MZ-2500
特にMZ ENCYCLOPEDIA最終号で全力を出し切ってMZ-2500について書いたという達成感から、なかなか自分のところのページを更新しようという気になりませんでした。自分があえて書かなくても、誰かいろいろ書いてるよね! メジャーなマシンだしね! いずれネタが暖まってきたらごっそり書き換えるとして、先般企画案と思しきイラストが掲載されている資料を入手し、そこから読み取れる情報がひじょうに面白いので、まずはその解説からページの改訂を始めることにしましょう。 |
MZ-2500という新機種が世にお披露目されたのは主要なパソコン雑誌が発売される1985年8月18日。Oh!MZ誌の特集記事によれば記者会見はなくプレス向け資料の配付のみだったようですが、当時の新聞を調べてみても記事が見つからないので、8月18日を解禁日としてパソコン雑誌にのみ事前に情報提供をした可能性が高いと考えられます。
その後、8月20日から9月上旬までのどこかで、ショールームなどで販売店向け商談会が開催されました。どうやらここでのみ配布された資料があったようで、先日縁あってそれを入手いたしました。
「SuperMZ 新製品紹介資料」とあるのはMZ-2500のハード・ソフトの概要と商品やシステムの構成、企画意図などが説明された冊子です。他社製品と比較している箇所もあります。 「SuperMZ 記事抜粋集」というのはパソコン雑誌の1985年9月号に掲載されたMZ-2500のレビュー記事のコピーで、アスキー・I/O・Oh!MZ・マイコンライフ・マイコンの各誌の記事が綴じられています。V2の時代はマイコン誌のレビュー記事を別刷りにしてもらい配布したこともあったようですが、この時は完全に自前で作成していますね。 「SuperMZ」のロゴだけのものはデザインや文章に凝りまくったパンフレットです。この凝り方、多分自動車のカタログ冊子を意識してますよね…。 後に店頭でも配布されたパンフレットもありますが、これは見本版で、使われている写真も若干違いますし、何より価格が一切伏せられています。 表みたいなのは「アプリケーションソフト開発依頼リスト」で、当時聞かれた「その機種が発売されるまでにソフトを揃えておく」ということをやっていた、まさに証拠と言えるものです。MZ-2500専用のソフトだけでなくMZ-80B/2000モードで使えるソフトのリストも掲載されていて、数が水増しされています…。 どの資料を見ても本体価格が書かれていないのですが、この商談会にて口頭で予定価格が告知された可能性があります。雑誌で価格の情報が掲載されるのが翌10月号で、この時9月号時点の情報が若干更新されています。特にBASICの名称が「SUPER BASIC M-25」などだったのからSUPERの文字が取れたりしたのですが、ここにある資料は「SUPER BASIC」というような表記になっていないのです。 |
さてその中の冊子「SuperMZ」、どのページを開いても厨二病っぽいというかいろいろかっこつけようとした文章が綴られていて、写真や図はすごくいいのにどうしても笑ってしまう…というのは作った人に失礼ですが、ここで注目するのはコンセプト一人語りの部分ではなく企画検討されたらしきイメージイラストが掲載されている箇所です。
いろいろもったいつけながら過去から現在(MZ-2500)まで辿ろうとしている途中にあるものなので、こういう企画の冊子に合わせた絵をわざわざ描いたという可能性もなくはないんですけれど、やっぱり手間がかかりますし、写真と思しきものもあることから、本当に企画検討段階に描かれ作られたイメージイラストとモックアップだと考えています。何より、読み取れる情報がいちいち「なるほど」と思える内容なんですよね。
ひとつずつ紹介しながら、いろいろ読み取ってみましょう。
●キーボード一体化案
大きくは「キーボード一体化」と「CRTモニタ一体化」の二つに分けられます。まずはキーボード一体化案から見ていきます。
イラストとしては上面と側面が描かれたものですが、使われなかっただけで前面や背面・底面の絵もあったかもしれません。
基本的なフォルムとしてMZ-2200を踏襲していると言えるでしょう。ただ横幅が少し絞られて奥行も詰められており、MZ-1500の雰囲気も少し感じられます。
キーボードの配列はMZ-2200とよく似ていますね。スペースバーの左右のキーの数とか、テンキーも一行多いという差異はあります。フルキー部の上に二つと四つ並ぶキーは、HELPとCOPY、そしてうっすら矢印が見えることからカーソル移動キーでしょう。ファンクションキーがわかりにくいですが、多分筐体が盛り上がっているところの側にある四角でしょうね(10個ある)。
上から見ると筐体の左奥にのみスリットがありますが、MZ-700や1500のことを考えると電源がここにあるという想定なんでしょう。
二枚目はもう一つのキーボード一体化案なんですが、一枚目の絵とよく似ていることから、それを発展させたものだと推測します。というかこれ写真ですよね…今時ならCGで作れちゃうようなものですけど、当時はここまで質感の持てる絵はなかなか描けません…描けなくはないにしてもすごい時間かかるでしょう…。とすると、これモックアップってことですよね? さすがに試作品じゃないんじゃないかな?
