MZ-1E04
(MZ-80B/B2/2000/2200用プリンタI/Fボード)

 新しいMZシリーズの型番ルールになってから、MZ-80B系列用としては初めてのプリンタI/Fということになりますね。さらに言えば、MZ-1E03まではMZ-3500用のI/Fボードの型番として使われたので、その意味でも80B系列用として初の製品です。

 このI/Fボード、単体でも入手可能だったと思いますが、実際にはMZシリーズ純正のカラーインクジェットプリンタ・MZ-1P04専用のI/Fとしてプリンタに同梱されたものだったようです。MZ-1P04の発売が1982年、つまりMZ-2000より後なので2000のオプション構成としてはプリンタI/FにMZ-8BP5Iが指定されており、わざわざプリンタの方にI/Fは必要ないはずですが…?

 実はMZ-1P04に限ってはそれまでとI/F方式が異なっており、従来のプリンタI/Fでは接続できなかったために専用品が必要だったのです。といってもそんなに特殊なI/Fだったわけではなく…というより、むしろそれまでのMZのプリンタI/Fの方が特殊だったのですよ。

 当時プリンタのI/F方式はアメリカのセントロニクスという会社が作ったものがデファクトスタンダードとして普及していました。ただスタンダードが活きるのはサードパーティー製品が存在するからで、サードパーティーのプリンタメーカーが育っていなかった黎明期のさらに初期の日本市場においてはスタンダードに従わないといけない強い理由もありませんでした。

 そんなわけでMZも独自にI/F方式を決定します。まぁパラレル線でのデータ受け渡しをハンドシェイクで行うならそんなにいろいろ方法があるわけでもなく、セントロニクスとほとんど同じI/F方式が採用されました。ですがほんの少しだけ違っていたんですね…制御線の極性だけが。

 MZ-80P2とMZ-80P3まではプリンタにI/Fが同梱されたこともあり、どういうI/F方式かは問題になりませんでした。MZの持っているキャラクタを全て印字できるプリンタはシャープ純正しかありませんでしたしね。しかしその後プリンタとI/Fが独立した商品になり、またサードパーティーも現れて状況が変わってきました。さらに最初からセントロニクス準拠方式を採用するMZ-3500の登場で、80B系列にもセントロニクスの波が押し寄せ…。

 ついにMZ-1P04にてセントロニクス準拠方式に統一された、ということなのですね。MZ-8BP5Iは従来のMZ方式なので、MZ-1P04を接続するためには使えないのです。





 間違えないように? 高らかに宣言される「CENTRONICS」。
 コネクタはD-Sub25ピン、これはそれまでの80B系列のI/Fコネクタと同じですね。

 コネクタの右に四角いスイッチがあります。これは特定のコードをプリンタに送信しないようにするスイッチです。特定のコードとは0x03, 0x04, 0x1b(ESC)のことで、MZ-80P4S(MZ-80P4K/80P4Bのセントロニクス仕様版)の接続を想定し、MZからステータスチェックコードとして送られるこれらのコードがコントロールコードとして受信されないよう送出を禁止するようになっています。

 スイッチの位置が'0'の時は全てのコードが送出可能で、MZ-80P4Sでもイメージ印字の際はそちらに切り替えます。位置が'1'にて禁止されます。

 問題は、マニュアルにも実物を見ても押し込んでいるのか出ているのかどちらがどの位置なのかわからないということなんですが…。

 ところでこのI/Fボード、全景を見て何か違和感を覚えませんか?

 えっ、どこもおかしくない?

 では、これならどうですか。

 左がMZ-1E04、右がMZ-8BP5Iです。

 そう、ボードの幅が違うのですよ! MZ-1E04は標準サイズの拡張ボードとして作られているのです。

 いやでもこれはまずいですよね。MZ-80B以降2200まで、プリンタは拡張I/Oユニットの背面から向かって最下段左側のスロットに入れることになっていました。スロットの幅が狭いのでプリンタI/Fしか入るボードがありません。MZ-1E04はそのスロットに入らないじゃないですか。

 プリンタI/Fボードの二枚挿し? 確かにインクジェットプリンタでリスト出力なんてインク代がもったいないですから、インパクトドットプリンタと併用できれば効率的と言えるかもしれませんが…残念ながらポートアドレスは同じなのですよ。同時使用したら一部の信号が衝突してしまいます(マニュアルにもMZ-8BP5Iと併用することがないよう注意書きがある)。

…つまり、MZ-1E04を使うと自動的にプリンタI/F用スロットを空けないといけなくなるので、かなりもったいないことになってしまうのですよ…!

