資料に潜むプロトタイプを探る
Tweet工業製品たるもの、頭に思い浮かべたものがそのまま量産できるわけなどなく、企画・検討し試作を経て完成したものだけが世に送り出されるものですよね。試行錯誤の末選ばれなかったものは、会議室や実験室の外に出ることは普通ありません。新製品プロモーションの一環でそれがどれだけ考え抜かれて作られた物かアピール(いわゆる開発ストーリー)するために披露されることがないわけではありませんが、それも一部と言えるでしょう。
ところが、メーカーによる発表物を注意深く見ていると時々とても面白い物に出会えることがあります。様々な事情により、製品ではなく試作品やモックアップが掲載されたり、披露されたりすることがあるのです。それは当初予定されていた姿だったのかもしれませんし、間に合わなくて代わりに使われたのかもしれません。展示会などでは、開発中の技術を披露して来場者の反応を伺うというようなことも行われたりします。
ここでは、様々な資料に見え隠れする試作品や企画案をピックアップして、その背景などを考えてみます。
ハード編
★MZ-80K
佐々木正監修「マイコン読本」(エレクトロニクス・ダイジェスト刊)に描かれたMZ-80K。緒方健二氏によるイラストだと思いますが、よく見ると実際に発売された製品とはちょっと違いますね。カセットデッキのボタンの下にある「MZ-80K」という文字、右手前にある四角いもの…は試作機の特徴ですね。
「マイコン読本」はマイコン自体の働きを易しく解説するのが主題の本で、MZ-80Kに関する記述はあまり多くないのですがそれでも発売された仕様がちゃんと紹介されていますから、内容的にはMZ-80K発売後の書籍であると考えてよいと思います。しかしこのイラストと、外観写真については試作機のものが掲載されていますので、執筆時は試作機の物しかそういった資料がなかったということなのでしょう。
MZ-80Kは、PET-2001を参考にしながら当初はROM BASICが起動するなど発売製品とは異なる仕様の試作機が作られていたようです。どんなものだったのかはMZ-80Kのページをご参照ください。
★MZ-8BP4I(プリンタI/Fボード)
MZ-80Bが発売されて、プリンタも新しいシリーズに対応した製品がリリースされたタイミングで、2つのプリンタI/Fボードが発表および予告されました。MZ-8BP5IとMZ-8BP4Iという型番がついており、それぞれ80桁プリンタのMZ-80BP5と135桁プリンタのMZ-80P4Bに対応したものとされていました。
先に出たのがMZ-8BP5Iで、MZ-8BP4Iは価格も含めて予告されたのですが…なぜか発売されませんでした。MZ-80P4BにもMZ-8BP5Iを使うよう案内され、MZ-8BP4Iの情報は消えてしまいました。
MZ-80P4のパンフに掲載されたMZ-8BP4Iの写真は、どう見てもMZ-8BP5Iとしか思えません。ブツがなかったので代わりに掲載したんでしょうか? というかそもそもプリンタごとにI/Fが変わってしまう理由はなんだったんでしょう。何か特徴的な機能差が生じるような要素は思いつきませんが…。
★MZ-80A
海外でのみ発売されたMZ-80A。この写真はマニュアルに掲載された背面からの写真ですが、実際の製品と比べてCRTフード部分の放熱用スリットの数が少ないです。また、筐体の裾の形状が製品よりも広がってるように見えます。プラスチック成形品なのでどうしても裾が広がってる必要があるのですけど、これはちょっと広すぎですね。もしや、敢えてそういうデザインにしているとか?
そんなことより、MZ-80Aはある意味試作品がブラッシュアップされないまま製品化されたと言うか、中途半端感極まりない中身が余計な想像をかき立てます。企画段階、あるいは試作時に考えられていた仕様と製品の仕様が違っているのは間違いありません。どんなものかはMZ-1200との比較を軸に解説したページをご覧ください。
★MZ-2000
これは1枚もののパンフレットに掲載されたMZ-2000の写真。実際の製品とはちょっと違うんですが、わかりますか?
