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MZ-40K

 ついに念願達成です。本体だけではありますが、ひじょうに綺麗な機体が手に入りました。MZ-40Kは8ビットのMZシリーズの前にあったまさに「ご先祖」的な存在のマシンで、SM-B-80T/TEがあくまで半導体事業の一環としてZ80のトレーニング用に設計されたのに対して、マイコンブームに乗っかっていわば「オモチャ」として発売されたものです。どの程度オモチャなのかは後で詳しく述べるとして…。
 私のMZ-40Kとの出会いは1980年に阪神尼崎駅から徒歩10分くらいのところにあるMTK電子というマイコンショップが最初でした。ここは後に富士通専門店に衣替えするのですが当時はシャープ専門店で、2階には4〜5台程度のMZ-80(確か80Cだったような)を並べてパソコン教室を設けるなど充実していました。同じ2階にはApple][も売っていました。この店の1階の窓際にショーケースだったか低い書棚があって、その上に鍵盤形キーボードのMZ-40K2とペアで置いてありました。電源が入っていたかどうかは記憶にありません。がその特徴的なキーボードを見て、すぐにこのボードマイコンが音楽演奏をを得意とするのだろうとわかりました。やはり色のPC、音のMZというのは初代から受け継がれていたわけですね…(もっともそれもPC-6001が出るまでだったが…)。
 その次はそれから2年後、某学習塾の企画による代々木国際青少年センターでの合宿研修の際に、観光ということでバスに乗って訪れた九段の科学技術館のコンピュータのコーナーにMZ-40Kがあるのを発見しました。展示用の金属のケースに埋め込まれてLEDとキーボードしか見えなかったのですが、側にある鍵盤状に並べられたキーからMZ-40Kであるとすぐわかりました。横には使い方ということで「これらを全て正しく入力すると、マイコンがオルガンになります」てな感じで20ステップくらいのキー操作の方法が書いてありました。私は喜んでそれを入力し、見事にオルガン機能を再現してみせたのですが、今回入手したMZ-40Kに付属のマニュアルを見てみたところでは、どうも騙されていたみたいです…。なお、それから15年して科学技術館に行ってみましたがそのコーナーはすでに場所を移動ししかも内容をがらりと変えてしまってました。改装のときに捨てちゃったかな…。