 さすがに問題だと思ったのか、翌1983年にはMZ/セントロニクス切り替えスイッチまで備えてMZ-8BP5Iと同じサイズのMZ-1E08を発売してMZ-1E04を引退させ、MZ-1P04の方もI/Fボード同梱を取りやめて2万円値下げする処置を執ったのですが…それができるならなぜ最初からしなかったのか、わからないんですよね…。

 情況証拠からの推測でしかないんですが、どうもMZ-80Aからの流れが影響しているような気がしてならないんですよね…。つまり結論から言えばプリンタI/Fボードも含めて基板サイズを統一するつもりだったが、できなかった…ということではないかと。

 詳しくはこうです。
 MZ-2000を企画するにあたり、MZ-80Bのアーキテクチャを下敷きにするのは当然として、機構など極力MZ-80Aを流用してコストダウンを図ることとしました。流用するパーツには拡張I/Oユニット(MZ-80AEU)も含まれます。



 上側がMZ-2000用拡張I/OユニットのMZ-1U01、下側がMZ-80AEU。プリンタI/FボードとしてMZ-8BP5Iをそのまま使用するためのパーツを取り除けばどのスロットにも同じサイズの拡張ボードを入れられるというのがMZ-80AEUの隠れた特徴でした。

 当時プリンタも本体に匹敵するほど高価でしたし、買わない(買えない)ユーザーもそこそこいたことを考えれば、プリンタI/Fボード専用にスロットがつぶれてしまうのはもったいない話です。別の用途に使えた方が嬉しいですよね。MZ-80Bと比べて2スロットも減ってるわけですから。

 MZ-80Bにて「汎用4スロット+専用2スロット」だったものをそれほど機能を落とさずシュリンクすることを考えた場合「汎用4スロット」に留めようとするのが素直だと思います。とすれば標準サイズではないフロッピーとプリンタのI/Fボードの外形を変えなければなりません。

 並行して開発が進められるMZ-3500と合わせる意味でも、また業界の標準に従おうということで、プリンタI/Fにセントロニクス準拠方式を採用することとしました。そのためI/Fボードの新規開発が必要になったのですが、送信コード制限機能を盛り込むことになり、部品点数の増加が見込まれたため標準サイズで作ることになった…可能性もあるでしょう。

 プリンタI/Fボードのボードサイズを変更するにはフロッピーI/Fボードを小さく、標準サイズに収めるようにしないといけませんが、既にMZ-80AFIが標準サイズだったので十分可能であると思われました。MZ-80AFIをそのまま流用しなかったのは制御方式を変えたからです(というかMZ-80AFIの方がイレギュラー)。

 そうしてプリンタI/FボードをMZ-1E04、フロッピーI/FボードをMZ-1E05として開発が始まったのですが…何らかの理由でフロッピーI/Fボードの開発に問題が発生したと考えられます。それは初めてVFOに専用LSIを採用したからかもしれませんし(発売後も一度アナログ周りのパターンが変更されているのは事実ですし)、MZ-700の企画が持ち上がりそのフロッピーI/Fボードとしても使用するためブートROMを装着可能なように変更することになったからかもしれません。

 理由はともかく、MZ-1E05が当分使えないことがわかったのでMZ-1U01の方も急遽構成を見直し、フロッピーI/Fボードとして旧来のMZ-8BFIを使うように変更されました。もちろんプリンタI/FボードもMZ-8BP5Iを引き続き使うこととなり、MZ-3500を除くMZシリーズのセントロ化は遠のきました。

 発売が決定していたMZ-1P04のために、MZ-1E04は専用I/Fとして添付されることにはなりましたが…やはり使い勝手が悪いことが問題になり、MZ-1P07合わせでMZ-1E08が作られることになりました。MZ-1E05はMZ-1F07とセット販売されることになり、MZ-2200の発売までには全て揃ったのですが…MZ-2000との互換性確保が優先されて拡張I/Oユニットが改良されることはありませんでした。

…とすれば、この短命に終わったI/Fボードの存在理由も納得できるのではないでしょうか。プリンタI/Fボードという決して特殊ではない製品が、特段の理由もなく消えてしまうはずはないのですから…。

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