MZ-800
MZシリーズは全てではないとしても多くが海外に輸出され、多数のユーザーを獲得しました。そして、そのユーザーの声に応えるように、海外専用モデルとして開発されたのがこのMZ-800。それゆえ、知る人ぞ知る、知ればMZ-1500なんかよりこっちの方が良かったと思う、そんなマシンです。 海外、それも欧州仕様のため一番問題になるのが電源(彼の地は220Vなのです)。スライダックを検討しましたが結構高いとのことで、以前は適当なAT電源を買ってきてつなぎ替え、FDD(MZ-1F19)と共に手軽に使用できるようにしていました。 今はMZ-1500で一時使っていた5V電源を組み込んで、AT電源要らずになりました。とは言え、FDDにはまだ必要なんでスマートさが足りませんが…。 しかし見た目には白っぽいMZ-1500にしか見えませんね…。 |
そして背面。拡張スロットもありますし、ますますMZ-1500にそっくり…。 |
MZ-800とは、ぶっちゃけ「MZ-700でCP/Mを使う」ためのマシンとも言えます。
欧州でのMZ-700は「初心者向けのホビーパソコン」というよりは、「CP/Mを動かせるビジネスパソコン」として見られることが多かったようです。というのも、欧州で人気のあった低価格パソコンであるZX
Spectrum、Commodore 64、BBC MicroなどはCPUが80系でないか、Z80を使っていてもその他のスペックが低く、CP/Mを動かすことができなかったのです。日本ではCP/Mそのものや対応ソフトが高価だったりしたこともあって一部のマニアにしか広まりませんでしたが、欧米ではビジネスツールとしてある程度の地位を築いていたこともあり、MZ-700は他の低価格機と一線を画していたようです。
とは言え、シャープ自身は対応のCP/Mを出していませんでしたから、そこはサードパーティーの領分になります。最初は40桁表示のまま、そのうち外付け表示装置が登場して80桁対応に…。しかもそれを欧州のシャープ販社がセット販売していたようなのです。
このことが、同じMZ-700の後継機種でありながら、MZ-800とMZ-1500とでコンセプトを異にしている要因と考えられます。MZ-1500は低価格ゲーム機への対抗として多色PCGと音楽演奏機能てんこ盛りであったのに対し、MZ-800は音楽演奏機能はそこそこに80桁表示可能な画面構成とすることを優先する、ビジネス機としての色の濃い仕様となったのです。
そこでなぜか80桁表示を実現する方法として、キャラクタVRAM周辺を変更するのではなく水平640ドット表示のグラフィックにキャラクタをビットマップ表示することにしてしまったのがなかなかに謎だったりするわけですが…。
キーボード左半分のアップ。左シフトキーに注目してください。二つのキーに分かれていますが、その左側が本来のシフトキー、分かれた右側がALPHAキーとなっていて、GPARHモードとかから復帰するキーになっています。では元の「英数」キーはというと、これがTABキーになっています。 |
海外仕様機なのでカナは必要ありませんが、そのキー自体は存在します。キーのスキャンコードも同じです。ただしキートップに何も書かれてません。 キーに刻印されている記号の配列も、今時の配列とそっくりになっていて、まぁ当時はそれが機種ごとの個性と思っていたので何とも思わなかったでしょうが、今はありがたいですね。 |
もうひとつありがたいのが、ジョイスティック端子。MZ-700/1500のアナログ仕様ではなく、世界標準のアタリ規格準拠です。ちゃんと+5Vも出てますから、MSXマウスだって接続できますよ。ジョイスティック端子の左はシステムスイッチです。 その代わりというか、元々拡張バスコネクタの出口だったここを転用していることもあり、直接拡張I/Oボックスを接続できなくなっています。そのままでは1スロットしか拡張ボードが使えませんので、もっと使いたい場合はMZ-1E20という実は配線だけのI/Fボードを入れて信号を引き出し、MZ-1U06という専用I/Oボックスを接続することでスロットの数を増やします。 |
システムスイッチですが、外部カセットの極性設定、プリンタのMZ/セントロ切り替えに加えて700/800モードというのもあります。これはそれぞれのモードでメモリや画面の設定が変化するためなのですが、マニュアルを見る限りこのスイッチはソフト的にチェックしているだけで実際には別のI/Oポートへの書き込みでモード移行をしているようです。というのも、これはモニタの初期設定ルーチンとマニュアルの記述によるものなのですが、ハード的には一旦800モードで起動するものの、IPLのメッセージ出力の都合で700モードに移行し、プログラムをロードした後システムスイッチに従って800モードに戻るかそのまま700モードとするかを選んでいます。
さて、その700モードと800モードの違いをここで説明しておきましょう。
ビットマップディスプレイということで画面表示の遅さが懸念されますが、CRTCにMZ-2500ばりの同時書き込みやハードウェアスクロール機能がサポートされているので想像するほどには遅くないようですね。表示色が16色ですので出力はRGBIです。
