Harmony 3DS724A (ATC-6655 v1.2) / A-TREND


接続バス:PCI Bus (32bit 33MHz 5V)

サウンドコントローラ:YMF-724B-V

Codec:YMF-730-S / YAMAHA

対応機種:PC/AT互換機

動作確認マシン/マザーボード:PC-9821Xv13/W16SY-6BA+GA-6BXEMS-6163P3B-FS1837UANG Thunderbolt


 1998年夏に購入した、筆者にとって最初のYMF-724搭載カード。

 中々出荷されないSound BLASTER Live!に先駆けて彗星の様に突如市場に登場し、SPDIF出力のサポートと、DS-XGと呼称されるXG規格対応のWave Tableによるサンプリング音源方式のハードウェアシンセと、ヤマハ/スタンフォード大学共同開発による物理モデル音源(注1)方式のソフトウェアシンセを内蔵してMIDIデータの再現性が非常に良好であった事から一躍人気を集めたYMF-724は、Sound BLASTER Live!に搭載されたEmu10K1と比べるとCPU負荷がやや大きく、ゲーマー好みの3Dエフェクト機能もDirect Sound 3D、それもエミュレーションのみ対応と機能面でやや見劣りがしたが、チップとしての価格が非常に安く、これを搭載したカードが基本的にLive!に比べて圧倒的に安価(注2)であったため、各社のサウンドカードやマザーボードに搭載され、EnsoniqのES1370/1371(AUDIO PCIに搭載)に次ぐ大ヒット作となった。

 このカードはそのYMF-724搭載サウンドカード群の中でも最初に国内販売で出回ったSPDIF出力端子(同軸)搭載モデルで、ハードウェアデザインとしては黄色い同軸コネクタと共にPC-PCI(SB-LINK)コネクタとライン/スピーカー出力切り替えジャンパ(注3)が実装されているのが目を引く。

 なお、PC-PCI(SB-LINK)コネクタというのはISA時代のSound BLASTER 16が必要としたリソース(具体的にはIRQ:5・DMA:1/5・I/O:220H&330H)を、PnP対応でリソースの決め打ちが困難なPCIバス上で確実に取得可能とするための機構で、最優先で当該リソースの取得が可能だが、言うまでもなくこれは非常に頭の悪い実装である。

 ちなみにこの方式を提案したのは、当時Sound BLASTERシリーズのPCI化にあたって互換性維持で悩んでいたCreativeで、同社の大々的な働きかけによりIntelを筆頭とするハードウェアメーカー各社の賛同を得てこの時期のPC/AT互換機用マザーボード(Intelのチップセットで言えばIntel 440BXの初期から中期)には標準的にこのコネクタが実装されていたが、その規格制定直後に当のCreativeがEnsoniqの電撃的な吸収合併で実用的なソフトウェアによるSound BLASTERエミュレーション技術を手にしたため、同社製サウンドカードではSB-LINKを搭載したのはSound BLASTER AWE64D(CT4600・4650:Emu8008搭載)の1機種2モデルに限られる事と相成った。

 にもかかわらず、どういう訳かこのカードを含むYMF-7x4系搭載サウンドカードでは何故か(注4)このコネクタの実装する例が多数を占め、CreativeがLive!初代ではこのコネクタの為のパターンを用意しながら結局実装せず終いだった事を考えると非常に対照的な状況を呈した。

 このカードの目玉であるSPDIF出力はAC'97 Codecの制約から48KHz 16bit固定だが、それでもその恩恵は絶大で、ここから外部のDATやDAC経由で出力した場合の音質は、これまでのPC内蔵サウンドカード/デバイスのアナログ出力では一部の業務用オーディオカードなどを除いてまず得られなかった非常に高品位なもの(注5)で、ミキサーの設定で不要なアナログ入力を全てミュートしてしまえばヒスノイズがほぼ皆無となるなど、素性の良い設計(注6)のチップである事が知れた。

 その意味では以後このシリーズが市場で好評を博し続けたのも当然であろう。

 前述のライン/スピーカー出力のチャンネル反転出力に余り苦情が出なかったのは、筆者の体験から類推するに、恐らくこのSPDIF出力の音を聴いてしまえば今更しょぼいAC'97 Codecによるアナログアウトなど馬鹿馬鹿しくて聴く気になれなくなってしまい、そのミスによる実害が殆ど認識されなかったためと考えられ、このSPDIF出力は左程に効果絶大な付加機能であった訳である。

 また、このシリーズは前述の通りMIDIデータの再現性が非常に優秀(注7)で、本格的な外付けMIDIシンセと比較すれば音色データそのものの品質では明らかに劣ったが、当時SPDIF出力できるMIDIシンセが少なかった(あっても非常に高価だった)事から、場合によっては最終的な音質でそれらを凌駕する事さえあり得た。

 SPDIF出力のサンプリングレートが48KHz固定、しかも同軸出力のみ対応、という事でMDユーザー等には不評であったが、これこそは以後の日本市場におけるサウンドカードの方向性(SPDIF入出力対応の重視)を決定した重要なカードであり、今なお愛用者が多いのも頷ける出来であった。

 もっとも、このカード自体の基板設計や搭載パーツの品質などといった物理的な意味での出来は(少なくとも筆者の感想としては)余り宜しくなく、その点では感心しない製品であったのだが・・・。


 (注1):Sondius XG。但しCPUパワーを極端に消費する事と、MMX命令セットを前提とした事からその利用はPentium II 300MHz以上と規定され、それでも1音のみ、しかもWin9x限定であった。

 (注2):当時の実売価格で\3,000〜\4,000程度。但し、ヤマハ純正のWave Force 192だけは何を考えたのかその倍位の価格設定になっていたが。

 (注3):ちなみに筆者が買ったカードはVer.1.2で、Lineに設定するとLチャネルとRチャネルが逆に出力されるという間抜けなミスがあった。

 (注4):なお、YMF-7x4のドライバはソフトウェアレベルできちんと動作するSound BLASTERエミュレーション機能を実装していた。にもかかわらず馬鹿正直にSB-Linkコネクタを実装した理由は定かではない。

 (注5):DACの格が違うのだから当然といえば当然だが。

 (注6):少なくとも、同様に48KHz 16bitにサンプリングレートコンバートされてから出力される筈の、そしてこちらよりずっと高価で高性能な筈のEmu10K1(特にCT4620などの初期モデル)よりは余程高音質であった。

 (注7):TG-300Bモードと称して何気にGS互換配列モードを持つXG規格準拠のWave Tableを利用するので、素で使うと内蔵ソフトウェアシンセではAudio PCIの2MB版GM規格互換音色と同等のWave Tableしか使えないLive!より余程使い勝手が良い。


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