それはファンクションキーとカーソル移動キー、そしてファンクションキーのラベルカバー。ファンクションキーとカーソル移動キーはキートップの背が低いですし、ラベルカバーは透明な定規みたいなのが貼り付けてあるだけみたいに見えます。
おそらくこれはモックアップじゃないかな…と思います。ファンクションキーとカーソル移動キーの背が低いのはMZ-80Bのようにタクトスイッチになっているから…という可能性もなくはないんですが、80Bのウィークポイントでしたし、ここは真っ先に改良されていてほしい…。
裏面にはキーボード部を上から見た写真があって、それはちゃんと製品仕様になっていましたから、パンフ作成時にモックアップしかなかったわけではないと思うんですが…どうしてこの一番目立つ写真だけ製品ではなかったんでしょうか…。
★CZ-8DT(デジタルテロッパ)
初代X1(マニアタイプ)のカタログ(1983年3月作成版)に掲載されたデジタルテロッパ。よーく見ると、前面のデザインがちょっと違います。X1やSHARPのロゴの位置、黒い部分の大きさ…。インジケータとかの数も製品版と違うような気がしますし、ツマミもひとつしかないように見えますね…製品版ではこの位置にあるツマミはワイプですが、書いてある文字の雰囲気からすると音量バランスの方ですかね…。
それと、電源スイッチのすぐ左にパワーインジケーターランプがあるはずなのですが、これを見る限りそうなっていません(同じカタログにあるCZ-800Fでは採用されている)。周辺機器用筐体の大きさとかは既に決まっていたようですが、前面のデザインはまだもう少し変化する前のものなのでしょうか。
これ自体はモックアップの可能性もありますが、試作段階では機能がちょっと少なかったかもしれませんね。ちなみに同じカタログにあるシステム構成図もこのデザインで描かれていますので、決定デザインにかなり近かったのかもしれません。
★CZ-8VC(RFビデオコンバータ)
こちらも初代X1のカタログ(1983年3月作成版)に掲載された、RFビデオコンバータ。CZ-503Fに並ぶ「統一デザインに寄せることを放棄した」製品ですね。と言っても、コネクタ類がこの写真の左右に分配されていて、信号の流れが一直線になるよう配慮されているように見えます。外見よりも中身を優先しましたか?
でもまぁ、接続しやすさからすれば一つの面に全てのコネクタが揃ってる方がいいかもしれませんね。テレビの上に置くことを考えると、ケーブルが一旦左右にだらっと垂れているのは不格好ですしね。
ちょっと気になっているのですが、右側面に見えているRCAジャック、3つありますよね。実際の製品ではRF出力とコンポジットビデオ出力の2つしかありません。まさかもしかして…もうひとつは音声出力だったりしませんか? TVコントロールから得られる音声出力をRFに乗せることでテレビからX1のPSGサウンドが聞こえるようになっているのですが、この時はビデオも同じく一緒に出すつもりがあったように見えますね…。もっとも本体にもRCAジャックの形で音声出力がありますから、そちらをつなげば事足りるわけですが。
なおこのデザインのビデオコンバータもシステム構成図にはこの形のまま描かれています。
★CZ-8RB(BASIC ROMボード)
月刊アスキー誌1984年8月号「LOAD TEST No.33 SHARP X1」という記事に掲載された、BASIC ROMボード。実際の発売は初代X1発売から1年近く遅れるのですが、開発自体は初代の時からやってたんですね。配線パターンも製品と同じに見えます。
製品版と違うのは、SHARPロゴの下にあるべき型番が開発用コードになっていて、すぐ下にフリースペース、つまり修正や機能追加のためのICを搭載できる場所があること(製品では裏面にシリアルナンバーのシールを貼る場所になっていてフリースペースではなくなっている)でしょうか。ROMのICソケットが白いのは部品の都合、ROMに書かれている番号がIX型番じゃないのは開発中で未登録だから…でしょうね。
