MZ-5500

 その数年前…ヤフオクにてMZ-5500用ソフトが大量に出品されているのを発見し、無事確保しました。ワープロなどビジネスソフトはともかくとして、なんとハドソンのゲームも多数含まれていたのです。本体は持ってないけどいずれ入手するとして、それにもしかしたらMZ-6500でも動くかと期待して…動かなかったのですが…。

 そういう窮状を見かねて…というわけではないですが、とある方から譲っていただきました。ブツ自体はMZ-5501で、マニュアル・システムディスク・キーボード他が欠品、オマケ的に非純正の2Dフロッピードライブが2基と本体内に拡張メモリ128KB・漢字ROMが装着してある状態でした。
 さすがにそのままでは使えないので、場所の都合でMZ-6500(初代)を倉庫にしまい込むことから、そこから部品を借りてきてMZ-5500に装着することにしました。

 借りたのは

 ・ キーボード
 ・ 増設VRAM(MZ-1R09)
 ・ 拡張I/Oポート
 ・ 増設RAM
 ・ 辞書ROM

です。発売時期が比較的近いので設計変更箇所はあまり多くないだろうという見込みと、MZ-5500と全く同じ物を使っているとしか思えない部品・性能的に余裕が増えるはずの部品があることからチャレンジしてみましたが、うまくいきました。でも返さないとMZ-6500がかわいそうなので、がんばって代わりのものを集めないとね…。

 写真で見ても、また自分も含めていろいろな人の表現としてMZ-5500の色はシルバーだと思っていたのですが、実機を改めてよく見てみるとこれはむしろ「シャンパンゴールド」と言われるような高級感のある色だったことに感心しました。それだけに後継のMZ-6500や、MZ-2800はおろかMZ-2500までアイボリーになってしまったのは残念ですねぇ。


MZ-5500はMZ-2200の後継機種である?

 ここからは私の勝手な推測、いや妄想と言えるかもしれません。以下の理由により、MZ-5500はホビー用パソコンの上位機種として、MZ-2200の後継を担っていたのではないかと考えています。

  1. PSGが搭載されている。
  2. 標準添付されたBASICのうち、最初のBASIC-1はMZ-2000/2200用DISK BASICであるMZ-2Z002との互換性が高かった。
  3. 最下位モデルの価格が218000円であり、担当者が「MZ-80B/2000等のFDDユーザーが買い換えることを狙った」と公言していたらしい。
  4. PC-9801用ゲーム「Mach 3 フライトシミュレータ」を移植したものが発表会場ですでに稼働していた。その後もゲームが続々登場。
  5. 当時のOh!MZ誌表紙に数ヶ月連続で登場していた。
  6. パソコンサンデー(第5期・1984年4月〜)にてターゲットマシンとして採用される。

 今じゃどんなPCにも音楽演奏機能はありますけど、それでも表計算とかデータベースをいじったりするぐらいの用途のためならちょっとした警告音が鳴れば十分。そういう意味では単音3オクターブ程度でも問題ないはずですが、MZシリーズ初のPSG搭載というのはそれ以上の利用価値があると考えての設計のハズ。ただ当時だとゲーム用途くらいにしか考えられないのですが…。

 最初に添付されたBASIC-1はそもそもMZ-5500の機能を十分には発揮できない処理系で、そのためにはBASIC-2の登場を待たないといけなかったわけですが、その当面提供されたBASIC-1の仕様はほぼMZ-2Z002。世の常として後継機種には先行機からなにがしかの互換性を確保するものですが、当時の最低ラインはBASICの文法の共通性であり、直接読めなくともせめてコンバータをかませるか、最悪は手打ちであったとしても最小限の修正でとりあえずプログラムの動くことが必須。MZ-2200のBASICと共通性を持たせていたということは、買い換えを検討するユーザーの所有機種をMZ-2200と想定していたと考えられます。