モニタROMはMZ-1500とよく似た構成で、FDとQDからのブートをサポートしています。内部ルーチンはいろいろ場所を入れ替わっていますが、まったくといっていいほど同じルーチンが実装されています。IPLや拡張モニタとしての他に、BASIC用のサービスルーチンも入っています。まだ解析途中ですが、おそらく文字表示やグラフィック関連のサブルーチンだろうと思われます。
BASIC(MZ-2Z046)やP-CP/M(MZ-2Z047)といったシステムもシャープから純正品として発売されていたようです。さすがにHuBASICはなかったでしょうが…。
内蔵スロットの部分を覗いてみると、こんな感じ。って、MZ-1500と同じですね。RAMファイルスロットもちゃんとあります。 |
ちょっと角度を変えて見てみると…なにやら丸や四角い穴がトマソン物件のように…。つまりMZ-1500からの流用という意味では、外装の金型だけではなくこんな板金でさえ同じだったということなんですね。 |
とりあえず使い勝手を高めるためS-OS"SWORD"を800モードで動かしたいのですが、なかなか難しいですな。できれば全てソフトで日本語(ってカナだけど)表示に対応させたいんですけど、無理かもしれないですね。CGだけは入れ替えないとだめかも。ただ、ハードスクロールができるなら漢字も対応させたいです。そこまでいくとかなり無謀ですけど、S-OS上ならJackwriteもあることだし、さらにMAGICも移植すれば(これがVRAMとアドレスが重なっててむつかしいんだわ)なんとかなるかな、と。ですから、まずはROMの解析が優先されるのでしょうな。
クイックディスク
先ほどQDのブート…というかアクセスのサポートがあると書きました。MZ-1500のQD部がMZ-800ではデータレコーダになっているのを見れば知ってる人は皆「あれ?」と思うところなのですが、ではMZ-800にQDを接続してみると…。
なんとそっくり。ますます「白いMZ-1500」ですよ。 最近ではそろそろ改まってきているかもしれませんが、以前はMZ-1500とMZ-800を同じものだと考える海外のホビイストが少なくありませんでね。博物館サイトなんかでもそのように紹介されて頭が痛かったのですよ。 でもこうやってMZ-800にQDを付けてみると、単なる色違いにしか見えませんよね…まさかここまで同じでコンピュータとしてのハードスペックが微妙に違うとか想像するのは難しいかもしれませんね…。 |
MZ-800に接続するQDドライブは日本国内でも売っていたMZ-1F11、ただし白(アイボリー)バージョン。もちろん、MZ-800本体の色に合わせてあるに決まってますよね。これは単に色が違っているだけで、中身も、形も黒バージョンと全く同じです。 でも全く同じだと真四角なので機種名ロゴ部分はどうなってしまうのか? というのを解決するのが、写真のドライブの前に置いてあるパーツ。ええ、これをドライブにセットすれば、MZ-1500のQD部と全く同じ形状になるんですよ。 なおこのパーツはMZ-1E19に付属します。構造的に別になったために内部の空間とつながらないとでも思ったのか、スリットが省略されてますね。このスリットの有る無しでちょっと印象が変わるんですよね。 |
元々外付けドライブのMZ-1F11ですから、接続ケーブルは本体外部を経由することになっていまして…本体拡張スロットにMZ-1E19を入れて接続するとこんな感じでとても不格好。 でもまぁ、外付けなので、MZ-800に組み込まなくてもいいのですよね。MZ-700ではI/Fから電源を供給できないので代わりの電源としてデータレコーダのコネクタが必要なために組み込まないといけなかったのですが、MZ-1E19なら電源を供給できるわけですし。 そしてMZ-1E19が普通のI/Fボードなので、内蔵スロットだけでなく外付けの拡張ユニット・MZ-1U06に入れてもいいわけです。接続方法に自由度があるのは、さすがに最初から設計されていただけのことがありますよね。 |
入手までの顛末
96年の10月、MZ-MLにて「MZ-800のエミュレータがあるページを見つけた」との投稿がありました。そこはチェコの人のページだったのですが、チェコ語だけでなく英語のページもありました。昔よく使ったマシンであるMZ-800のエミュレータを作ったというところなのでしょうが、残念なことにサーバが動いておらず入手することはできませんでした。
一度手に入りそうだと思ってかなわなければ未練に思うのが人の常(ホントか?!)、サーチエンジンでエミュレータのページをいろいろ探してみたものの結局見つかりませんでした。
でも、どうせならエミュレータより本物の方がいいですよね。今度は単にMZ-800を紹介するようなページを探しました。すると、ドイツのサイトですが、自分のコレクションを並べているページを発見しました。よく見てみると、MZ-800を2台所有しているみたいです。「だったらひとつ譲って欲しいよな」とか思っていたらいわゆる「売ります・買います」のコーナーのようなページへのリンクを見つけました。そこを見てみると、なんとMZ-800が「売ります」に出ているではないですか。
が、英語のメールの経験がなかったせいで少し逡巡しました。それに、まさに地球の反対側から「くれ」なんて言われても困るかもしれないとも思いました。経験のある人に代筆を頼み、しかも少し前にMLに投稿のあった「MZ-800のソフトがほしい」というアメリカ在住のロシア人に中継させようかとも考えましたが、結局私が11月の頭に直接メールを書いてしまいました。