★MZ-1F06(3インチFDDユニット)
これは試作というか、試作止まりだった製品。MZ-2200のお披露目の場となったマイクロコンピュータショウ'83(1983年5月25日~28日)では、同時に発表された周辺機器も出品されていまして、その中には5インチFDDユニットであるMZ-1F07(単体ドライブのMZ-1F02とI/FのMZ-1E05と専用ケーブルのセット)と3インチFDDユニットのMZ-1F06がありました。
ご存じのとおりMZ-1F07は発売されましたが、MZ-1F06はキャンセルされてしまいました。同時期に発表されたPC-5000にはオプションで3インチFDDユニット(MZ-1F06と形状は異なる)が発売されています。見た感じ、そのFDDと同じドライブを使っているようです。X1Dの発売より前の話ですから、3インチディスクにまつわるもろもろの何かが問題でやめたとかあり得ません。型番も決まってますし、説明パネルには「新製品」と書いてあるように見えますし、どうしてやめちゃったんでしょうね…。
★MZ-1F07(5インチFDDユニット)
MZ-2200と同時ぐらいにデビューしたMZ-1F07。上でも書きましたが、MZ-1F06と違ってこちらはちゃんと発売されました。じゃあなんでここにあるかと言うと…ドライブのベゼルの周辺が、白いのですよ。なんと堂々と、MZ-1F07のパンフの表の写真がこれなのです。
MZ-1F07は既に発売されていたデュアルFDDユニットであるMZ-1F02に、MZ-700用のROMソケットを備えたI/F・MZ-1E05と接続ケーブルを一揃えにした製品です。MZ-1F02はMZ-3500用の増設FDDユニットであり、MZ-3500のカタログを確認してみるとこの部分は黒いのです。
最終的な製品としてはMZ-1F02と全く同じカラーリングで発売されましたから、せっかくコストダウンしたのに余計な工程とか部品を増やすのはやめようということになったんでしょうか。MZ-2200関係のパンフを見ると、写真のMZ-1F07は全部ベゼル周辺が白くなっているので、もしかすると色調を統一する意図があってそういうデザインにしたんじゃないかという気もするんですよね…。
★X1turbo
昔ヤフオクに出品された、X1turboの試作品とされる機体。写真だけ拝借しました。ソフト等を開発するために作ったものでしょうか? 天板や背面板は銀色ですし、前面の樹脂部分も樹脂の地の色のままです。背面やポケット内の端子やスイッチ類の説明はラベル貼りされており、明らかに量産品でないとわかります。前面ポケットのフタだけが色やSHARPロゴが製品と同じですが、後年ジャンク品から移植したものかもしれません。
唯一違うのはポケット内のパーツの配置で、マウスのコネクタがずれてるとかボリュームツマミらしきものが変な所から出てるとか、どう考えても基板自体が違うとしか思えません。背面のコネクタ類は製品と同じ位置にありますので、一部だけが試作部品を使っているということなんでしょうね。
これはX1turboの広告やパンフに掲載されていた画面写真で、レーダーチャートとそれを説明する日本語という取り合わせでビジネスにも使えそうな表現力をアピールする体裁を取りながら、実は他機種との比較グラフになっているという巧妙な一コマです。この「No.500」がX1turboの開発コードなのだそうです。ということはこの図も企画の際に描かれた可能性があるんじゃないかという気がします(新製品発表時の説明用かもしれないけど)。
No.500がX1turboだとして、「PROTOTYPE」と「TYPE A」はそれぞれ何なんでしょうね。Cの「ユーザー フリーエリア」とDの「漢字表示 スピード」ではTYPE Aがチャートの目盛りを超えてマークされてますから、この時代でX1turboよりRAMが多く使えて漢字表示も速いとするとPC-9801E/Fあたりでしょうか。PROTOTYPEはPCGとキャラクタ倍文字とプライオリティとサウンドでNo.500と肩を並べていますし、その単語の意味合いからして試作機ではなく前モデルのノーマルX1を指しているのではないかと思います。
