PC-1250/1251

 80年に発売されたPC-1210/1211は、パソコンなどとても買えない中学生の私にとって憧れの的でした(それでも29800円なんて出せるわけなかったけど)。なりも画面も小さいながら、いっぱしにBASICが使えたポケコンが欲しくて欲しくてたまりませんでした。
 81年暮れ(実際には82年1月か?)に発売されたPC-1500はPC-1211の不満な点を改良してありました。当然憧れの的はそちらに移ります。グラフィックが使える画面とその命令、拡張できるRAM、豊富なオプション、カナ表示に加えて、工学社とシャープからそれぞれ違うニーモニックでマシン語が発表されました。雑誌に掲載されるプログラムの質は飛躍的に向上し、ポケコンの好きな人は皆これに向かいました。
 82年に発売になったPC-1250/1251はPC-1211の直系の機種で、命令体系や画面などいろんな部分でそれを踏襲していました。標準状態ではPC-1500よりもわずかだけメモリが多かったのですが、こちらは拡張できないし、何よりグラフィックができないということで、あくまで廉価版、遊ぶにはすこしつまらないものというイメージがありました。

 83年に高校に上がり、中学の時よりはマシそうな図書館を見に行くと、ポケコンで遊んでいる3年生の2人組がいました。遊んでいるといっても実際に操作しているのは一人だけで、どうも見ているもう一人がそのポケコンの持ち主であり、動いているゲームをプログラムした人のようです。
 画面を覗いてみると、どう考えても普通にはありえないキャラクタが表示されています。グラフィックで出したとしか思えない、でもこの機械はグラフィックのないPC-1251です。意を決して聞いてみると、「グラフィック出るよ」というあっさりした返事。詳しい事情はわからんが、どうもこれでも遊べそうだ、買ってしまおうということで、4月の最後の日曜だったかに初めて日本橋へ行き、ひととおり探した後喜多商店で買いました。ソフトウェア・ライブラリという本がおまけでついてきました。

 急いで家に帰りマニュアルを見てみると、別に命令があったわけではなかったのですが、巻末にグラフィックの表示のしかたとプリンタの特殊文字(カナ含む)の印字方法が掲載されていました。あとから知ったのですが、巻末の付録は初期のロットではついてなかったようです。で、その付録によるとPOKE文によってデータを設定し、CALL文でデータを表示・印字するようになっていました。
 グラフィックはVRAMにデータを直接書き込む方式で、その構造も画面の右半分と左半分でアドレスの進みが逆になるという変わったものになっていました。しかも、BASICのワークエリアとしてVRAMが使われているために、計算させると画面の両端にゴミが出るという不都合な点もありました。が、世のホビイストはそんなことでめげることなく、雑誌にグラフィックを使用したゲームなんかが数多く投稿されるようになりました。その後TheBASICやPOPCOM誌でマシン語が公開され売れ行きに拍車がかかり、PC-1400系も登場して、すっかりポケコンとしてはメジャーになったというわけです。

 発売当時、なんといっても感心したのはこのキーの大きさ。PC-1210/1211なんかではこの写真の最上段に並ぶキーくらいの大きさはあったのですが、それが思い切って4mm角の小ささに変わってしまったのです。
 確かにアイデアだと思いましたねぇ。普通キーはひとつで指先の全部を受け止めなくてはならないと考えるものですが、これの場合はキーの左右にある隙間も含めてひとつ分としているのです。その隙間も隣のキーと共有して全体のサイズ縮小に貢献しています。

 なお、PC-1251は保管状態が悪くて液晶漏れを起こし、捨てていませんが休眠中です。こちらのPC-1250はメモリを増設してPC-1251相当に改造してあります(メモリ基板に6116相当品が載るスペースとパターンがあらかじめあって、ハンダ付けするだけで増設が完了する)。
 またPC-1245用のハードカバーをつけてみたくなって溝を延長する改造もしています。元々PC-1250/1251には装飾と滑り止めを兼ねた溝が上辺と下辺のプラスチック部分に入っていて、ただそれは端まで達していないただの溝でしかなかったわけです。それを利用してPC-1245ではハードカバーを取り付けていたのですが、元々よく似ている両機のこと、プラスチック部も最小限の変更で済ませているだろうと踏んでヤスリで溝を延ばしたところうまくいったというわけです。


