MZ-80I/O
(MZ-80K/Cシリーズ用拡張I/Oユニット)

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 MZシリーズのパソコンの多くは(あらかじめ準備された専用の接続口を使用するか、あるいはいわゆる改造とかでもない限り)本体のみでハード拡張はできません。プリンタやフロッピードライブに接続することすらできないことも多々ありました(たまにMZ-DISKみたいな本体直結ハード製品もないわけではないが)。

 では周辺機器を接続するなどのハード拡張をしたい場合どうするか? という時には「拡張I/Oユニット(またはポート)」を導入することになります。これを接続または搭載することで規格化された基板によるインターフェースボードを装着し、周辺機器を接続できるようなるのです。MZ-80KからMZ-1200にその機能を提供するのがこのMZ-80I/Oというわけですね。

 まぁMZ-2000ぐらいまで、何かやりたいと思ったらオプションの購入が必要などと言われたりもしたものですが…ゲームで遊べれば十分なんて向きにはオプションは必要ないので、その分安くなるのならそういうのもアリかな…。シャープ的には生産計画を立てても控え目な生産数にせざるを得ず、それゆえに部品単価を下げにくかったり金型やデザインなどイニシャルコストの割合が大きくなったりすることで、どうしても製品価格が高めになるのをオプション化することで緩和している…という事情もわかってあげてください。

 …というのはともかく。前面のデザインは、電源スイッチと電源ランプぐらいしかないシンプルなものです。MZ-80Kの試作機では押しやすいところに電源スイッチを置いてはいけないとのことで改良されましたが、I/Oユニットには前にありますね。

 そして、焦げ茶色と銀色のツートンカラーはMZ-80シリーズ用周辺機器の統一されたカラーリングとなっています(多少の例外はありますが)。

 こちら、背面の様子。内部構造として電源が後部に置かれているので、スリットはその放熱用として設けられているのでしょう。

 スリットの両脇に四角い穴があります。左の穴からはフラットケーブルがぴろんと出ていますが、このケーブルでもって本体と接続されるようになっています。では右の穴は? というのは後ほど。

 背面がそういう構造なら、ボードはどこからどうやって入れるの? という疑問に答える写真がこちら。側面のフタを開けると、スロットが見えるようになります。コネクタとレールが5組見えますね。

 フタは底面からナイロンの化粧ネジで固定してあり、必要時に手で回して外すという運用になっています。

 しかし、普通の拡張スロットなんかとはかなり異なった印象です。いわゆるブラケットにコネクタがついていて、そのコネクタを介して外部機器とケーブルでつながるのが一般的なイメージだと思うのですが、このスロットの写真だとブラケットを固定するネジ穴とかありませんし、フタを閉めたらケーブルはどうなるんでしょうか? そういう場合はフタは外したままにするんですか?

 …という疑問の答えがこれ。背面にあった四角い穴のひとつにケーブルを通して、ボード上のコネクタに接続します。作業が終わったらフタを閉じておしまい。

 確かにこれならフタを閉めたままでも通常使用可能ですね。ですが…ケーブルの付け外しのたびにフタを開けないといけないのはちょっと面倒? 確かに毎日するものでもないですけど…。

 こういう構造を持つマシン、多くはないんですけどAppleIIのようにメジャーでないわけでもないんですよね。AppleIIの拡張ボードは本体のメインボードにあるコネクタに挿し(現代のPCのマザーボードの様式の始祖)、拡張ボードから直接生えたようなケーブルをケース背面に設けられた隙間から外に出すようになっているのですが、このMZ-80I/Oでも同様の方法を採用していると言えます。

 しかしながら、I/F規格の多くはコネクタにも規定があって、機構的に基板上にちょこっと置けるようなものでもなかったりして、そのあたりの反省なのかMZ-80Bではよくあるブラケットにコネクタがついている形に変わりました。


バススロットの信号

 ここで、拡張ボードのカードエッジ部…つまりバススロットの信号を見てみます。

  部品面 ハンダ面
1   DB7
2   DB6
3   DB5
4   DB4
5   DB3
6   DB2
7   DB1
8   DB0
9   GND
10   AB15
11   AB14
12   AB13
13   AB12
14   AB11
15 GND AB10
16 /RESET AB9
17 /MBUS AB8
18 /INTB AB7
19 GND AB6
20 /HALTB AB5
21 /M1B AB4
22 /WRB AB3
23 /RDB AB2
24 /IORQB AB1
25 /MREQB AB0
26    
27 +5V +5V
28 +5V +5V
29 GND GND
30 GND GND

 何も信号が書いてない欄は、文字通りというかなんというか、信号の割り当てられてない未接続の端子です。なんか多いですね…コネクタの端子が60もあるので余りまくってます。拡張の可能性を持たせたかったのかもしれませんけど…。