こういう図はメーカーの気持ちとしてアピールしたい機能が何なのかを示していて興味深いです。2HDとかHDDのサポートが挙がってないのも面白いですね。すぐ使用するユーザーは限定的とみて、本体だけで遊びたい人なら何に注目するだろうかということを考えた結果ということなんでしょうか。
★CZ-501F(5インチFDDユニット)
エレクトロニクスショー'84(1984年10月4日~9日)にて、新発売のX1turboと同時に様々な周辺機器も出品されました(従来のX1シリーズとの高い互換性をアピールするため)。そして近い将来発売するであろう(もちろん1984年末の希望的観測)周辺機器もそこにありました。この写真のX1turbo本体の左側にあるのは5インチFDD、掲載されていたOh!MZ誌1984年12月号のレポート記事のキャプションによればこれを「CZ-501F」として案内していたようです。
実際の製品ではX1turbo本体と同様の2ドライブ横置きデザインだったわけですが、この写真だと同じ2ドライブながら縦置きになっています。一応X1turboロゴも見えるようですし、側面に「FLOPPY DISK DRIVE」とか書いてあるっぽいものが見えますね。
X1Cs/Ckの時代までは周辺機器にローズレッドのカラーバリエーションを採用する傾向が強くなっていたのですが、これ完全に真っ黒です。確かに実際の製品も真っ黒でしたからそのままではあるんですが…。X1シリーズのカラーバリエーションを考察した際、X1turboIIからに見える黒を基調としたデザインが実は周辺機器から先に取り入れられているという指摘が、さらに遡ってX1turbo発表時から有効であるということになるのかもしれません。もうこの時点で、黒一色のX1turboの登場は十分予想できたということなのでしょうか…。
★8インチFDD
同じエレクトロニクスショー'84に、8インチFDDも出品されていました。同様に参考出品されていたHDDなど、X1turboの特徴である「多種のメディアを接続可能」ということをアピールするために持ち込まれたのでしょう。
SHARPとX1turboのロゴもついてますし、キレイに黒塗りされたスタイルからしていかにも「売りますよ」という雰囲気が感じられるのですが…う~ん…これ、シャープ純正の8インチFDDであるMZ-1F05(MZ-3500/5500/6500用)のドライブを交換しただけのものみたいですね…。ベゼルの形状からして、ドライブはNECのFD1165-Bでしょうか。左側のドライブにディスクが挿入されていますし、多分実働展示していたんでしょう。そのためにも製品としても引けを取らないスペックでデモ機を作る必要があるので、8インチFDDとしても真っ当なMZ-1F05を流用したんでしょうね。
だからこれ自体は展示以上の目的がなくて、発売計画がないから型番もないということなんでしょう。CZ-501Fは形状が大幅に変わっても発売計画があるから商品化されたのと対照的というわけなんでしょうね。
…あれ!? ちょっと待てよ? もしかして上でCZ-501Fとされているものは、実はMZ-1F07(またはMZ-1F02)を黒く塗ってX1turboロゴを付けただけのドライブユニットだったりするとか? MZ-1F07のPOWERインジケータ近辺にPOWERっぽい文字もあるような気がするし? 発売計画とか横に置いて、展示には間に合わないからこいつも流用で済ませた可能性もあるかもしれないな…。
★ハードディスク
エレクトロニクスショーの会場にあったHDD。実際に発売されたCZ-500Hは黒い直方体なのである意味この写真のとおりなのですが…微妙に違うような…?
SHARPロゴの横にX1turboロゴもありますね。その右の方にあるのは電源インジケータでしょうか。アクセスのインジケータは? それに、その下にあるはずの電源スイッチも見当たらないような…?