キーボードはリターンキーが大きくなっていて、MZ-2200に比べて現代的になっています。左のシフトキーの上、制御キーが二つあってその右側のキーにLEDのインジケータがあるように見えますね。どうもこれMZ-6500のキーボードを流用したみたいに見えます。
テンキーの上には逆T字型に並んだキーがありますね。多分これはカーソル移動キーでしょうね。リターンキーの上がバックスペースキーだとするとその上にあるやや大きいキーはブレークキーですか? その左はやっぱりHELPとCOPY? あとファンクションキーはちゃんと10個並んでいますね。
ブレークキーと思しきキーの向こうにはFDDの開口部が見えますね。サイズ的には3.5インチでしょうか。まだ薄型ドライブのない時代ですからシングル仕様ですね。シャープなら3インチと言いそうなところですが、さすがにこの時期でそれはないかな…。FDDの左右に何か見えますがちょっとはっきりしませんね…右のは音量ボリュームでしょうか? 左のは…?
天板にはうっすら「MZ-2500」の文字が見える感じがします(「MZ-」くらいしかちゃんと見えないけど)。天板のスリットは左奥だけでそこに電源があるとして、右の方はFDDがあるとすると、真ん中に空間ができるわけですが…拡張スロットぐらいいけませんかね? でも実際の製品のオプションボードの規模を考えると、この筐体に入りそうな一枚基板で全部賄えるのかちょっと疑問…。
●モニタ一体化案A
こちらはキーボードをセパレートにする代わりにCRTモニタを本体に一体化した案です。せっかくMZ-2200でモニタを分離したのに、また合体させようと言うのでしょうか。というかこれ日立のPROSET 30みたいなフォルムですよね。しかしキーボードがやたらおざなりな造形ですね…分離キーボードという以上の情報が無きに等しいですよね…。
CRTがカラーかモノクロかはわかりませんが、CRTとFDDが二つ一体化しています。この時代なら3.5インチのはずですが…このFDDのベゼルの形状は3インチのものですね…気持ち的には3.5インチにしたかったんだけど、社内にある資料でサイズの小さいFDDは3インチのしかなかったのでそれを使ったのか、本当に3インチのつもりだったのか…。それと薄く四角い箱の線が描かれているんですが、これモニタ部が前にスライドしてくることを示しているんでしょうか…?
本体下部、つまりベース部はまたこれがやたら薄くて電源とかどうなるのかよくわかりませんね…。そのベース部で気になるのが、天板の一部が黒い四角になっていて、そばに小さく四角いものが描かれているところで…これ、QDにも見えるんですが…。確かにMZ-2000シリーズにQDはサポートされましたから、その資産を利用するためにドライブがあると嬉しいとは思いますが、標準装備するほどのものでもなく…いや、もしかしてMZ-1500の後継も担わせるつもりとか?
現実にMZシリーズのゲーム用低価格機というのはMZ-1500の後はMZ-2520になりましたから、企画時点でMZ-1500との互換性を持たせるということを考えるのはおかしい話ではないのかもしれません。そして、
というのは、実はMZ-1500モードの搭載が検討されていた名残だったりとか…?
●モニタ一体化案B
これまたモニタ一体化を意識するあまりキーボードがなおざりになってる案…というより何より、これまるっきりMacintoshじゃないですか…。どれだけデザイナーにMacが影響を与えたのかという話ですよね…。
FDDは2ドライブありますが、このデザインは5インチっぽいですね。その左には何かのボタンが8つあります。左側面には電話機(おそらくモデムホン)とカセットデッキがあります。特に電話機は側面にプッシュボタンがあると操作しにくいですが、図をよく見ると弧を描いた曲線矢印がありますので、これ少なくとも電話機の部分は手前にくるっと回してこれそうです。
ところで…こんなの見たことありますか?
…イメージイラストとそっくりですよね? Macintosh丸パクリのフォルム、5インチFDD、シャープのロゴの位置…これは1985年3月頃に発表されたビジネス向け日本語ワープロ、「ニュー書院」WD-2000です。それじゃなんですか、あのイメージイラストはWD-2000のものだったんですか?