 いつの頃だったかは忘れましたが、あるときふいにMZ-40Kのことを思い出して欲しくなってしまいました。でもなかなかチャンスは到来せず、ある時はどこかのオモチャ屋で店先にたまたま残っていたものを私が「欲しい」と言うのが遅くて他人の手に渡ってしまったとかいうのはありましたが、考えてみれば周囲に持っているひとが全然いないくらい(自分だって雑誌で見ただけ)なんですから仕方ないかもしれません。
 が、Yahoo!オークションで状況は変わりました。超レアアイテムであるという事実は変わらないものの、ごくたまに出品されるのです。私はそれを狙って入札するのですがなかなかうまくいきませんでした。
 最初は箱・マニュアル付きで本体のみを出品価格50000円というものが出ました。出品者はご丁寧にも出品後に私のこの博物館ページを発見したとかで、わざわざメールを下さいました。悲しい親切心…、知らせてくれるくらいなら出品をやめて欲しかった…。で、高かったのですけど果敢に入札し、でも結局それが10万円を超えることになってあきらめてしまいました。
 次は箱・マニュアルの他にになんと鍵盤形キーボードMZ-40K2も付属して出品価格は1000円。しかしこれも瞬く間に高騰し、最後にスナイピング(終了ギリギリで高価格をつけて掠め取ること)で落札しようと狙っていたものの最後の入札者が10万円以上の入札金額を入れていたようで、これもあきらめざるを得ませんでした。
 その次はなんと未組み立てで出品価格15000円くらいでの出品。考えてみればこういうのは出品時に動作確認できないというのは不安材料になるんですよね。それもあってか入札の出足はやや鈍く、それでも私も入札しましたが結局7万円以上になってしまい、この後の入札で10万円突破が予想されたことからまたしてもあきらめてしまいました。
 そして4度目、今度は箱・マニュアル付きの本体のみで出品価格20000円。しかし、出品者によると「完動品ではない」とのこと。これが効いたかあまり入札がなく、めでたく38500円で落札できました。動かないとは言え動く部分での写真が掲載されましたし、CPUなどの半導体部品内部の故障はあまり多くないことから修理は可能と判断したのですが、やっぱり他の人はそこまでの愛はないんですかねぇ。
 さて、ここでMZ-40Kについて解説しましょう。見ての通りのワンボードマイコンなのですが、よくある感じのやつ…TK-80とかSM-B-80TEとかですね…とは違って表面にはアクリルのカバーがつき、両横には台が支えています。ケースというには甚だ簡単ですが、元々あるワンボードの雰囲気を残しつつ安全に使うための工夫がされていると言えます。でも安全に使わせる工夫の必要があるターゲットというのは、TK-80などとは違うユーザーを想定してますよねぇ。
 この両横の台ですが、ネジか何かで固定されているのかと思ったら単にはめ込んでいるだけなんですね。アクリルカバーと基板のための溝が掘ってあって、それぞれを溝にはめて固定するようになっています。溝はもうひとつあって、早見表を入れておくのに使います。
 MZのロゴは後と同じものです。ちょっと4の字が違うような気もしますが。まぁ後にもSやら5やら6やら8やら変更してますからあまり問題ではないですけどね。
 それとMZシリーズには欠かせないあるものがここには描かれていません。それはアルゴのマーク。MZシリーズの象徴であるアルゴ星座のシンボルマークがないんです。これはアルゴマークがMZ-80K発売の時に決められたものだという証拠でしょう。
 上からひょろっと延びているミニプラグは電源なのですが、これがAC11Vだったりします。形は普通のACアダプタなんですけど降圧しかしないんですね。整流は基板上で行うようになっています。なぜこんなことになっているかというと、MZ-40Kに時計機能を持たせるうえでそのトリガ用として使いたかったかららしいんです。実際、時計を合わせるのに周波数に従って特定の値を入れないといけなくなっています。
 ミニプラグの入るジャックの横はボリュームですが、ラジオなどによくある回しきるとスイッチが切れる、スイッチ連動型のものが使われています。当然ながらそのスイッチは主電源の入・切に使われています。
 キーボードは黒地に白などの文字でそれぞれ書かれています。このあたりは後年のMZ-80Kと趣を同じくする感じがしますね。キーの機能は必要最小限、但し多くのキーに音階が書いてあります。
 CPUです。ここではっきりさせておきたいのですが、世のMZ-40Kを語るページには特にこのCPUに関していいかげんな記述が多すぎます。ユーザーが少ないうえに古すぎてパンフもまた残っていないでしょうから、正確な情報を得るのは難しかったとは思いますし間違えるのはしかたないでしょうが…。