電源インジケータのところの縦に入った色の濃い意匠は、実際の製品にも受け継がれていますが、この写真だと表面加工がちょっと違っているようにも見えますね。実際の製品では表面加工に違いがないので縦線があるだけになってます。それに、ちょっと前面の縦横比が等分に近づいているような…。
これもやっぱり何かの流用なんでしょうか。型番も決まってないし参考出品だし、この時点では純正品を発売する予定はなかったとか? とすると8インチFDDとの違いが気になりますね…。
★カラーイメージボード
これはOh!MZ誌1985年7月号掲載のマイクロコンピュータショウ'85(1985年5月22日~25日)のレポート記事の一コマで、「カラーイメージ入出力端末装置」とカラープリンタIO-720のデモ風景です。モニタ画面の下の箱(IO-720説明パネルの裏)がその装置なのでしょう。
カラーイメージボードCZ-8BV1が発表されるのはこの年の末頃、X1turboIIと合わせてでしたから、おそらくこの展示はそのものズバリでなくともカラーイメージボードに何らかの関係があるものなのではないかと思われます。
マイクロコンピュータショウ'85はX1turboとX1turboIIの間にある展示会ですが、パソコンにビデオ画像を取り込む装置については実はかなり前から開発していたのではないかと思われます。X1turboが発売された時のデモプログラムに、カラーイメージボードを彷彿とさせる特徴的なパターンのある画像が表示されるシーンがあるのです。
おそらくこれらは、カラーイメージボードの原形となる装置で取り込んだ静止画だと思います。これらの画像はX1turboIIやX1turboIIIに付属したデモにも使われています。
これらの開発が進み、一般にお披露目できるレベルに達したのがマイクロコンピュータショウ'85での展示であり、商品化されたのがCZ-8BV1ということなのでしょう。
★MZ-2500
1985年8月下旬~9月上旬頃、おそらく販売店向けだと思いますがMZ-2500の商談会がシャープのショールームなどで行われ、参加者に資料が配付されました。その資料は以後配布されることがなかったひじょうに特別なものだったのですが、そのうちの冊子に企画案と思われるイラストや写真が4点掲載されていました。
冊子がMZ-2500のコンセプトを伝えるためのプロモーションブックという体裁をとっているため、このイラスト類も実は冊子作成のために描かれたフェイクである可能性を捨てきれないのですが、イラストに含まれる情報が当を得ていて、作成するコストも考えると実際に検討されたものと考えた方が素直なのではないかと思います。
それぞれのイメージイラストおよびモックアップがどんなものか、こちらで解説しております。
ソフト編
★MZ-80K(モニタ・BASIC)
佐々木正監修「マイコン読本」(エレクトロニクス・ダイジェスト刊)に掲載された、MZ-80Kの外観写真のCRTに開発途中のBASICが映り込んでいます。まぁはめ込み合成なのかもしれませんけど…。
MZ-80Kのページでもいろいろ考察していますが、ROMモニタの独立した起動メッセージがないことが「ROMから起動するBASIC」を示唆していますし、LOADコマンドの応答が「PRESS PLAY ON TAPE」だったり、一方で画面クリアやカーソル移動などの制御文字が開発バージョン「SP5000B」の当時からサポートされていたらしいことも読み取れますね。
★MZ-80B(JIS漢字コード)
MZ-80Bの総合パンフ(冊子およびA2サイズのもの)に発売予定として掲載されていました。また漢字の表示された画面写真風のものは雑誌広告にも使われたので、見覚えのある方が多いかもしれません。
JIS漢字コードとは漢字フォントを収めたディスクを用いて漢字ROM代わりにしようというユーティリティで、漢字ROMが高価な時代にはよく試みられていた日本語表示方法です。漢字フォントは1文字あたり32バイトで構成されますから、2D(35トラック仕様だと約280KB)のディスクには8000文字以上収録できる計算になります。実際にはJIS第一水準の漢字が一通り収録されていたようです。またディスクには漢字フォントの他、外字を制作できるプログラムなども収録されていた模様です(上側の画面写真)。
パンフに掲載された製品写真はぱっと見たところ発売の準備が整っているかのようですが、よくよく見てみるとマニュアルは「JIS漢字コード」と書かれている部分がシール貼りだったりして、どうやら撮影用に体裁だけ整えたもののようです。なおディスクのラベルのデザインや表記から、この製品はシステムソフトではなくアプリケーションというカテゴリで開発されていたと考えられます。
画面写真が存在することからもわかるとおり、ある程度製品に近い形にはなっていたようです。評価目的と思われるのですが、一部のユーザー会などにコピーが配布されていたようで、Oh!MZ誌82年10月号にはユーザー会のメンバーによる記事にて画面や印字見本が紹介されたこともありました。