 先行するNECに対抗する意味でも低価格を武器にするのは常套手段ですが、FDDなしの最下位モデルとはいえ218000円というのはMZ-2000と全く同じであり、8bitマシンとの等価性を見た者に意識させることができるように思います。Oh!MZ誌の速報記事でもシャープの担当者が最下位モデルはMZ-80Bや2000のユーザーが本体をそのまま置き換えるような買い換えが可能のようなことを言っていたらしい記事になっています。当時2Dディスクを使用する機種で外付けドライブ構成になるのはMZ-80B/2000/2200だけでしたので(MZ-1500は未発売、MZ-700は拡張I/Oボックスが未発売、MZ-3500は内蔵ドライブ構成のみ)、MZ-5500が誰にとって買い換えを考えやすいかを意味していることになります。

 後の機種では発売時にゲームソフトを揃えるという手法はよくあるものでしたが、MZ-5500では「Mach 3 フライトシミュレータ」の移植版を発表時に披露していたようです。Oh!PC誌上で話題になっていたソフトのようですが、こちらはさらにマウスにも対応し、新機種の先進性をアピールしていたようです。それ以外にもハドソンなどから他の機種では定番になっていたゲームが多数発売され、さながらゲームマシンの様相を呈していたみたいです。

 入手したハドソンのゲームの数々。当時MZやX1で売られていたゲームばかりです。手元にあるのは

 ・ ボンバーマン
 ・ キャノンボール
 ・ ゼロファイター
 ・ スカイダイバー
 ・ ギャングマン
 ・ イタサンドリアス
 ・ バイナリィランド

で、品番も一部飛んでたりしますので、キラーステーションとかファイアーボールとかベジタブルクラッシュとかもあるんでしょう。

 MZ-5500ならではというような特徴はPSGを使用している以外にはなく、この機種のソフトとしては珍しくOSレスで起動します。そのせいかリセットボタンが効かないんですが…。

 Oh!MZ編集部は後の「X1turboZ騒動」にてturboIII発表後まもなくturboZの発表があることを知っていたようにシャープとの結びつきが深く、MZ-5500当時はこれをホビー向けに一番アピールしたいマシンとしてプロモーションに協力していた可能性があります。あのシド・ミードの絵を採用する直前まで人気機種の写真を入れたデザインの表紙にて編集していたのですが、シャープの意向か、さもなくばシャープの意気込みを見た編集部の判断でMZ-5500が採用されていたと考えられます。

 そして、パソコンサンデーでの扱い。1年前(第3期)のシーズンではMZ-700、半年前(第4期)ではMZ-2000/2200がメインだったところ、1984年春からの第5期にてMZ-5500に交代。当然、MZ-700やMZ-2000がターゲットとした購買層は続けて視聴する可能性が高いわけで、彼らにMZ-5500を見せたいということはステップアップ先としてそれを提示する意図があったと考えられるわけです。極端に表現すればゲーム機の次のステップとしてオフコンを選ぶなんてことはあり得ないわけですから、MZ-5500はホビー機の範疇(上位ライン)として売ろうとしていたことの証左と言えるのではないでしょうか。

 だとすれば、1984年にMZ-2200の直接の後継機が現れなかったこともそれなりの説明が付けられます。実は現れなかったのではなくて、MZ-5500こそがその後継機だったからこそ、8bit機の開発は行われることもなかったのだと。

 しかし…世間の目は厳しかった。市場は8bitマシンと16bitマシンのカテゴライズをハッキリさせており、8086を採用したMZ-5500は当然16bitマシンとして取り扱われます。メディア上で「シャープ初の16ビットパソコン」などという文字が躍れば、先行するMULTI16やPC-9801とターゲットや用途が同じビジネス用パソコンだと思ってしまうでしょう。図らずもIBM JXの失敗事例がここにもあったというわけです。いや、発売時期からするとむしろ先行事例なのか…。