 Oh!MZではある時期に毎号の目次ページに歴代のMZをカラーで小さく連載したのですが、その最初のMZ-40Kの簡単な解説にCPUの型番を「X0036PAZZ」という、写真のSHARPの下にある番号であるとしましたが、これはあくまでシャープの物品管理番号であって型番ではありません。
 MZ再興事業団といういかにもMZ好きな人が作ったサイトがあるのですが、ここのMZ関係キーワードにあるMZ-40Kの説明も昔はCPUをZ80としていました(もちろん今は修正されています)。どこかのページにはインテルの4004だとも書かれていましたが、これはおそらく4ビットというとi4004しか知らないというレベルの問題ではないかとも思います。
 さて実際には、実はまたきっちりマニュアルには書いてあるのですが、これは富士通のMB8843というワンチップタイプのマイコンです。1KBのROMと64ワード×4ビットのRAMを内蔵し、37本のI/Oポートを備えています。42ピンパッケージですから、そのほとんどをI/Oにできる制御分野ではなかなかに強力そうなCPUですね。直接的かどうかは定かではありませんが、このCPUの末裔がマウスなどのCPUとしてひじょうによく売れました。180度ひっくり返して実装してあるのでわかりにくいですが、よく見れば富士通らしいパッケージですよね。
 画面から切れかけてますが下のほうに「デンワ」と書いてあります。これは内蔵されているプログラムのひとつ、電話料金計算の単位時間あたりの料金を設定するためのジャンパー線です。値上げを見越して15円まで設定できるようになっていますが、現在これが値下げになるなんて当時は思いもしなかったでしょうねぇ。しかも小数点以下の数値まであるわけで…。
 RAMです。これも富士通の製品で、MB8101です。その実体は2101、256ワード×4ビットの容量があるSRAMのようですね。なのでふたつ合わせて512バイト。
 左がマニュアルで、ひじょうに薄いです。内容としてはほとんどを組み立て方法の解説に終始し、使い方の説明はあまり多くありません。手にして驚いたのですが、なんとCPUの命令表がどこにもありません。よく読んでみると、CPUに内蔵されたプログラムを実行する機能はあるのですがユーザーには開放されていません。いやもしかしたら方法はあるのかもしれませんが、少なくともそのようには見えません。モニタプログラムをよくあるワンボードマイコンとそっくりに見えるよう作ってありますが、実は見た目だけで内部では全然違うことをしているのかもしれません。
 右は使用方法早見表で、機能としてはこの表の裏表で全て語れてしまうところがなんとも悲しいものがあります。こういう早見表は以後も特にDISK BASICなどに添付する形で続きました。
 箱です。半導体回路を連想させる、シリコン配線の写真の拡大図をバックにしているのは後のMZシリーズと共通ですね。フタに書かれたキャッチが泣かせます。「飛び出せ!マイコンの世界へ。」ってこれで体験できる世界は小さいと思うぞ。「楽しみながら、マイコンに強くなる」って確かに楽しめるだろうがあまりマイコンに強くなるとは思えないな…。さらに横には"An Introduction to The Study of Micro-Computer"と書いてあります。あくまでも入門用ということなんでしょうかねぇ。
 オークション出品時には完動品ではなかったこのMZ-40Kですが、いざ受けとって通電してみると音が出なくて時計が動きません。音に関しては出品時には出ていたらしいのでアンプ周辺の部品の取り付け状態をチェックしてみるとアンプ回路からスピーカへつながる途中にある電解コンデンサのハンダがパターンごとはがれてしまっていました。これはパターン通りにストラップ線でつなぎなおせば元通りに音が出るようになりました。
 時計機能については厄介だろうと思ってまずは回路図からチェックしました。時計を設定すると設定時刻が表示されるくせに秒表示のドット点滅がないということでクロック用のトリガ入力を疑ったのですが、クロックらしい入力は3つもあります。時計設定時に電灯線の周波数に応じた値が必要になることからACアダプタから来ている線が怪しいと睨みましたがどうも2SC373というトランジスタを介してTTLレベルに変換しているらしいです。トリガが来ないということはこのトランジスタが飛んでいる可能性が最も高いのですが、別の可能性としてパターンの断線、ハンダ不良、そしてCPUの入力バッファの故障というのも考えられます。もし最後のなら手がつけられないことを意味します。そこで慎重にテスタなどを用意してどこまで信号が来ているか調べようと思ったら…なんとそのトランジスタが極性を逆に取りつけられていました(^_^;)。逆接ということですでに破壊されているかもしれないと思いつつ一縷の望みを託して付け直してみると、なんとあっさり時計機能が復活…。
 まぁいろいろありましたが、これでめでたく完動品となりました。もし完動でないことを理由に入札が敬遠されていたのならば、本当に出品者に感謝です。