結局MZ-80Bの時代には何らかの漢字表示手段がどこからも提供されることはなく、1982年にI・Oデータ機器から漢字ROMボード(PIO-3055)が、キャリーラボからワープロJETシリーズが発売されるまで日本語環境が不自由な状態が続くことになったのです。
発売されなかったJIS漢字コードは、なんとMZ-80B/2000/2200のBASICマニュアルのPATTERN文の説明にその痕跡を留めていました。右側のはMZ-80Bのパンフの画面写真と同じものですね。左側のは説明で「漢字データ作成プログラム」とされていますが、明らかにJIS漢字コードのユーティリティですね。どうせ凝る必要もないですし、漢字データ作成プログラムはBASICで書かれていたのでしょうか…あり得そうな話ですね。
★MZ-700(DISK BASIC)
MZ-1500用DISK BASIC・MZ-2Z032の消去されたファイルを復活させたら発見しました。型番どおりのMZ-2Z009に入ってなくて、MZ-1500の方にあったというのがちょっと面白いですね。
消去されたファイルはMZ-2Z009の方が断然多いのですが、気づいた人だけが得をする「オマケ」というのは副次的な話で、おそらくアクセスルーチンが多数のファイルが記録されているディスクを正しく操作できるか…を確認した痕跡なのではないかと思います。ユーザーディスクだけではなくシステムディスクでも確認する必要がありますから、それがマスターディスクとして提出されたのでしょう…きっと。
★X1turbo(BASIC)
店頭デモの起動システムとして使われていました。X1turboには短いながらデモプログラムが収録されていましたので、特製の店頭デモが配給されていないお店ではそちらが実行されていたケースも多かったでしょうね(個人的にも見たことなかった)。
ハード編でのエレクトロニクスショー'84のX1turboの画面に映し出されているのがその店頭デモです。エレショー'84が10月4日からなのですから、起動メッセージに見える9月22日(BASIC自体のタイムスタンプは9月21日)ということはその半月前くらい、ということになりますでしょうか。
バージョンは2.1とのことですが、製品のCZ-8FB02はV1.0として出荷されているのですから、いったい何から数えての2.1なんでしょうね。CZ-8FB01のV1.0からの2.1?
★MZ-2500(BASIC-S25)
パソコン通信ホスト局「Telestar」デモの起動システムとして使われていました。Telestarデモはショップ店頭やシャープショールームなどで展示されていたのではないかと思いますが、個人的には見たことがありません。が、月刊I/O誌1985年9月号(8月18日発売)のMZ-2500レビュー記事に一部の画面写真が掲載されており、ここに掲載したバージョン番号と併せて考えると、シャープから提供された評価機に添付されていたのがこのBASICだったのだと推測できます。
Oh!MZの方のレビュー記事でも、記事執筆時に参照できたバージョンが0.3だと書かれてますので、おそらくそのBASICとほぼ同じものなのでしょう。ただ記事ではM25の内容が多く、しかしこのTelestarデモではS Basic以外選択できませんので、完全に同じものというわけでもなさそうです。
1枚目の画面はSys Loaderのものです。この段階で既に二段ロード構成になっていたんですね。製品ではSuperMZロゴ入りの立派な画面ですけど、こちらは6つの四角の下からゲージが上がっていくぐらいしか目立ったものがありません。
そして2枚目の画面では、やはり起動メッセージがシンプルで、しかもよく見ると「MZ-2Zsss」とメディアを表す数字が「2」になっています(3.5インチでは6になる)。
その下のファイルの一覧について、先に"auto-run.s"を断っておくと、デモが自動起動しないよう消したらエラーと言われるので(そりゃそうだ)、製品版の"auto-run.s25"をここにコピーしてきました。製品版と異なり拡張子がs25ではなくsとなっています。
D-IOCS managerてのはアルゴマネージャでしょうね。ただアルゴキーを押してもアルゴ機能が起動しません。"電卓(calculator)"はあるしサービスプログラムの選択画面で使用するにしているんですが…。
日付が何かの手がかりになるかと思いましたが、ちょっとよくわかりませんね。61年て昭和でもずれてますし、西暦年だと1961年になってしまう…。
★MZ-2800(MS-DOS・BASIC-M28)
店頭デモ(タイプライター/世界は日の出を待っている)の起動システムとして使われていました。MS-DOSもBASICもバージョン0.7Aですね。BASICの方の型番、製品版だと「6Z016」と"MZ-"がついてないんですが、こちらには入っています。まぁそれについては表記ルールが揺らいだりしてましたので、シャープ社内(or 協力会社)でもちょっと混乱したりしてたんでしょうかね。