 表紙でテコ入れ支援をしていたOh!MZ誌も、読者の所有機種の変化であるとかプログラムの投稿数であるとかを見てもMZ-5500に力を入れる必要がないと判断したか、1985年に一度だけ特集記事を組みますがそれ以外はマイナーマシンの扱いに留まってしまいます。

 開発者達は性能と価格のバランスから8086/5MHzを選んだのでしょう。例えCPUパワーが不足するとしても他のハード(ウィンドウコントローラなど)の支援により性能が犠牲にならないよう配慮されていました。しかしNECがPC-9801E/Fにてクロックを8MHzに向上させたことで、一気にMZ-5500が色あせてしまいました。そりゃそうでしょう、PC-8001や初期のPC-8801等と比べれば8086/5MHzマシンは速かったでしょうが、MZ-80B等と比べるとZ80A/4MHzとはそんなに性能差を感じなかったのが実情だったのです。すっかりスペック厨と化した市場は5MHzマシンを「低級品」と認定、ここでPC-9801の天下が確定してしまいます。

 MZ-5500をホビーマシンとして見てもらえなくなったシャープは、ついに折れてビジネスマシンとしてのカテゴライズに変更します。元々日本語ワープロや統合化ソフト(TODAY)などを発売しホビーからビジネスまで幅広く対応する予定ではあったので全てがひっくり返るというようなことにはならなかったものの、やはりPC-9801E/Fと比較されてしまうと売り上げを逃してしまうため、大急ぎで8MHzマシンを仕立てることにします。それがMZ-6500であり、最小限の変更で設計したらしくMZ-5500と共通になっているオプション品も多くありました(さすがにメインボードは再設計されているようですが)。

 発売からパソコンサンデー第5期開始まで半年ぐらいありますが、収録やテキストなど準備の都合もあってかMZ-5500にてスタート。しかし秋の第6期は早々とMZ-1500に切り替わってしまいます。第6期と第7期に相当する1985年4月〜と1年通じて採用されましたから、第5期だけMZ-5500というのはやはり違和感がありますね。

 他にも検証できない妄想ネタがありまして、

などなど、まぁ関係あるようなないような雑多なものばかりですが…。

 この仮説が正しく、さらにMZ-5500が後継機として成功していたらどうなっていたでしょうか。下位ラインとしてMZ-1500は発売されたでしょうが、上位ラインからは8bit機が消え、もちろんMZ-2500も登場しなかったでしょう。MZ-6500に相当する性能向上モデルは84年秋頃発表され、HDDとかのオプション発売もあったでしょうが史実のような高額商品にならなかったかもしれません。
 X1turboは史実通りのスペックで発売されたでしょうが、それは「8bit機の新境地」ではなく16bit機に対抗しうる性能というような評価になったことでしょう。MZ-6500やその後継機に速度で差を付けられる状況になれば、こちらがZ80B/6MHzを採用することになったかもしれません。

 将来不足するであろうCPUパワーを16bit化で乗り切るつもりだったのなら素晴らしい先見の明と言えなくもないですが、16bit機がホビー向けとなるには時期尚早でしたし、スペックが低すぎました。X68000のような、アーケードゲーム機がそのままパソコンになったかのようなインパクトが必要だったんですね。

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MZ-1R10
(MZ-5500用JIS第一水準漢字ROM)
MZ-1R16
(MZ-5500用増設RAM)

 MZ-5500は発売された3モデルのうち、下位2モデル(5511/5501)は標準RAMが128KB、そしてどのモデルも漢字ROMはオプションということで、今遊ぶならどちらもちゃんと装着しておきたい所。

 といってもどちらもチップ単体なので、部品を買ってくれば純正と見分けがつかないわけですが…。

 MZ-1R10は写真右の、6つ並んだ大きいICのラベルがついてない4つ。チップは富士通の漢字ROM・MB83256です。MZ-5500や6500シリーズは漢字VRAM方式ではないため、直接メインメモリにマッピングされます。

 MZ-1R16は写真左半分、やや色の濃いIC。回路図で見ると4164ということになってますね。

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