PC-1251H

 シャープポケコンシリーズにおけるHバージョンは、大容量RAM搭載機の印。つまりPC-1251HはPC-1251のRAM大容量版(10.2KB)ということになるわけですが…いろいろ考えてみても、その存在理由がどうもおかしい。ていうか、そもそも店頭で見たことなかったし、カタログにも掲載されてなかったんですが…。

 というわけで真相を探るべくヤフオクにてゲット。しかし見れば見るほど…PC-1251ですな。表と裏に刻印されている型番と、赤いラベル以外見た目の変化はありません。

 10.2KBマシンと言えば、PC-1255というものがあるわけで。発売されたのはこちらの方が早いのでしょうが、全くと言っていいほど同じマシンが別々に存在する理由は?

 ちょっと中身を確認。ってこれはメモリが実装されているサブ基板ですが、CPUや液晶のあるメイン基板には全く違いはなく、このサブ基板だけが両機種の違いとなっています。サブ基板はメイン基板とゴムコネクタで接続されるのですが、ちょうどメモリだけで構成されていることから、これだけを交換して専用機を作る…という話をどこかで読んだような気がするんですが、忘れちゃったな…私の妄想かも…。

 さて、二つあるサブ基板のうち左がPC-1251のもので、6116(2KB)が2個の4KBが搭載されています。とすると10KBだと6116と6264(8KB)の組み合わせで実現できることになるのですが…右のサブ基板を見ると、LH532917と書かれたもの以外ICとかLSIの姿はひとつだけ、それもロジックIC(40H138)しかありません。代わりに、何やら基板に黒くて四角いものが5つほど貼り付いています。どうやらこれがRAMのようで、5つあることからひとつ2KBということになりそうです。おそらくこの時代には6264に相当するチップが製造できないか非常に高価で、2KBのメモリを高密度に実装したいが故にこのような設計になったのでしょう。
 PC-1251ではLH532916、PC-1251HではLH532917とシルクされているQFP部品はROM。型番が細かく分かれているので機能のあるLSIかと思ってしまうところですが、内容の違うマスクROMなのでそれぞれ異なっているということ。後述するように実はBASICの仕様は変わらないんですが、ROMの内容が違っているのは増えたメモリ容量に対応するためではないかと推定します。

 ところで、ROMの手前にレジストがなくてパターンが露出している部分があるのですが…これって大きさからしてもRAMが取り付けられそうなんですが、もしかして6つ目がついて12KB?それともサブ基板がちゃんと動作するかのテスト端子?

…とここで思い出すのが、PC-1252Hなどをはじめとする実行専用機のこと。PC-1252/1253ではRAMが4KBなのでPC-1251で賄えるとして、PC-1252H/1253Hは10.2KBに拡大されているのですから、PC-1251ではプログラムが作成できないかもしれません。そうか、これはPC-1252H/1253Hのためのプログラム開発機か…!

 ということを念頭に赤いラベルを見てみると、「PC-1252H専用ライター」と書かれていますね。ライターと言ってもEA-128C/129Cで直結したら受け側でINボタンを押してこちらでCSAVEするだけのことなんですが。

 別途入手したPC-1253Hのマニュアルによると、大容量RAMマシンのためにPC-1251Hが用意されていて、シャープかその実行専用機を取り扱っている店で問い合わせてくれとあります。なるほど、ならばその存在が都市伝説級なのもうなづけるというものです。
 とするとですね、実行専用機のために用意されたポケコンなら、実行専用機にしかないギミックがデバッグできたりする可能性があるんじゃないですか?!

