまた別のお話。

 当時のシャープは関数電卓に「ピタゴラス」のブランドをつけていました。ピタゴラスの定理で有名なギリシャの哲学者・数学者であるピタゴラスにあやかったのと、計算させれば「ビタッ」と合うというのにひっかけたのでしょう。

 PC-1200の表示器は蛍光管で、14桁ありますが左端1桁が符号用、右端3桁が指数用に使われるので実質10桁です。けっこうぜいたくな割り当てといえます。でもこの表示ではプログラムを入力したり表示したりするのは難しそうに思えます。実際、近年のプログラム関数電卓ではドットマトリクス表示を備えて記号や変数を文字で表示するのが普通です。

 実は、命令はボタンの配置の行列で表現されます。ラベルの場所に制御を移すGTOという命令は一番上の段の左から4つめにありますので、表示上は14ということになります。サブルーチンコールのGTSならファンクションボタン併用を意味するF-14です。とりあえず、マニュアルを見なくても入力や確認には困らなくてすみそうです。

 とは言え、やっぱり可読性に難があることは確かで…同様の表記方式だったPC-7200がドットマトリクス表示を備えたPC-7300に置き換わるのは自然な流れということなんでしょうね。




 蛍光管なので分厚いのかと思いきや、けっこう薄いです。PC-1360Kとかと比べても薄いです。電源は電池かACアダプタで、電池ならば専用充電池(EA-18B)か単三電池を一番厚くなっているところに入れます。
 どうやらCPUはこのSC38661というやつみたいです。細かい仕様は全く不明。

 ここの情報によればNECのuPD751と同等品と読めるのですが、本当ですかね? 他にそういう記述がどこにも見つからないんですよね。しかもSC38651などと書かれて、書き間違いを疑ったりもしたぐらいなんですが、さすがにそこまでではないようです(SC38651が搭載されているものもある。輸出機限定とかあるのか?)。

 ラテカピュータのコンピュータ部の中身を見てると思うのですが、どうもこの時代は日立の機能部品(ROM、RAM、ASSP)やカスタムLSIが多用されていて、確かに電卓部門は以前からNECと懇意にしてはいますけど、雰囲気的にはNECの部品が使われている感じが薄いのですよね…。

 ワンチップマイコンの中身自体はシャープの設計で、製造が日立だったり自社だったりする可能性はかなりあると思っています。いろいろな製品で多用されているみたいなので、このあたりで何か明らかになると嬉しいのですがねぇ。

 実はこれは、ザウルスSL-C700の電卓アプリがあまりにしょぼいので自分で作るべく、参考用にいろいろ探した結果入手したものです。最初は電器店で探そうと思ったものの店頭にはなく(一部の店にはあるんですけど)、Yahoo!オークションで探していたら見つけました。まぁ本当はEL-5050とか16進が使えなきゃやだとか思いつつ探してたんですけど、発見した瞬間そんなのはぶっとんで速攻で入札してしまいました。肝心の電卓アプリは作らずじまいですが…。

 ところで、これはどこかの倉庫に眠っていた在庫品らしく、新品の状態で手元に送られてきました。もちろん箱もマニュアルもありますし、キャリングケースもあります。マニュアルには関数電卓ともポケットコンピュータとも書かず(表紙にはポケットコンピュータとあります)「シャープピタゴラスをお買いあげいただき…」とあるのみですが、別冊マニュアルである「プログラムライブラリー」には堂々とポケットコンピュータの記述があります。それどころか、なんと「ポケットコンピュータ友の会」の結成の案内がはさまっていました。そんなのがあることもすっかり忘れていました(^^ゞ。ちょっと検索してみたところではPC-1600Kの時代にもあったようですから、それなりに続いていたのでしょう。入会申し込み時には自作プログラムが必要ということで、「とりあえず入っとくか」というような友の会ではなかったと思いますが。

 最古のポケコンと、最新のポケコンの揃い踏み。25年でこんなに進化しました。

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