スペック

 公式なスペック表はありません。スペックを比較する時代ではなかったのかもしれませんが…。


背景

 MZシリーズ生みの親はシャープのパソコンの事業部ではありません。というか、当時はパソコンが商売になるかどうかわからず、パソコンを扱うような事業部というのはありませんでした。NECのTK-80誕生にまつわるエピソードがセカンドソースした8080CPUの需要拡大に策をめぐらせた半導体事業部にあるように、MZシリーズは部品事業部というコンピュータとは直接は関係しない部門で誕生しました(オフコンであるHAYACシリーズはすでにあったはずです。多分統合化後の部門である産業機器事業部に…)。

 部品事業部では電子レンジなどの家電の制御用に4bitクラスのマイコンを使用していました。おりしも世はTK-80によって火がつけられた「マイコンブーム」真っ盛り。そのブームに乗っかって、自分達の持つマイコン技術を使ってわが社もマイコンキットを作ろう!ということになったのだろうと思います。家電業界では常識の「二番手を行く」。他社にブームを起こしてもらい、その問題点を洗い出してユーザーが真に求める製品を発売して結果的にどこよりも儲ける。まだこんな考え方がまかり通った時代でした。
 MZ-40Kに見られる製品コンセプトからすると、既存製品の隙をつく作戦は次のようなものだったと考えられます。

「マイコン博士」という商品名で売られたこのワンボードマイコンは、商品の性格からは考えられないほどの家電化が図られています。まず、何より低価格。TK-80は88000円、廉価版のTK-80Eでさえ67000円だったのに、MZ-40Kは24800円。他のワンボードではケースを買ってきて組み付けるのにプラスチックの筐体(両サイドを支える台ですが)とアクリルの化粧板が付属。電源は一般的なACアダプタが付属。スピーカがついて音楽の自動演奏やオルガンにもなり、しかも全てのプログラムはCPUに内蔵されていてわざわざ組む必要なし。唯一元の性格を残している部分は、これが組み立てキットであるということくらいでしょうか。
 ここで内蔵されている機能の一覧を紹介しましょう。

機能 設定アドレス 実行アドレス 説明
時計 A   秒と電源周波数の設定
B   時と分の設定
タイマー 9   指定時刻の設定
  8 指定時刻到達でブザーが鳴る
7 7 指定時刻到達で音楽が鳴る
センサー B 1 センサー1のカウンタ初期値設定、センサー1のカウント表示
1 1 センサー1入力で音楽演奏
2 2 センサー2入力で音楽演奏
3 3 センサー3入力で音楽演奏
4 4 センサー4入力で音楽演奏
5 5 センサー5入力で音楽演奏
6 6 センサー6入力で音楽演奏
自動演奏 F000   演奏データ
0   演奏データ先頭番地
E 0 テンポ、演奏開始
オルガン   C テンキーで音が鳴る
電話料金 E D 単位料金あたりの秒数設定、計数
ゲーム F000   パラメータを設定し、スイッチの長押しでスタート

ゲームにはサイコロ遊び、ルーレット遊び、猛獣狩りゲーム、カーレース、陣取りゲーム、メッセージメモが紹介されています。メッセージメモは単にメッセージをASCIIコードでRAMに読み書きするだけ、他のゲームは「ゲーム用スイッチ」を人間に押させることでその誤差を乱数として利用し、その間メモリの連続アドレスの読み出しを実行してスイッチを離した瞬間に読み出したメモリの内容を表示させるという、他愛のない機能をいろいろ工夫してあるものです。

 このように特に初心者が遊びやすくなるように作られたMZ-40Kですが、結局あまり売れませんでした。ひとつは製品のコンセプトの設定を間違えたことにあると思われます。あまりにも初心者向けにしすぎたためにMZ-40Kでは次のステップへ踏み出すことができません。すでに書籍などの形でTK-80などにはプログラムの本が出始めていました。プログラム機能のないMZ-40Kではこれらを見て応用することすらできません。TK-80などに憧れつつも結局MZ-40Kを買った人などは騙されたとさえ思ったかもしれません。
 さらには、マイコンブームそのものが下火になりつつある時期だったこともあるでしょう。TK-80ではすでにBasic Stationが発売されてテンキーを叩いて16進コードを入力するばかりがワンボードマイコンではなくなっていました。さらにはCOMPO BSなる「ほとんどパソコン」のような商品さえ現れ始めていましたし、海外からは高価ながらもパソコンが輸入されつつありました。時代はパソコンに移ろうとしていたのです。

 こうしてMZ-40Kは「知る人ぞ知る」幻のマシンになりました。しかし、シャープのとりわけ部品事業部としては単なる部品事業から一般消費者向けの製品を出すというきっかけを掴み、これがすぐ後のMZ-80Kへつながっていくのです。

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