 というわけでカナや英小文字を表示させようとしてみましたが…やっぱりこれはRAMが大きいだけのPC-1251でした…(このプログラムをPC-1252Hに転送すると、正しくカナなどが表示できました)。

 ところでさっきのPC-1255ですが、今度は逆の疑問がわいてきます。すでにPC-1251Hというものがあるのに、わざわざ別の型番で発売しなければならない理由は何なのでしょうか? PC-1255との相違点は、型番を除けば見た目(黄土色→茶色)、ROMバージョンくらいしかありません。見た目は発売開始時期の問題でしょうし、ROMバージョンはこっそり改版されている例もあったのでこのために型番を変える必要性は感じられません。
 高校時代の話ですが、友人が私に影響されてPC-1255やPC-1261を買ったんですけれども、一日だけPC-1255を借りてサブ基板を見てみたことがありました。確か、このPC-1251Hと同じだったような記憶がうっすらと…。

 あまり前向きな理由ではありませんが、PC-1251Hの販売ルートが一般向きではなかったため、それをそのまま一般向けに流すことができないので別製品にしたとか、企業向けということでサポート料込みの高額な定価だったとか、とにかくただそのまま店頭に並べるわけにはいかないという社内的な事情があったのではないか…というのが今の私の推測です。


PC-1250A

 シャープの(多分カシオも)ポケコンシリーズは電卓並みの扱いだったようで、知る人ぞ知るバリエーションがいろいろあります。それが輸出専用機だと尚更で、現地の都合もあるのでしょうが、日本のカタログにないレギュラー製品がいくつかあります。
 その中でも、最も謎なのがこのPC-1250A。一言で言えば「PC-1250のメモリ強化バージョン」ということなんでしょうけど、増えたと言ってもRAMは4.2KB、PC-1251と同等になっています…いやいや、それなら普通にPC-1251を売ったらいいんじゃないんですか?どうしてわざわざPC-1250の改良版を作る必要があったんでしょうか…。

 というわけで真相を探るべくまたしてもヤフオクにてゲット。しかし見れば見るほど…ってシリーズというより単なるバリエーションなんだから見た目が同じなのは当然ですな。
 MEMコマンド実行結果。

 「6」キーのシフト位置のところに「¥」記号が刻印されていないのが海外向けを物語っているのですけど、普通に入力できちゃいますね…。

 いろいろ調べてみると、物証は少ないですがどうも1983年の発売らしいのです。この頃になるとPC-1255が発売されたりとかして、そろそろPC-1250には見向きもされなくなってきていたのではないかと思われます。メモリが同じ・値段が安いPC-1245というのもありますから、表示桁数にこだわらなければそちらを選ぶのが普通でしょう。それに、日本のカタログでもPC-1255の姉妹機としてPC-1251の名前があったりして、PC-1251-PC-1250という関係がPC-1255-PC-1251という関係に代わり、PC-1250がもう存在しないような表記になっていたわけです。

 そこで推測されるのが、売れ残ったPC-1250をPC-1251相当に改造して在庫処分してしまおう…というもの。実際、私もPC-1250にRAM(6116)を追加するだけでPC-1251相当にしてしまうという改造をしていますから、メーカーがやるならもっと簡単に、もっと綺麗にできると思われます。

 PC-1251と1250の違いはサブ基板にしかないわけですから、それを見れば改造の具合がわかるはず…ということで取り出してみました。
 予想としては、RAMを追加するわけですから、それぞれのRAMチップがメーカーや品種やロット番号なんかで違うものになっている…と思ったんですけど、こりゃ全く同じですね。しかもよく見てみると、ROMの型番がLH532922と元のPC-1251などとは変わっています。ROMを交換してしまうなんて改造としては手間がかかりすぎ。そりゃ部品全部交換したらリフロー槽を通せるのでしょうけど…。それにしてもこの型番、PC-1255と同じじゃなかったっけ…?