いろいろ考えてみたんですが、今のところは「WD-2000とMZ-2500のどちらにも、何らかの理由で関係する」ということじゃないかと考えています。それをこれからご説明しましょう。
まず、イメージイラストには電話機とカセットデッキが明確に描かれています。これはMZ-2500の「通信パソコン」というコンセプトを反映したものだと思われます。両方あることで留守番電話機能も考慮されていたことが推測できます。そしてこれらの機能はWD-2000にはオプションを含めてありません。WD-2000はビジネス向けですし、ワープロと留守番電話を兼用するというのはそもそもビジネスの現場に望まれていたこととは思えませんし、家庭向けの機能としてこそ活きるとするなら、やはりあのイメージイラストはMZ-2500のものだと考えられます。
しかし現実には、イメージイラストの本体部分がMZ-2500ではなくWD-2000として発売されています。ということは…そもそもMZ-2500用として検討していたデザインが、WD-2000に使われることになったということでしょうか。それはそれでありそうな気がしますね。面白いデザインだから、捨てちゃうのはもったいないので、こっちにいただこう…誰も使ってない、いいものが既にあるのなら使わない手はないですね。
ところが、流用しているのはイメージイラストだけではないのです…MZ-2500のキーボードは、WD-2000のキーボードを流用したものなのです。この場合はさっきと逆で、WD-2000のものをMZ-2500が使っています。金型をシンプルに流用しているので、ケーブルの接続方法が違う(MZ-2500:直結、WD-2000:RJ-11コネクタ)にもかかわらず、WD-2000用にはある切り欠きがMZ-2500用にもそのまま残っているのです。
MZ-2500 |
WD-2000 |
ここから想像できることはなかなかに微妙で、単にコストダウンを期待して流用したのかもしれませんし、それこそ後の「MZ書院」みたいにパソコンとワープロの兼用機を作ろうという構想があったのかもしれません。いろいろと非現実的な構想なので早々に立ち消えしたものの、多少なりとも残っていた関係性がキーボードの流用やV2にて「WD変換」という書院とのデータコンバートユーティリティの搭載という形になったということなのでしょうか。
実際の製品がデザイン的には無味乾燥な直方体だったことを考えると、イメージイラストはかなり初期の段階で描かれたものではないかと思われます。FDDを内蔵させたい、キーボードを改良したい、通信機能を持たせたい…といろいろ改良したいポイントがあって、どう解決するか思案していた様子の一端がうかがい知れるようです。
ちょっと愚痴
私にとっては、どういうわけかX1turboよりもMZ-2500のデビューの方が衝撃的でした。日本語処理、メモリ空間、多色表示、そして6MHz駆動のZ80。その突出したスペックにOh!MZ編集部も狂喜乱舞し、X1turbo以来の「緊急特集」を組んだくらいです。
その緊急特集は、貸出機こそあったようですが大半が暫定的な内容を含むプレス資料からのもので、解析に使える時間も限られる状況でものすごく力の入った記事になっていました。不明であった価格など暫定的な情報は次号になってようやく確定したものがあったんですけれど、それでも十分ワクワクできる内容だったのです。
それゆえその記事を何度も何度も読み返していたんですが、そこで気になったのがMZ-2500に「火の鳥」という愛称を編集部独自につけてしまったことです。シャープは最初から愛称として「SuperMZ」というのを用意していました。それを無視する形で、記事の全編にわたって「MZ-2500」と書くところを「《火の鳥》」と書いているのです。Oh!MZは以後もしばらく《火の鳥》という呼称を続けたこともあり、読者まで愛称として使うようになってしまいました。
Oh!MZ編集部が《火の鳥》と表現した理由は緊急特集の扉ページにありました。MZ-2200の登場から2年、アーキテクチャからすればMZ-2000から3年も非力なのは明らかなのにモデルチェンジをせず、「もしかしたらMZはX1に敗北したのか?」とも言われそうな状況を経て渾身の一撃が放たれた様子を指して、「MZは死なず」、不死鳥のごとく甦った…ということからのようです。
しかしMZ-2000大好き人間からすると、そのようにMZが死んだかのように考えていたこと自体見当違いでしたし、新機種が出たから言えることではありますがそれまでは「伏して機会を待つ」ということだったと、思いたいのですよね。
そして、X68030が発売された時にイメージイラストに不死鳥が使われたことで、「シャープが火の鳥(または不死鳥)をイメージに用いるとそのシリーズが終了する」などというジンクスが唱えられるようになりました。いや、MZ-2500を火の鳥と呼んだのはOh!MZ編集部であってシャープではありません。そんなジンクス成立もしません。あれから30年以上経つ今でも、「火の鳥」をMZ-2500の正式な愛称だと思っている人が少なからずいるようです。
思えばそれ以前にも、MZ-700用のDISK BASICが発売されるという記事でFD-700とかDISK-700とかいう型番くさい呼び名を付けて、しかもそれが記事中で安定してなくて、もちろんメーカーによる呼び名でもなんでもないというようなこともありました。
確かに、メディアが愛称を勝手に付けてそれが一般化するということはよくある話です。でも細かいことですが呼び名ってとても大事で、特にこれらは市場で販売される商品なのですから、勝手な呼び名が使われることで店員や問屋・メーカーに通じず、消費者の購買を妨げることがあってはならないのです。なにせ自分で付けた愛称なのに社員が知らないこともあったシャープです。自分の書く記事が周く全ての日本の電器店の店員に読まれるかのような振る舞いは傲慢なのです。
あの緊急特集では、機能強化されたBASICがさらに強化されたらこんなこともできるかもしれない…という筆者の妄想が解説の続きに書かれている箇所があって、その境目があいまいで、私はかなり長い間それが実際にある仕様だと思い込んでいました。だって「今までの常識が当てはまらない!」と言って書かれている解説記事なのですから、現実と妄想を見極める手がかりとしての「当たり前」がそこにはなく、それにつられてこちらも事実誤認をしてしまったのです。興奮する気持ちはとてもよく分かりますが、もっとわかりやすい記事を書いて欲しかった…。