シャープは「電子システム手帳」がヒットする以前から、電子手帳という分野の開拓に挑んでいました。それはもういろいろなアプローチがあったのですが(ここが参考になりますでしょうか)、1985年あたりから"POCKET DB"という統一ブランドで展開された電卓群があったのです。カード電卓が開発されてそれ以上(派手な)技術革新による新商品の登場は望めなくなり、単なる電卓では停滞もなければ発展もない成熟しきった市場になってしまうとの危機感があったのでしょう。それまで電卓を持っている人にも新たに買ってもらえるようにするための、付加価値としてデータベース機能が考案されたのだと思います。 で、このPA-500はそのPOCKET DBのひとつで、PC-1270を流用して作られた製品です。普通にPC-1270を使おうと思ってもメモ内容を入力するためのキーボードがありませんので、それをカバーを兼ねたキーボードを追加することで解決しています。 PA-500はヤフオクなどでもまず出品されない貴重(と思うかどうかはそれぞれだけど)な製品ですが、一連のこのページをご覧のある方から譲っていただきました。新品同様品ということでしたが、さすがに経年変化は避けられなかったかキーボード部分で一部接着がはがれている箇所があります。まぁ、これはゼイタクというところなのですがね。 |
キーボード部。右部分のカナ入力部が目を引きます。この時期はポケコンなどがカナ入力からローマ字入力に変わっていった頃で、おそらく初めて英字キーからローマ字入力キーが分離したモデルではないかと思います。 アルファベット部分はABC順に並んでいて、パソコンなどの経験者ではなく全くの初心者をターゲットにしていることが伺えるかと思います。 |
PC-1270との比較。キーの役割など一部に違いはありますが、同じところにキーがありますね。筐体の形などもほぼ同じで、違いはモードスイッチと液晶くらいでしょうか。 |
当時珍しい二行表示。けっこう憧れたものですが…。 |
裏面。色違いなだけで、PC-1270と同じですね。 |
11ピンコネクタとは反対側の端に、こんなコネクタが隠されています。これ、電子システム手帳で使われていた4ピンI/Fですよね。この時代には使われておらず、もう少しあとのMZ-1500と接続できるタイプのものから使われるようになるわけですが、この時代からあったなんて驚きです。カタログにもマニュアルにもそんなことは書いてないんですけどねぇ。 |
PC-1270をベースにしているだけあってPC-1246/1247相当のBASICを装備しているものと期待されますが、どうもROMをデータベースプログラムにかなり食われているらしく、使える命令と関数はこれだけしかありません。
命令 | CLEAR,END,GOSUB〜RETURN,GOTO,IF〜THEN,INPUT,LET,MEM,NEW,PRINT,RUN,USING, LLIST,LPRINT,CLOAD,CLOAD?,CSAVE |
関数 | EXP,INT,LN,LOG,^ |
んーと、FOR文がないのは気のせいでしょうか??三角関数もないですね?!文字列変数は使えるようですが文字列操作関数とか文字関数もないですし、配列が使えるといってもA(*)のやつのみで別の名前とか二次元以上のものもありません。マニュアルをよく見ると「シンプルBASIC」とありますね。シンプルにも程があると思うのですが…。
で、どうも輸出先ではPC-1100という型番で、ポケコンとして発売されていたようです。海外ではPOCKET DBという商品展開がなかったためでしょうが、まぁこの仕様を見ればデータベースにポケコンがくっついているというよりは、ポケコンにデータベース機能があると思うほうが自然でしょうね。それでも型番を1200より小さくしたのはやはりシンプルBASICが貧弱だからなのでしょうか…。
といいますか、実は当時これにかなり憧れたのですよ。まずカナが使えるということ。高級機種のみの機能といえたカナ表示、PC-1250/1251のグラフィック機能で無理やり表示とか印字とかしてたのですが、低価格機(といっても定価18000円でしたが)でそれが実現されているのがポイント。さらに2行表示もいい。表現力がアップします。でも愛は盲目といいますか、当時BASICの仕様がこんなに貧弱だとは思ってもみませんでしたよ。奥義というと大げさですが、ポケコンの狭いメモリを有効に生かすいろいろな技が使えませんからねぇ。
なおこの2年後、ポケコンにデータベースを付加するという試みはPC-1246DB/1248DBという形で復活します。この時はROMの容量を十分に確保できたと見えて、BASICの機能はフルスペックでしたし、データベースのデータを配列変数からアクセスできるという機能までありました。これらの機種についてはヤフオクでも度々出品されますし、人気があるのか悪くない価格にて落札されているようですね。
POCKET DBシリーズなんてのは日本で電卓の新規需要創出のために展開したものであって、それで生まれた製品を輸出するとは思わなかったのですが、あったんですねぇ…。 そんなわけでこれはPA-500とスタイルそっくり、輸出用に色々とローカライズしたPC-1100というポケコンです。 |
最大のローカライズのポイントがこちら、拡張されたキーボード部。当然非日本語圏で売るものですからカナ入力などはなく、全てアルファベットを入力するためのキーレイアウトになっています。真四角に収めるためか一般のキーボードと比べると特殊な配列ではありますが、所謂タイプライタ配列に準拠した並びになっています。 |
液晶はPA-500と同じく2行表示。その下の機能キーも日本語表記でなくなっただけで、ほぼ同じ機能があるようですね。PA-500では「印字」キーだったのが「%」になって、印字キーはPRINTとしてこちらに移動ですか…。 PA-500の項目でも書きましたが、少なくともこの時点では海外に「POCKET DB」という展開がなかったようで、商品としては単にポケットコンピュータとして売られていたと思われます。しかし機能が削られていることを考慮してか、型番が1200未満にしてあるところが、やはり客への配慮なのでしょうね。 |
POCKET DBを名乗っていないだけで機能としては同じということで、BASICもやはりシンプルBASICのまま…と思いきや、FOR〜NEXTとPASS命令が追加されているようです。ローマ字→カナ変換やカナフォントがなければ(英小文字フォントはありますが)、それぐらいの命令は追加できたと言うことなのでしょうか…。
あっ! 4ピンインタフェース端子がない!! …いやまぁそもそも使い途のない端子ですけれど…。 |
なお、輸出版PA-500としては他にEL-6300というものがあるようです。向け先・ターゲットによって分ける一連の戦略が、こちらにも適用されているということですね。