 それと拡大してもっと観察してみると、ハンダくずが残ってるところがあるんですが…製造ラインでも出るかもしれないし、手作業の証拠とは言えないか…。
 ところで裏面の刻印なんですが、ちょっと変だと思いませんか。サフィックスの「A」だけ、はみ出てバランスが悪くなってます。下の写真はPC-1250のもので、それぞれの位置関係からしてサフィックスのAは後から追加したようにも見えます。この程度のシルクなら、作り直す手間も費用もかからないんじゃないかと思うので、これはやはりすでに印刷されたものにAだけ追加印刷したということじゃないかと思うんですが…。

 とは言え、位置関係とか微妙に違うようにも見えますね。直すならはみ出さないようにするだろうし、付け足しただけなら本体部分は動かないだろうし…。
 こちらは、逆に改造には見えない状況証拠。実はフレーム(茶色のプラスチック)部に、ハードカバーを装着する溝が存在するのです。海外のサイトをいろいろ調べたところPC-1250Aには手帳型ケースが付属していたようなので、別にこの溝はなくてもいいはずなんですが…。
 どうもPC-1255も同様に溝がありながら手帳型ケースが付属していたことから、PC-1245のフレームを共用していただけなのではないかと考えられます。でもそうすると、PC-1250AとPC-1255の製造時期は近いということになってしまい、改造で生まれたことにならないんですよね…。

 というわけで、結局のところよくわかりません。こちらの記述によると学生用に売られたものであるとのことなので、ある種の企画製品ということなのかもしれません。そうするとむしろPC-1255からの派生でありメインストリームから外れた製品…教育用ポケコンと同等と捉えた方がいいのかもしれませんね。


TRS-80 PC-3

 TRS-80のポケコンシリーズ、PC-2に続く第3弾。今度はPC-1250のOEM仕様です。なにか、新しい製品が出たらOEMに出しているようですよね。

 ローカライズといっても大したことはしてないので、基本的には外観上の違いしかありません。一番目立つのはオリジナルでは「SHARP」のロゴのある場所にタンディ・ラジオシャックのロゴがあるところでしょうか。
 液晶周辺を拡大してみました。
 液晶の周りの色が淡くなっているのも細かい違いですが、それよりも一番の違和感の原因はシフトキーが銀色だったりシフト位置の刻印が黒かったりするところじゃないでしょうか。
 他の輸出機やTRS-80シリーズ同様に¥マークがないだけの簡単なローカライズですが…やっぱり入力も表示もできました。
 ところで、液晶上部の文言が違うんですね…「AUTO-OFF/PERMANENT MEMORY」と書いてありますね。意味は同じですけど、なんで変えたんだろう…ハッ!まさか「AUTO POWER OFF」とか「MEMORY SAFE GUARD」って和製英語とか??
 背面はご覧のとおり、いつものラジオシャックの銘が。
 ケースもオリジナルと同様、手帳型になっています。マークだけはもちろん、ラジオシャックのものに差し替えられていますが。
 ここまではちょっとしたローカライズが施されたPC-1250でしかなかったわけですが、OEMの本領はここからです。オリジナルではB5サイズでマイクロカセットとも一体化していたプリンターは、なんとTRS-80シリーズにおいてカセットI/F付きプリンタに退化。PC-1とPC-2ではオリジナルと同じものを出荷していたのですが、ことここに至って何があったというのか…。
 本体を取り付けるとこんな感じ。横幅も大きくなりますし、結構分厚いです。
 CE-125のように外部データレコーダ端子が制限されているわけでもなく(当たり前だ)、RECも含め全ての端子がありますね。
 例の「謎の端子」も背面にあります。ということは、回路はほとんどCE-125の流用なんでしょうか。
 プリンターの箱。

 もしかしたらですが、PC-3だけプリンターがオリジナルと違うのは、それまでのPC-1やPC-2と同じスタイルを維持したかったからなのではないでしょうか。CE-125はオールインワンで持ち運ぶようなスタイルでしたから、デスクトップにこだわるラジオシャックの意向と合わなかった…とか。
 本体とプリンターのマニュアル。グラフィック表示や特殊キャラクタ印字などは記述されていませんでした。

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