ところが、いつまで経っても返事が来ないのです。まぁ先方も忙しいことだってあるだろうと静かに待ってたんですけど、11月を終わっても返事は来ません。やっぱり極東の怪しい日本人の頼みは聞いてもらえなかったか、と思った矢先、ついにその返事はやってきました。
なんでも4週間ほどバカンスだったとかで、12月になるまで私のメールは読まれてなかったんですね。で、私の「売ってほしい」という願いは「もちろんOK」。ただ、日本の古いパソコンやそのパーツ、ソフトなんかがあればそれと交換してもらえるとなお嬉しいんだが、というコメントもありました。確かに個人同士での送金は費用が高く、どうせなら品物の方が安くつきそうです。で早速秋葉原にて東芝のMSX2機を仕入れてきて、その旨を伝えました。
私の「RGB端子はあるけど配列は不明」とのコメントには「自分で調べるから大丈夫」、「よってビデオ端子しかないんだけど、NTSCだよ」には「うちにはNTSCモニタがあるから完璧さ!」と答えられてしまいました。なかなかに質実剛健な人です。ただ、「等価じゃないと思ったらお金を追加するよ」とか「送料がわからないからもしそっちが高かったら払うよ」とかの呼びかけには「重量を同じくらいにすれば送料は相殺されるでしょう」と言われ、結局こちらはソニーのMSX2とソフト2本を追加することにしました。
97年の1月末、MSXとソフト各2つずつを梱包して必死の思いで郵便局に持っていきました。重量は11kg、13000円かかりました。航空便にしようかと思いましたがその局で取り扱ってないのと、料金が安いのとで結局SALという区分(荷室に空きができたら載せられるやつらしい)で送りました。SALなのでいつ着くやらわからんな、と思ってたらなんと一週間で到着し、先方から喜びのメールが届きました。ちなみに送ったソフトはテトリスと三国志2。テトリスはわかるとして、三国志はマニュアルも画面も日本語だらけですが、どうせあげるならそういうやつの方がいいだろうと決めたものです。先方の友人に少し日本語がわかる人がいるらしかったのですが、さすがにその人にも処理しきれなかったみたいです。
では肝心のMZ-800はというと、2月の第2週の土曜日に発送したというメールが2月下旬に届きました。一週間は短すぎるとしても、2〜3週間すれば届くかと思いましたが届かず、一月たって思い余って「まだ届かないよ、どうなったかわからない?」とメールを送りました。先方は「二ヶ月かかって届いた荷物もあるから心配するな」との返事。「一応こちらでも調べてみるけど…」とは書いてありましたが。
果たして、8週間かかって4月の第一土曜にMZ-800は届きました。荷物の中には当時のパンフレットとサービスマニュアルのコピーが入っていました。サービスマニュアルはサービスマン用というよりハードウェアマニュアルのような内容です。昔あった「活用研究」とかいう本の元はこういうのだったんでしょうかね。しかし、ついてくるはずだった「ソフト」がなかったのでその旨をメールしたところ、「自分も使いたいので渡すわけにはいかない、でもコピーの方法がわからない」とのこと。コピー方法をメールで知らせましたが、結局よくわからなかったのかそれ以来音沙汰がなくなってしまいました。
MZ-1T04
(MZ-800用データレコーダ)
MZ-800専用の内蔵型データレコーダです。MZ-800にはMZ-811というデータレコーダ非搭載モデルもありましたので、そのユーザーがバージョンアップ用に買い足すためオプションとして設定されておりました。 MZ-800のエンブレムもくっついてきてるんですが…そういう構造なので仕方がない。 |
こちらは裏面。MZ-800ではMZ-700同様QD(MZ-1F11)をデータレコーダの代わりに搭載することができるのですが、その時に外付け形態で使用できるよう長めの接続ケーブルが折りたたまれて収納されています。外付け時には留め具を切断して目一杯伸ばし、MZ-1F11から取り外した底部カバーをこちらに取り付けることになっています。 |
MZ-1X17
(MZ-800用スロットカバー)
背面に突き出す、スロットのカバー…これってMZ-1500では標準添付品ですけど、MZ-800では資料を見る限りオプション品だったようで…。 というのも、拡張I/Oボックス・MZ-1U06を接続するためのI/F・MZ-1E20には専用のカバーがついていて、そのためこのカバーは不必要(というか装着できない)なのです。最初から2スロット欲しくてI/Oボックスを買う人にはスロットカバーをつける必要がありませんからね。 |
MZ-1R25
(MZ-800用拡張VRAM)
MZ-800用拡張VRAMです。写真のソケットにささっているICがそれです。ICチップで売っているため、本体をかなり分解しないとここにたどり着きません(キーボードの下の、右隅にある)。 これを取り付けることで、640×200ドットの解像度で16色の同時表示をさせることができます。海外のソフトではカラーで使わずモノクロ16階調表示とするものがありますね。 …ってこれ、ICになんのマーキングもないんですが…ホントに純正品?どこかのショップの互換品じゃないの…? |