 信号の内訳を確認してみると、一応制御信号は一通り揃っているように見えて、例えばINTはあれどもシステムとしてモード0または1の割り込みを使用するせいでIEO/IEIがないとか、WAITもありません。WAITがないのは地味に痛いですね。入出力命令のデフォルト1ウェイトで足りるかな…。こんなことになっているのは、本体から出力されるバス信号がそうなっているからなんですけどね。

 Z80の信号としては見慣れないMBUSだけは説明が必要ですね。5スロットもあるのでバスバッファを入れて信号を強化しているのですが、データバスは双方向ですから方向制御が必要です。データバスがMZ本体側を向く制御の条件とは

のいずれかとなります。前者はI/Oリードを意味しますが、MBUSが使われるのはFDブートROMなどZ80のメモリにマッピングされるようなROMやRAMを読み出す場面を指しています。複数のボードで共有される可能性があるので、オープンコレクタにて駆動する必要があります(INTと同じですね)。

MZ-700での利用

 マニュアルやカタログでは一切言及されず、おそらく公式には無保証なのだと思いますがMZ-80I/OはMZ-700に接続して使用することができます。無保証なのは当然の話で、そもそもCPUクロックが違うのでバスタイミングも短縮されており、2MHz時代のデバイスと回路設計ではトラブルが発生しても仕方ないところがありますからね。

 MZ-700を入門機ではなく機能強化されたMZ-80K/Cとして使いたいヘビーユーザーの中には、一向に発売されない専用拡張I/Oユニットを待ちきれずバスコネクタの配列がほとんど同じなのを利用して、コネクタの形状が異なるのにもめげずに変換コネクタを作ってMZ-80I/Oを接続する人が現れました。

 変換コネクタの情報は雑誌に掲載されたりした他、経緯はわかりませんがなんとシャープ自身がMZ-1C18としてオプション販売するに至りました。但し、やはりカタログ等で告知したりはしなかったので知る人ぞ知る製品でしたし、これをもってメーカーの動作保証が行われたと解釈しない方がいいのでしょう。

 しかしまぁ、MZ-80I/Oが使えるとなればフロッピーディスクが使えるということで、MZ-700にはFD環境は84年4月ぐらいになるまで公式サポートがありませんでしたから、大きな価値があったと思います。実際に動かしてみたのがこちらです。

 変換コネクタだけであっさり接続できるのは、形状が異なるだけで大部分の信号とその配列に互換性があるからです。MZ-700ではMZ-80K時代に不足していた信号が追加され、MZ-1U03/06/08を使用することでMZ-80Bシリーズ互換のボードを接続できるようになりました。

標準規格化?

 MZシリーズなどに多数の拡張ボードを発売していたアイ・オー・データ機器が、1981年6月頃に発表した拡張I/Oユニットがあります。それがこれ。

 ひとつの広告の中で呼び名が揺らいでますが、PIO-BOXと呼ぶのがいいんでしょうかね。構造的には8スロットありますが本体との接続用に1スロットを消費するので、7スロット使えるということですね。

 ここで注目したいのが「対応マイコン」の文字。MZ-80K/Cは当然として、MZ-80B、PC-8001、IF-800とメーカーも機種もバラバラの本体に対応すると書いてあります。対応とは、つまりこのPIO-BOXがPC-8001やMZ-80Bの拡張I/Oユニットとして使える…ということですよ。

 これは、ある機能のボードを各機種それぞれに作るよりは、I/Oユニットをどの機種にでも接続できるようにしておけば、機能ボードはひとつ作るだけで良い…ということを狙った製品だというわけです。

 機能ボードを設計するのは手間ですし、もし既存品が多機種で使用できるとなれば量産効果も期待できるのでなかなか賢い手法ではないでしょうか。

 …などと思いながら古い雑誌を見ていると東映無線の広告にこんなものが…。

 電源容量といいスロット数といい、PIO-BOXなのかと思いきやケースのスリットの付き方が違うので、東映無線オリジナルの製品みたいです。MZ以外にはPC-8001のみ対応を予告されています。

 しかしこれ、なんなんでしょうね。アイ・オー・データの方は自社製品の適用範囲拡大策だと想像できますが、東映無線の方はオリジナルな機能ボードを販売してないので、まるっきり箱だけを売り出した格好です。MZ用のボードがいろいろ出ているので、PC-8001に接続できるようにしたら売れそうと目論んだんでしょうか。

 そうだとすると、これMZの拡張基板を業界のデファクトスタンダードみたいにしようとしたように見えますね。S-100バスみたいにシャープの作ったバスコネクタが業界標準になる未来もあったのでしょうか。

 もっとも、発表から1年と経たずPC-8001用リンケージカード(I/Oボードから名称変更)や増設RAMボード・シングルボードマイコンは発売されないまま広告から落ち、ほどなくI/Oユニット自体も消えました。なんだったんでしょうね? 最初の発表直後に担当者がいなくなったんでしょうか…。

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