箱絵に浮かぶ「地球」
Tweetシンボルマークというほど固定的ではないんですが、MZシリーズの箱には伝統的に雲が渦巻く地球の絵が描かれてきました。実はその雲のパターンがひとつではないということ、ご存じでしたか?
かく言う私も最近知りました。パターンが変更された理由を推察できるものはほとんどないのですが、ふと興味が湧いてどんな地球がどの製品に使われたのかまとめたくなりました。
それぞれのパターンの絵と、その絵を採用している製品を表にしてあります。所有している箱の他、ネットで拾った写真を参考にしています。製品がたくさんありますのでまだまだカバーしきれておりません。追加や間違いを教えていただけると幸いです。
パターンA
箱絵の印象が強いとつい忘れがちですが、実は一番最初に地球の絵が描かれたのはMZ-80K/C用DISK BASICのSP-6010のマニュアルです。このマニュアルに限ってはいろいろと異例で、ハードカバーだったり、表紙裏にマスターディスクが袋入りで貼り付けてあったりなど以後の製品(輸出版を除く)にはない特徴があります。
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また背景のLSIの顕微鏡写真のようなマスクパターンのような絵も既にあります。ちなみにLSIの絵はもっと以前、MZ-40Kの箱に既に採用されていました。コンピュータ時代におけるありがちなイメージといえばこれですよね。
パターンB
輸出版のDISK BASICであるSP-6015のマニュアル表紙に採用されたものです。
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よく見ると雲じゃなくて、欧州・北アフリカ・北米・北部南米といった、輸出先の地形が見えてるのですね。なるほど向け先に合わせて絵を変えてるのかと思いきや、SP-6115はSP-6010と同じだという…。
パターンC
MZ-80K/C用倍精度DISK BASICのSP-6110のマニュアル表紙に採用されたものです。
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結果的にこの絵とそのバリエーションがずっと使われるようになりました。「MZ-80活用研究」は工学社刊・電波新聞社刊の両方の表紙にこの地球の絵があります。三角形に地球と「MZ-80」の組み合わせはどちらの本も同じですからシャープから提供された絵なのでしょう。DISK BASICのマニュアル以外に使われていない時代なのに、なぜどちらの本にもこの絵があるんでしょうね?
パターンD
パターンCの左右反転バージョン。箱に地球の絵が描かれるようになった、MZ-80Bが最初だと思われます(MZ-80B以前の発売であるMZ-80SFDにも地球の絵があるのだが、途中からデザインが変わった可能性もあり、最初かどうかは保留中)。
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背景ごと左右反転したんですね。わりとお手軽なパターンの水増し。
パターンE
パターンCを15°ほど左回転したもの。
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絵の色調について
時代によって、色調の傾向があるようです。
箱にどれだけコストをかけられるか…という話で、MZ-1C34のように「型番の部分が白くなってて大きさが合えば何に使ってもよい」とかMZ-1E29のように「装飾やめた」みたいな時代だと絵も単純化されるようですね。
ここまではMZ-80Bの時代以降にデザインが変更された箱の話でした。それ以前、つまりMZ-80Kが発売されてからMZ-80Bが発売される直前までの箱というと、天板と底以外にBASICで記述された何かのプログラムのリストが刻印された意匠になっていました。それはもちろん、当時のパソコンを使うというイメージがBASIC言語によるプログラミングと直結していたからでしょうね。
一番最初のMZ-80Kの箱がこれ。
正面 | 側面 |
MZ-80C以降の本体の箱は持ってないんですが、その代わりということで、MZ-80DUの箱がこんな感じです。HAL研のPasocomMini MZ-80Cの箱も、これをイメージしたデザインになっていましたね。
正面 | 側面 |
正面 | 側面 |
しかし何のリストなのか…箱のために適当に作った? どこかからの引用? というか、個人的にはこれは「バイオリズム」のものだと聞いたか見たか教えてもらったかして思い込んでいたんですが…いつの頃だったかどこの何情報だったか…。
MZ-80Kの箱に書かれているんだから、ユーザーが既にいるMZ-80Cの時代ではないわけで、シャープ自身の手によるもの=公式ということになりますよね。何かからの引用だとすると、「バイオリズム」は純正アプリケーションソフトとして発売されたもののもっと後の話ですから、MZ-80Kには間に合わない…。
MZ-80K発売時点で存在した長いリストのプログラムと言うと…1978年のエレショーでデモしていたというスター・トレック・ゲームでしょうか。物証はないですが、タイミング的にはエレクトロニクスダイジェスト刊「マイコン読本」に掲載された「拡張スター・トレック」そのものだと推測されます。発売に際しても箱にデザインするために使えたのは他にないんじゃないでしょうか。 |
ということで、マイコン読本に掲載された「拡張スター・トレック」のリストを確認してみましょう。 …ふむ、ありますね。赤で囲ったところが、箱のデザインに使用された部分です。なるほど、よく見れば箱の方は同じ内容が繰り返されていました。160行から200行のものが本物で、あとは行番号だけを変えたコピーですね。 …え? なんでリストがページの真ん中で別れてたり、READYとか書いてあるのかって? そりゃあなた、プリンタ(とそれを接続するI/Oボックス)の発売はMZ-80Kの半年以上先だったからですよ。 プリンタのない時代は、画面をカメラで撮影して(必要なら白黒反転加工して)掲載していたのですよ…つまり範囲指定のLISTコマンドを実行した痕跡がREADYというプロンプトというわけだったのです…。 |
その後「拡張スター・トレック」は何度か改良の手が入った後、シャープ純正のパッケージソフトとして(そしてMZ-80K2EとMZ-1200のおまけアプリケーションソフトとして)発売されるに至ります。箱に印字された部分は最終版にもあるんですが、唯一170行だけ消えています。DEF FN(ユーザー定義関数)は当時から実行速度が遅いと言われていましたし、全部展開(都度計算式を書く)してもメモリ的に困ることもありませんからね…。
出典が明らかになったところで、改めて箱のリストを眺めてみるといろいろと妙な感じになっていることに気づくかもしれません。一番の違和感は、カッコやコロン、1やIといった細い文字なんかがあるとスペースを詰めてあったりして、文字の間隔がまちまちになっていることじゃないかと思います。画面に表示したりプリンタに打ち出したリストというのが普通の姿ですから、プロポーショナルみたいに隙間を詰めたりしたら微妙にコレジャナイ感が…。
MZ-80Kに至っては、限定的に引用したリストにバリエーションを持たせようとでも考えたのか、強引に途中で切り捨てたり余計なパーツを付け足したりしている行があちこちに見られます。そこまで弄するなら別の場所から引用すれば良かったのでは…?
MZ-80K以外の箱にあるリストはどの行もとにかく右端までめいいっぱい埋めるという方針で統一されていて、あとは箱の大きさによって使われている長さが違っているというものになりました。ネットで拾った画像なども参考にして、どこまで使われているか一覧にしてみました。
MZ-80DUAとMZ-80DUBの箱は微妙に大きさが違うのですが、ほぼ同じ範囲で使われていたのでMZ-80DUとして合体させてあります。また輸出版のMZ-80Kは完成品ということもあり、MZ-80C/MZ-80K2の箱と同じです。プロポーショナル的に空白が詰められているので、「右端」の線がカクカクしてますね。
右の方に黄色い文字の書いてある場所がありますが、これは文字列の長さが足らなくて適当に埋め草された部分です。プリンタとか確認できてない製品もありますが、現時点では本体の箱が一番横幅が大きいようです。